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5 願わぬ再会!

 始まりの街 ナナリア市。

 ここはナナリア市のある国、ハーシュビッツ王国の南端に位置し、駆け出しの冒険者が最初に集まる街のために通称 始まりの街と呼ばれている。

 ナナリア市の周囲には危険度Dランクという比較的安全なモンスターの生息地が点在しているために駆け出し冒険者が集まるのだが、彼らを相手に狙って商人や装備屋、はたまた小さな屋台に至るまで多くの店が立ち並んでおり、王国の端に位置する街とは思えないほど栄えているのだった。


 そんなナナリア市にこの俺、鳳勇也も魔具を売りにやってきたグリエルと共に足を踏み入れていた……。



 「うおぉぉ、凄いなこれは!」


 「お、おい、そんなに大きな声を出すな。お前は一応魔鉱石なんだぞ??」


 「ご、ごめん。ついあまりの賑わいに興奮してしまった」


 グリエルは自分の右肩に乗る俺の声に、慌てて諫めるように小さく話しかける。


 ナナリア市、始まりの街と呼ばれるだけあって鎧や武器を持った冒険者と思われる奴らで溢れかえっている。

 グリエルの話だと、国民の命をモンスターから守っている冒険者はこの国では英雄なんだとか。

 最上位の冒険者、特級になるとそれはもう貴族にも匹敵する地位と名誉を手に入れることが出来るらしい。

 それだけ出世が出来るかもしれない可能があれば、皆が目指すことも分からなくもないが……。


 「まぁ、俺は冒険者の多さよりもこっちの方が驚いているんだけどな」


 俺は今自分が乗っている人物、グリエルに視線を戻した。

 何故なら俺達がこの街に入ってからというもの、グリエルを見つけた冒険者たちが周りを取り囲み、いや冒険者だけじゃない。

 商人、街の住人に至るまでがグリエルが持ってきている魔具に興味深々という様子だった。


 「おい、グリエルさん! 今日は俺に魔具を売ってくれよ。金はいくらでも出す!」


 「抜け駆けはズルいぞ装備屋の旦那! 今回こそ俺がグリエルさんの魔具を買わせてもらう。そのために冒険者組合ギルドの依頼をこなして資金を貯めたんだ」


 「ねぇグリエルさん。今日はどんな魔具を持ってきたの??」


 「ハハハハッ、皆少し落ち着いてくれ。今日はそう多く持ってきていない、だから早い者順で頼むよ」  


 グリエルは周囲を取り囲む多くの者達に笑みを浮かべ答えるが、その言葉で彼らは競うように列を作りたちまち長蛇の列が街の中に生まれる。

 

 「……おい、お前もしかして本当は凄いやつっだたりするのか???」


 「うーん、どうだろうな。ただ街に魔具を売りに来たときはいつもこんな感じではあるな」


 「へ、へぇー……」


 ……いや、絶対凄い奴じゃん!

 普通の奴が街に来て10分ほどでこんな人数集められないだろ……。

 

 俺は目の前に出来た長蛇の列、その最後尾へと視線を向けるがそれは既に先が見えないほど遠くまで伸びていた。

 これだけでも十分に驚いたが、さらに驚いたことにグリエルが背負っていた袋を地面に下ろし魔具を並べると、最前列の小太りの商人風の男は銀の剣を手に取り、その代金として金貨がたっぷりと入った袋をグリエルへと手渡したことだった。


 しかもそれはこの客だけではない。

 次の客も、その次の客も同じような量の金貨を躊躇なくグリエルへと支払っていったのだ。


 「……おいおい、まじか。お前ぼったくり過ぎじゃないか??」


 「ん? そうか? でもなぁ、私の魔具は希少な鉱石や独自の術式を組み込んでいるしこれ位じゃないと赤字なんだよ。それに希少な鉱石は危険度の高い場所しか無いことが多い。それはお前もよく知っているだろう?」


 そう言えばグリエルは俺のいたあの渓谷まで来てたんだよな……。

 うん、普通に考えたらあんなドラゴンがゴロゴロいる場所に来る奴は頭がおかしいな。

 

 「そ、そうだな、でも俺のいたあの渓谷はそんなに危険度ってのが高いのか??」


 俺はグリエルに疑問に思ったことを素直にぶつけただけだった。

 だがグリエルはその言葉に顔色を変え、まだ客がいる前で俺に声を荒げたのだった。


 「当たり前だろう?! あそこはドラゴンの谷と言って危険度は最高のSランク。これは王国内でも3つしかないほどの危険地域なんだぞ? だからこそこの私もドラゴンの眠った深夜にだけ採掘に行けるというのにお前という奴は……」


 「わ、分かったからそう怒るなよ。ほら、皆も変な目でこっちを見てるだろう??」


 「……はっ!」


 グリエルはその言葉でようやく正気に戻った。

 だが時すでに遅く、列に並んでいた客達はある者は不思議そうに、ある者は冷ややかに、またある者はまるで汚水を見るかのように蔑んだ目でグリエルを見つめていた。


 グリエルもそのことを肌で感じ取ったのだろう。

 一度咳ばらいをした後、何事もなかったように魔具の販売を再開したのだった。


 うわぁ……、はっず!

