7 声の正体!
「私はメルダ。そこにいるシャーロットの上司、そしてこの世界の女神をさせていただいている者です」
女神……、なるほどこの馬鹿天使の上司さんなのか。
そんな人が俺に何の用なんだろうか?
「そこにいるシャーロットがあなたにしたこと、これは到底許していただけるこのとは思っておりません。ただ追放したとはいえやはりその子は私の可愛い部下、いえ子供同然なのです」
「はぁ、それで……?」
「私は彼女にその世界を魔族から救うまでは天界に帰ることを許さないと言いました。これは他の者達の手前そうするしかなかったのです。そこで鳳勇也様、あなたにお願いがあるのです!」
うん、何だかこれは何を言われるか予想が出来るな。
まぁ、聞いてやるけど。
「お願い、ですか。それでそのお願いってもしかして」
俺の言葉に女神様は一呼吸置いたあと、ゆっくりとした口調で話す。
「どうかシャーロットに力を貸して欲しいのです! どうか、私の願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
女神様の言葉は俺の予想通りだった。
だがこんな体にされた俺がシャーロットに手を貸す謂れは無い。
そんな俺の考えを見透かされているように、女神様は話を続けた。
「もちろん勇也様にもお礼はさせていただきます。シャーロットが魔族から世界を救った暁には元の世界に戻させていただきます。いえ、それ以外にも何か願いがあれば何でもおっしゃってください」
「元の世界に、ですか」
女神様の言葉に、俺はすぐに答えることは無かった。
元の世界と言っても、既にこの世界で100年近く生活してきた。
元の世界に未練がないわけではないが、今更戻すと言われてもそれほど心に響かないのだ。
かといって他の願いがあるかと言われると……。
俺はしばらく考えた後、気になっていたことを尋ねる。
「……今は少し思いつきません。それよりも女神様、あなたの姿を見ることって出来ますか?」
「え、ええ。その世界に現れることは出来ませんが、あなただけに見えるよう幻覚として姿を見せることは出来ます」
「それじゃあ、まずは女神様の姿を見せてください!」
「わ、分かりました。勇也様がそうおっしゃるのであれば……」
女神様がそう言うと俺の目の前に薄い霧のようなものが地面から現れ、それは徐々に人の形へと集まっていく。
しばらくすると、その霧は美しい女性の姿へと変貌した。
おぉ! 流石は女神様!!
予想通りの美女じゃないか!! 地面まで届きそうな銀の髪。透き通るような白い肌。ゆったりとした白い服からも分かるグラマラスなボディ!
「あの勇也様? これでよろしいですか??」
「あ、はい! ごちそうさ……、いや、ありがとうございます女神様」
「いえいえ、このような事でよければいつでも仰ってください。それで先ほど私が申し上げた事、大考えいただけませんでしょうか?」
先ほどの事……、あぁシャーロットに手を貸すってあれか。
でもなぁ、俺ってただの魔鉱石だぞ? いくら形を変えることが出来るからって魔族を倒すことなんて出来るのだろうか?
俺が答えに窮していると、女神様はその顔を俺のすぐ側まで近づけた。
「お願いします勇也様! どうか、どうか……」
「わ、分かりましたよ! 分かりましたからそんなに顔を近づけないで……」
これ以上女神様を近距離で見ると、この体になってから久しく感じていない感情が掘り起こされそうだ。
女神様も流石に取り乱したことを恥ずかしくなったのだろう。頬を赤らめゆっくりと俺の側を離れた。
「ありがとうございます勇也様。この御恩、このメルダ忘れません!」
「は、はぁ」
あー、勢いとはいえ面倒くさいことになってしまった。
でもこうなれば魔族とやら、この俺が全て倒してやろうではないか!
