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結果的に言うと、天野とのデートは楽しかった。やはり人気者だけあって話はとても面白かったし、でも間延びしたようなゆったりする話し方だから、口下手な俺も落ち着いて喋ることが出来る。今まで話した事もなかった人といるのに居心地が良いなんて、俺の人生の中であっただろうか。
「丸山~、今日デートしよう~!」
あれから天野とは何回か遊んでいる。基本天野から誘われる事が多く、その時はいつもデートというお決まりの言葉を使ってのお誘いだ。
「今から?うん、良いよ」
「やった~、ねぇ、今日は夜遅くまででもいける?」
「まぁ学校帰りだから多少遅くなってもしょうがないと思うけど…」
「オッケ~、場所はもう俺が決めてるから今日は丸山は着いてきてくれるだけで良いよ~」
「?おう……」
いつも以上に緩い笑顔を見せてくる天野に少したじろいだが、何か良い場所でも見つけたのだろうか。
「じゃあ、早く行こ~」
帰り支度をしていた俺の鞄を手に取ると、天野は颯爽と教室から出て行ってしまった。
ゆったりな話し方や動作がいつもの天野なのに、やっぱり今日はなんだか生き生きと動いてるように思える。
まだ深い付き合いでもないし全てを知っている訳ではないけれど、自由人でフラフラと何処かへ先へ行ってしまう天野がプランを立て時間が惜しいかのようにさっと行動へ移す姿が、俺には何となく疑問に感じてしまうことだった。
「すっごい楽しかった!俺、ジェットコースター久々でさ!」
「丸山が前に遊園地好きって言ってたからね~、ちょっとサプライズで連れてきちゃった」
天野の様子に疑問を抱いていた事など忘れ、天野に着いていくまま到着したこの遊園地で俺は思いっきり楽しんでいた。
気づいたらもう夜で、平日の遊園地というまばらにいた客も気づけばもう俺たちしかいないようだった。さっきまで思いっきりはしゃいで楽しかった気持ちが、もう帰る時間なんだと実感した途端落ち着きを取り戻し、もうこの場所から出てまたいつもの日常に戻るのだと寂しさを感じた。
普段あまり見上げることもなかった星空を柄にもなく眺めていると、自分の冷たい手をふと何かが優しく包んでくれるかのように触れた。
「もう少しだけ俺に付き合って」
天野はそれだけ言うと俺の手を掴んだまま何処かへと進んでいく。
なんで男同士で手を繋ぐのか、気持ち悪いだろとか言うことは色々あったのかもしれない。でも俺は息苦しく感じるほどに何も言えなかった。それは天野のいつもの緩い笑顔の中に、少しも笑っていない冷たさを持つほどの真剣な目があることに気づいてしまったからだ。
繋いだ手がだんだん同じ温度を共有して一体になっていくのを感じながら、俺は何も言わない天野の背中を追って、連れて行かれるままに足を動かすことしか出来なかった。
着いた先は、遊園地から少し離れた港が見える橋の上だった。ビルや遊園地の観覧車の明かりがイルミネーションのように光って、夜を感じるロマンチックな場所だ。
(ヤバイ……何かがおかしい……)
いよいよ只ならぬ違和感が俺の心を覆った。
前から行きたかった遊園地へ連れてきてくれたこと、手を繋ぐという男友達にしては近すぎる距離感、見たことのない真剣な目、そしてこのロマンチックな場所………
(待てよ……これじゃまるで……)
「ねぇ、丸山」
「な、なんだっ?」
ここに連れて行くまで俺に背を向けていた天野が、俺の方へと向き直った。自然と手が離れたことに内心ほっとしたのも束の間、今度は俺の両手をどこぞの国の王子かのように優しく手に取った。
「今日で5回目のデートだね。」
「う、……うん。」
天野の声はとろけるようにどこまでも優しい。でも俺はその声に落ち着くどころか、全身の熱が閉じ込めたように暑くて、心臓は先程から感じていた違和感のせいで今までにないくらいドクドクと鳴っていた。
「ふふっ、丸山緊張してる?」
「……なんか分からないけど、してる…かも…」
「だいじょーぶ、俺もすごい緊張してるから。一緒だね~」
どうして…?
そう俺が尋ねようと口を開きかけた時、繋いだ手にさらに力が込められた。
「最初に丸山と話したのは体育の自由時間の時だったよね。その時はさ、丸山のこと可愛いって軽く言っただけだけど、あれ、本気だよ……」
それから天野は整えるように息をふっと吐き出すと、俺の目を見つめながら言った。
「丸山、俺と付き合ってください。」