 そりゃ普通は肩に石を乗せている時点で痛い奴なのに、その石に怒っているんだもんな。

 みんなそんな目にもなるさ。


 それでもいつもの表情で魔具を売っているグリエルは鉄の心臓を持っていると言っていいだろう。

 そしてしばらくすると、グリエルの前に並べられていた大小様々な魔具はあっという間に売り切れ、代わりに金貨の袋の山が小高く積み上げられたいた。


 「よし、今日はこれでおしまいだ! 皆、すまないがこれでお開きだ」


 『えぇぇぇぇぇぇ!!!』


 「また持ってくるから、今日は勘弁してくれ」


 グリエルの言葉に、列に並んでいた者達は不満を口にしながらも解散していく。

 今日魔具を買えたのは並んでいた者達からすれば微々たる数。後ろに並んでいた奴らは買えないことを分かっていただろう。

 だがそうまでしてもグリエルの作る物は買いたい程の魔具だということなんだろうな。

 

 「なぁグリエルさん」


 「なんだ?」


 「あんたさ、本当にすごい奴だった……」


 「グリエルゥゥゥゥ!!!」


 ん? なんだか聞き覚えのある声が……。


 俺はグリエルから声のする方向へと視線を移していく。

 そこにはこちらへと向かい、猛ダッシュをしてくる女性、いや少女がいたのだ。


 あの腰まである黒髪、白い肌、性格と違って可愛らしい顔……。

 あいつは……、い、いやそんな事がある訳……。


 「おう、嬢ちゃんか」


 「はぁ、はぁ……。よかった間に合ったわ……」


 だが目の前で息を整える少女、その顔と声は紛れもなく見覚え、聞き覚えのあるもの。

 そう、俺を間違って殺し、尚且つこんな体に転生させた元凶と言うべき存在、あの糞幼女そのものだったのだ。


 ど、どうしてこいつがここに??

 いや、まだそう決めつけるのは早い。目の前の少女は顔形はあの糞幼女でも身に着けている防具に腰の短剣から冒険者の様だ。

 多分他人のそら似に違いない。うん、そうに違いない。


 「それでどうしたんだそんなに慌てて」


 グリエルは少女と知り合いなのか、親しげに話を続ける。


 「……ふぅ。えっとね、グリエルが来ているって聞いて今日こそ魔具を売ってもらおうと思ったのよ! ほら、今日はきちんとお金も持ってきたわ」


 少女は鎧の中から得意げに袋を取り出しその中身を地面に広げた。

 ただそこにあったのは形の歪んだ銀貨に銅貨数枚。

 流石のグリエルもこれには笑みが引きつっているように見える。


 「あ、あのな嬢ちゃん、残念なことに今日はもう売れ切れたんだ。それにもしあったとしてもこれじゃあ全然代金が足りないよ? あと、売る以前にその短剣の代金もまだ払っていないじゃないか」


 「はっ!! そ、それはあれよ、出世払いというかなんというか……。もう、私は将来魔族からこの世界を救うのよ? それから好きなだけお金も払うからいいじゃない!」


 「……いや、嬢ちゃんまだ10級の冒険者だろ? 魔族どころか砂蜥蜴サンドリザードにも勝てなかったって噂を聞いたことがあるんだが……?」


 「さ、さぁ……、一体何のことでしょうか」


 少女はあからさまに動揺し、グリエルから視線を外した。

 だがその行動が俺の中にある確信を持たせることなった。

 

 ……あ、こいつあの糞幼女だ。

 あの顔に抜けている思考回路。確実にあいつに違いない!

 でもどうしてこいつまでこの世界に来ている?

 こいつは俺みたいに死んだ奴を天国や地獄に送る、はたまた転生させるのが仕事じゃないのか?? 

 

 ただ分からないことが多い中で、一つだけ言えることがある。

 ……俺の事がバレたら絶対面倒なことになるということ。


 「……ここは気づかれない内にグリエルの袋の中に隠れて」


 「ん?? 今その石動かなかった??」


 し、しまったぁぁぁ!!


 俺は少女から身を隠そうと形状変化を行おうとした

 だがその時、運の悪いことに少女は俺へと視線を向けたため動いたことがバレてしまったのだ。


 「………………」


 「うーん、おかしいわね、確かに動いたと思ったんだけど………」


 「………………」


 「あれ、これってもしかして……」


 少女は俺か視線を外すことなく徐々にこちらへと近づいてくる。

 俺と少女の間に走る妙な緊張感。グリエルもただ俺達の行方を見守り続けていた。

 

 少女はグリエルの右肩に乗る俺の前まで進んでくると、なおもこちらをジッと見つめる。


 もしかしてバレたのか?? 

 いや、そんな簡単にバレるわけがない。なんたって魔鉱石なんかこの世界には腐るほどある……


 「……フフフッ、あなた鳳勇也ね?」


 「……畜生、バレてましたぁぁぁぁ!!」


 俺の声は、虚しくその場に響き渡るのだった。

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