そうすれば女神様がなんでも願いを聞いて……、くれるって……。
「あの女神様、俺がシャーロットに手を貸せばどんな願いも叶えてくれるんですよね?」
「はい、それはもちろん!」
「それじゃあ一つだけお願いがあるのですが、その、あの、女神様のパ、パンツっていただけますか??」
「……へっ!?」
俺の言葉にしばらくの間を置いたあと、女神様は声を上げ一瞬で顔を紅潮させた。
こんな願いを言われるとは夢にも思っていなかったのか、その手は心なしか服を抑え俺からその下にある物を見られないようにしているようだ。
「パ、パ、パンツですか!? そ、それはもちろん私も下着は付けていますがいくら何でもそれは」
「……だめですか?」
「う、うーん、だめということではないのですが、やっぱり恥ずかしいというかなんというか……。勇也様はそれでよろしいのですか?」
「ええ、もちろん!!」
俺が満足げに、誇らしげに答えたことで女神様もとうとう観念したのか小さく息を吐くと恥ずかしそうに答えた。
「分かりました! それで勇也様がシャーロットに手を貸してくれるなら私のパ、パンツ位安いもの! ですが約束は守って頂きますからね!?」
「それはもう。この鳳勇也、パンツにかけて魔族の討伐を誓います! あ、でも脱ぎたてほやほやじゃないとだめですからね??」
「なっ! ……分かりました。では鳳勇也様、あなたがシャーロットと共に魔族からこの世界を救いしその時には、私の脱ぎたてパンツを差し上げます。あなたに神の加護があらんことを」
女神様がそう言うとその姿は霧となり一瞬で姿を消したのだった。
「……女神様、逃げたな」
「え、何か言ったユウヤ??」
その声は額を地面から上げこちらを見つめるシャーロットのものだった。
どうやら女神様と俺とのやり取りはこの世界では一瞬の出来事であり、シャーロットには聞こえていなかったらしい。
「いや、何でもない。……はぁ、それじゃあ行くぞシャーロット」
「へっ? もしかして一緒に旅に出てくれるの? どうしたのよ急に!」
「お前が土下座までして頼んできたんだろ??」
「そうだけど、急に態度が変わったから……」
「ふっ、俺も鬼じゃない。お前の境遇に同情したのさ」
まぁ女神様のパンツ目当てで魔族を倒すのに手を貸すなんて言えないしな。
でも流石にこの言い訳はバレるか……?
「アハハハッ、それならそうと早く言いなさいよ! あ、分かったわ、あなたこの美少女天使の私に惚れたのね? 全く素直じゃないんだから」
あっ、全然心配いらなかったわ。
シャーロットは先ほどまでとは打って変わり勢いよく立ち上がり俺を持ち上げた。
まぁすぐに体中にトゲを出し地面に戻ったのだが。
「はぁ、でもそもそも魔族ってなんなんだ?」
「え、ああそれはね」
シャーロットは俺のトゲで出来た掌の傷に涙を浮かべながらも答え始めた。
「ユウヤのいた世界と違ってこの世界にはいろいろな種族がいるのよ。人間、妖精族、岩窟族、小鬼なんかがね」
「ああ、それは俺も気づいてた。ここに来たばかりなんかは竜に会ったしな」
「そ、そうなのね。あんたよく死ななかったわね……。まぁそれは置いておいて、魔族って言うのは小鬼とか吸血鬼とかを指すのよ。でも彼らは元々バラバラで世界の脅威とまではいかないものだった」
小鬼に吸血鬼……。
まぁそんな奴らがまとまるとも思えないな。
「それならどうして……」
「魔族の中に魔王が生まれたのよ。そいつを頂点に魔族が結集し人間達を襲い始めた。魔族にとって特に人間種は力も弱いし格好の餌ってわけ」
「そういうことか」
つまりはその魔王とやらを倒さないと女神様のパンツは手に入らないということか……。
なんだかありきたりな展開だけど、一つ言えることがある。
これ……、めっちゃ面倒だ!!
「あーあ、やっぱりやめようかな手伝うの」
「えぇぇ! 今更それは無いわよ! 私一人じゃ魔王を倒すなんて絶対無理だもん!!」
「冗談だよ」
「くっ……、あんたこの100年で性格ねじ曲がったんじゃないの? 初めて会った時はもう少しまともだったのに」
「それは残念だったな。こうなったのもお前が俺を間違って殺して魔鉱石としてこの世界に転生させたからだろ」
「だからそれは誤ったじゃない、根に持つ男ね……」
シャーロットは泣きそうな表情で俺を見つめる。
まぁこうなったらさっさと魔王とやらを倒して女神様パンツをゲットするとしよう。
こうして俺は偉大なる目的のため、元天使のシャーロットと世界を救うたびに出ることになるのだった。




