8 冒険者、魔鉱石!
女神様の提案に乗り、シャーロットと旅に出ることを決めた俺は彼女の肩に乗り街の中を進んでいた。
「でもさこれからどうするんだ? 今更だけど俺ただの魔鉱石だぞ? そんな俺に手伝えることなんてあるのか?」
「それなら大丈夫じゃない? 私がこの世界にあなたを転生させたとき魔力付与、形状変化、修復、全魔法特性の4つをあげたから、それなりに戦えるんじゃない?」
「あぁ、そう言えばそんなスキルがあったな。あれてことは吸収はやっぱり俺が元々持っていたスキルってことか」
「吸収? それってどんなスキルなの?」
「魔力を取り込めるんだよ。大気中からも常時取り込んでるみたいだけど……、そうだ見てろよ」
俺はスキル 吸収発動。
シャーロットの肩から彼女の魔力を吸い込んだ。すると見る見るうちに彼女の額には汗が流れ、顔色は悪くなり、遂にはその場にしゃがみ込んでしまった。
「ちょ、なにこれ」
「あ、悪い悪い。こうやって触れてるものからも魔力を吸い取れるんだ」
「そう言うことは説明だけでいいのよ!」
シャーロットは怒りに満ちた瞳をこちらに向けた。
いや、悪い悪い。竜から魔力を貰っていた時の感覚で吸い取ったらだめだよな。
すまなかった!
「……まったく、もう少しで魔力欠乏になるところだったわ!」
「ごめんって。もうしないからさ」
「ったく……」
シャーロットは息を整えているがまだ少し息が荒い。
このスキル、使い方を間違ったら大変なことになりそうだ。
「……さぁ着いたわよ」
「なんだここ?」
シャーロットはしばらく街の中を進むとある建物の前で立ち止まった。
周りの建物より数倍はありそうな巨大な建物。
扉の前には鎧を身に着け、武器を持つ男達が集まっている。
その建物にはこう書かれていた。「冒険者組合」と。
「冒険者組合……、確かゲームとかでもある冒険者の派遣会社的な奴だよな」
「うーん、まぁそんな感じね」
「そう言えばグリエルがお前のこと冒険者って言ってたな」
「ま、まぁね」
シャーロットはどこかぎこちない笑みを浮かべながら建物の中へと進んでいく。
これが冒険者組合。なんだか強そうな人たちがいっぱいいる……。
それよりも周りの冒険者達、なんだか俺達を見て笑っているような。
「おう、嬢ちゃんか。依頼はどうなった??」
シャーロットは周りの目など気にしていないのか淡々と進み、受付の様な場所で禿げた小さな男に懐から何かを取り出し手渡した。
「はいこれ。依頼の薬草よ」
「どれどれ……、確かに依頼のものだな。だが依頼の量には到底足りていないみたいだが」
「そ、それは……、採集中に悪戯妖精に邪魔をされて」
そのシャーロットの言葉に、周りからは大きな笑い声が上がる。
「ハハハハハッ、悪戯妖精(ピクシ―)だってよ! あんなの子供でも追い払えれるだろ!」
「違いねぇ。おいシャーロット、お前もう冒険者なんて辞めちまえよ」
シャーロットは何も言わない。だがその目は赤く充血し硬く拳を握っている。
俺もこいつの事は好きではない。俺をこの世界に転生させた張本人だからな。
だけどこいつら、流石の俺も腹が立つな……。
唯一笑っていない受付の男だったが、小さくため息を付くとシャーロットが手渡した薬草を受け取り銀貨を一枚渡す。
「全く……。まぁこの分だけの報酬は渡しておこう」
「ありがとう。それと今日はもう一つ用があるんだけど」
「用? なんだ??」
シャーロットは俺を肩から降ろし、受付へと置いた。
おっさんと俺の間に流れる沈黙。そんなに見つめないでくれ。
「こ、これは??」
「魔鉱石よ? 見て分からない??」
「い、いやそれは分かってるさ。聞きたいのはその魔鉱石をなんでここに置いたかだよ」
「えっとね、何て言えばいいか分からないんだけど……。この魔鉱石、冒険者登録してくれない?」
「…………はぁぁぁぁ?!?!」
受付の男は目を見開き固まる。
それもそうだ、だって俺一見ただの石ころだもん。そんなのを冒険者登録したいとか正気を疑うよな普通。それに……。
俺の予想通り、シャーロットの言葉を聞いた冒険者達から更に大きな笑い声が上がった。
「ハハハハハッ、遂にシャーロットがおかしくなったぞ」
「魔鉱石が冒険者だって? なら俺はこの酒を冒険者にするぜ」
「それなら俺はこの剣だ」
冒険者達はかわるがわる口を開く。
しばらくは黙っていた俺も、遂に我慢できなくなり声を荒げた。
「黙って聞いてれば、俺をその辺の魔鉱石と一緒にするんじゃない!」
「…………へ?」
「全く。おい受付のお前! 近頃の冒険者は礼儀もなっていないのかね??」
「ユ、ユウヤ、口調がおじいちゃんみたいになってるわよ」
「おっと、俺としたことが」
俺の言葉に冒険者組合の中は静まり返る。
だがその後、今まで以上の声が建物中に湧き上がったのは言うまでもない。
「な、なんだ?! 今こいつが喋ったのか!?」
「あ、ああ俺もそう聞こえた! 嘘だろ、魔鉱石が話すなんて」
フフフフッ、もっと驚けもっと驚け!
