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女々しい俺のデートとは  作者: 山猫ねっこ
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2

体育の自由時間で一人、体育館の隅で膝を抱えて座ってる奴って中々いないよな…………


その中々見ない寂しい光景は、たった今俺が作り出しているものだ。

今日に限って数少ない仲の良い友人は欠席し、俺はただこの自由時間を誰と戯れることなく一人で過ごさなければならなかった。


こういう時、気にすることなく一人の時間を楽しむことが出来るクールでかっこ良い人間ならば楽だったのかもしれない。しかし、この女々しい性格のせいで一人で過ごすこの時間は、苦痛以外の何物でもなかった。


体育館の真ん中で堂々とバスケをするクラスメイトがなんだか眩しく見えてくる。眩しいというか何か霞んで見えるというか、というか今俺は………………



「あれ、丸山ひょっとして泣いてる~?」


その間延びした突然の声に俺は思わず顔をあげた。


そこには、色素の薄い栗色の髪に天使のような美しい顔をした男が、俺の顔を不思議そうに見ている姿があった。


その男の名は天野アキ。その美しい爽やかな容姿で男女問わず憧れの眼差しで見られている人気者であり、俺のクラスメイトである。残念ながら話したことはなくクラスメイトでありながら友達という関係性ではない。


そんな奴に突然話しかけられ顔を上げたまま固まってしまった俺に構わず、そのまま天野は俺の横に同じく体育座りで座った。


「こんな隅で何で一人で泣いてるの~、寂し過ぎて泣いちゃった?」


「は………い、いや、泣いてないから。何でそうなるんだよ。」


しどろもどろになりながらも否定したが、微かに濡れている目元が実際に少し泣いた事を物語っている。でも断じて、寂しさから出た涙ではない。そこは否定しなければ男として本当に恥ずかしい。


「ふーん」と言いながらも疑いの目を向ける天野に顔を背けた。


これで話は終わりなのだろうか。

だが、天野は一向にここから立ち去る気配がない。


いくら一人が寂しいといえど、俺とは程遠い所にいる人気者と二人きりと言うのは何を話したら良いかも分からないし、何となく居心地が悪かった。




「……あの、俺の名前知ってたんだな。」


何とも自虐的な話題だなと我ながら思いつつ、そう思っていたことを口に出してみる。


すると天野は、眠たそうにしていた目をぱちくりと丸くすると、柔らかい笑顔で俺の顔を覗き込んだ。


「知ってるよ~丸山健斗でしょ。

地味に可愛いから知ってた。」


「は、?か、かわ………」


「俺、可愛い子ってすぐ目につくタイプでさ、丸山ってオドオドしていてなんか可愛いみたいな~」



目の前にいる男は俺を馬鹿にしているのか。

オドオドして可愛いって何だ。天野のその間延びした口調がやけにまた俺をイラットさせる。


「…なんか馬鹿にされてるように聞こえるんだけど……」


「いや?馬鹿にするとかじゃなくて、本当に可愛いなって思ってるんだって~」


天野は否定しつつも焦った様子はなく、むしろヘラヘラ感が増している。本当に馬鹿にしているつもりはなくても、男相手に本気で可愛いと思っているのなら、それはそれでよく分からない。やっぱり俺とは遠い場所にいるだけあって、今までに会ったことのないタイプの人間だ。


「ま、いいや~とりあえずさ今度デートでもしよっか!ちょうど空いてる日もあるし、丸山はどう?」


「デ、デート…………?」


一瞬だが気持ち悪さを感じた。自分でも分かるくらい顔が引きつっているのだが、天野は気にした様子もなく相変わらず天使の様な笑みでこちらを見つめてくる。


「あはは、そんな固くならないでよ~そりゃあさ、あんまり話したことは無いかも知れないけど俺たちクラスメイトじゃない。」


そう言うと天野は俺の肩に手を置いてきたのだが、それにまた俺は固まった。でもこれは、俺のコミュ障を伴った女々しさのせいなのだろうか。広い友人関係もなくよく分からないが、今どき男子も「デートするか~」「お~デートしようぜー」みたいに軽いおふざけで言うかもしれない。それによくよく考えたら、天野が俺なんかに真剣にデートして下さいなんて言うわけないだろう。なんだか、真に受けた自分が恥ずかしい。


「お、おう…デ、デートするか……!」


初めて言う台詞に緊張しつつも、学校の人気者と友達らしく話せたことはなんだか嬉しいかった。デートという言葉のせいで恥ずかしさもあったから、天野の顔を見ながら言えなかったのはしょうがないだろう。



だから俺は気づかなかった。

天野がより一層深く笑みを浮かべたことに。


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