俺をただの魔鉱石だと思っていたことを後悔するんだな!
俺とシャーロットを取り囲むように群がる冒険者達。
だがそんな彼らは突然再び静まり返った。受付の奥から人影が現れたからだ。
「なんだい騒々しいね」
「冒険者組合長……」
冒険者組合長。つまりこの冒険者組合のトップってことか。
一体どんな強そうなやつが現れるのか……、ええ??
俺は筋骨隆々の大男が現れるものだと思っていた。
だが現れたのは青い髪を持つ美しい女性。服も布を身に着けているだけの様。
ただ身長だけは190cm近くあったけど。
「何があったんだい?」
「じ、実はシャーロットがこの魔鉱石を冒険者登録してほしいと」
「へぇ、魔鉱石を」
受付の男の声を聞いた冒険者組合長は俺に視線を向ける。
いつの間にか周りの冒険者達は元居た場所に戻りこちらを見つめていた。
……なにこの威圧感。あいつらがいなくなったのも分かる気がする。
「シャーロット、冒険者には人間、それと同等の知能を持つ種族だけしかなれないのは知っているよね?」
「は、はい! でもその点は大丈夫です! ねぇユウヤ!」
「……こんにちは」
俺が声を出すと、それまで表情を崩さなかった冒険者組合長も目を見開く。
「なんと、あんた喋れるのかい? いや800年生きてきて喋る魔鉱石は始めて見たよ!」
8,800歳!? え、どう見ても20、30代だろ。
俺が驚いていることに気が付いたのか、シャーロットが話しかけて来た。
「冒険者組合長、ローリエン様は妖精族なのよ。だから800歳でも妖精族の中じゃまだまだ若いのよ」
「な、なるほど」
「おいおいシャーロット。女性の年齢は口にするもんじゃないよ? でも喋る魔鉱石か……。確かに知性もありそうだし、冒険者になる資格はあるかもしれないが。あんた、流石に武器は持てないよね? 冒険者はモンスター討伐の依頼が多い。武器も無いようじゃ冒険者にはなれないよ?」
武器か……。確かに俺は武器は持てないな。
体から棘を出した時みたいにすれば何とかなるか?
いや、待てよ……?
「武器は持てない。でも武器になることは出来るぞ? ……剣!」
俺はスキル 形状変化は発動。
体をグリエルの工場にあった剣へと姿を変えた。
その美しい姿に、周りからもどよめきが起きる。
それはローリエンも同じだ。
「ほう!! なんと美しい剣か。 これであれば大抵のモンスターは切れそうだ。それにしてもお前は体を変化させることが出来るのか」
「そうだ。まぁ見て触れて、変化する物の情報を俺が持っていないとなれないけどね。あと動物に変化するとかも無理だ」
「なるほどな……、了解した。おい、登録証を持ってこい」
ローリエンはしばらく考えた後、受付の男に振り返る。
「正気ですか冒険者組合長! 魔鉱石を冒険者にするなんて」
「お前はこの私に口答えをするのか??」
「い、いえそう言うわけではありませんが、前例が……」
「そんな物、これから出来るではないか。この魔鉱石が冒険者になればな」
「……承知しました」
受付の男はとうとう諦めたのか、受付の奥へと消え中から金属製のプレートを持ってくる。
どうやらあれが登録証というやつのようだ。
そう言えば同じものをシャーロットも身に着けているな。
「これに触れ、名前を言え」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ。後は登録証が魔力量や魔法特性を勝手に測り登録は完了だ」
「そんなものなのか」
もっと色々と面倒な手続きがあるのかと思ったけど。
日本の役所にもあればいいのに、登録証……、まぁ今の俺には関係ないか。
「……ユウヤ」
ヴゥゥゥゥゥン。俺が名前を言うとプレートが光り、プレートの中には俺の名前が刻まれていく。
「これで登録は終わりだ」
「ありがとうございますローリエン様。それじゃあほら、次に行くわよユウヤ!」
「え、ちょっともう行くのか」
シャーロットに捕まれ、抵抗する暇もなく建物の外へと連れ出される俺。
そんな俺達を見送ったローリエンだったが、受付の男が持ってきた俺の登録情報を見て驚愕した。
「MP100万超えだと!? これは本当なのか!??!」
「は、はい。間違いありません」
「……ハハハ、私はとんでもない物を冒険者組合に入れてしまったのかもしれないな」
ローリエンのこの予想。遠からず彼女はこの予想を身をもって味わうことになるのだった。