4 魔鉱石のステータス??
「……次、剣!」
グリエルとの出会いから数日後。
俺はグリエルの作業小屋のすぐそば、製鉄用の薪が並べられている開けた場所にいた。
よし、やっぱり俺のイメージ通りに身体が変化するぞ!
しかもグリエルの小屋の中にあった剣そっくりにだ。
つまりこの体は、俺が記憶さえしていれば見たものに変化することが出来るということだ。
美しく、なおかつ武器として洗練された剣。
刀身は良く研がれ丸太をも両断できそうな鋭さ。そして持ち手部分に施された装飾はグリエルの製造スキルの高さを物語っている。
「いやぁ、いいねこれ! これなら誰も俺が魔鉱石だなんて思わないだろう」
「おーい……、ってあれ!? 何で私の剣がこんな所にあるんだ??」
「あ、ごめんごめん。これ俺なんだよ」
美しい剣の姿にほれぼれとしていた俺だったが、様子を見にこちらへとグリエルがやってきたのを確認したため、元の魔鉱石の姿へと戻った。
ただグリエルはこの姿が好きではないらしく、どこか不満げな表情を浮かべているが……。
「はぁ、何でその姿に戻るかなぁ。私が作ってやったあの装甲の方がカッコいいのに……」
「いや、だってあの姿なんか慣れなくて気持ち悪いんだもん」
「全く……。お前みたいな生き物?がいると私の様な魔具製造に携わる者は立つ瀬がないではないか……」
グリエルはこの数日、俺が小屋の中にある剣や盾、弓などの魔具に次々と姿を変えたせいか既に呆れて物も言えない様子である。
まぁ、お陰で俺の変化レパートリーはかなり増えたんだけどな。
ただ、変化を繰り替えす中で俺は自分に起こっている変化に気が付いた。
しばらく気にも留めていなかったせいもあるが、変化を繰り返しても一向に魔力が減る感じがしないのだ。
その理由は薄々感づいてはいるが、俺は恐る恐る自分のステータスを80年ぶりに開いてみることにした。
「…………まじか」
俺の視界に浮かび上がる様々な数値。
この世界の生き物にはステータスというものがあることには転生してしばらくしてから気が付いた。
もちろんこの俺にもステータスは存在する。
だが80年前に見たのを最後に、開くことも無くなっていたのだ。
そんな忘れ去られたステータス。
だが視界に浮かび上がったそれは、俺の想像をはるかに上回るものへと成長を遂げていた!
──────────────────────────────────
鳳勇也 Lv403
種族 魔鉱石
MP 1047892/1048003
HP 10687/ 10687
スキル
吸収、魔力付与、形状変化 (剣、盾、弓、ボウガン、斧、槍、装甲各種)、修復、全魔法特性
──────────────────────────────────
…………なんじゃこりゃ!!
いやいやいや、MP100万超えるってどういうこと?
てか、そうこうしている内にまたMPが回復していく……。
どうやら俺は自分が考えていた以上に大気から無限に魔力を吸収し続けるようだ。
この100年で触れたものから直接魔力を吸い取ることの制御は自分の意思で出来るようにはなっている。
ただ、この自動吸収ともいうべき能力だけはどうにもならないのだ。
「俺ってただの魔鉱石だけど、この世界じゃめちゃくちゃ強かったりしてな、アハハハハ……」
「ん? 何か言ったか??」
「い、いや何でもない。それよりもさ、さっき俺のステータスを見てみたんだけどその中に見慣れないスキルがあったんだ。魔力付与、これはどういうものか知っているか?」
「ああ、それなら恐らく私がお前に付けたスキルだな。……よし、説明するより実践した方が分かりやすいだろう」
グリエルはそう言うと。身に着けている白いローブの中から1本の短剣を取り出した。
あれは、魔具なのか??
でもグリエルの小屋にあった他のものより質素な造りと言うか……。
「お前、今なんかショボい物が出てきたなとか思っただろ?」
「そ、そんなことは無いぞ。ただあんたが作ったものにしては飾り気がないと思ったんだ」
グリエルはまるで俺の心内を見透かしているかのように笑みを浮かべ口を開く。
「ハハハハッ、確かにそうだな。だがこれを見た目で判断するなよ? この短剣は俺が作った魔具の中でも最高傑作に近い。なんせ使い手の魔力を吸い、使い手の魔法を刀身に具現化することが出来るんだからな!」
「刀身に具現化?? 言っている意味がよく分からない……」
「百聞は一見に如かず、それでは見せてやろう。 魔力付与、炎剣」
「ぬぉぉぉぉぉ!! 短剣から火が噴き出したぞ!!」
凄い、これが魔力付与なのか!!
グリエルの持つ短剣は、一瞬刀身がグニャりと曲がったかと思うと次の瞬間には炎を噴き出していた。
どうやらこれが魔力付与というものらしく、その力に俺は開いた口が塞がらない。
まぁ、俺に口は無いんだけどな。
「ふぅ……、どうだ魔力付与は。普通、魔具が具現化できる属性は一つ。そのため高位の冒険者なんかは魔具を複数持ち、それぞれの属性の魔法を使用している者もいるほどだ」
「な、なるほど。つまり俺も属性のどれかを使えるということか……」
……あれ、なにグリエルさん?
その顔、なんだか見覚えがあるんですけど。
俺はグリエルの見覚えのある表情に嫌な予感を感じるも、その予感はすぐに的中することになる。
グリエルは先日俺が心の中で勝手に名付けた、通称オタクモードへと変貌したのだ。
「フフフフッ、そう思うだろ? だがそうではないのだ! お前には全属性を使用できるように術式を組み込み製作した。これこそが私の生涯の夢、人生の目標! お前は最強の魔具なのだよ!!」
「……で、でもそれ位他にもいくらでもあるんじゃ」
「あっっまーい!! いいか、魔具を作るには媒体となる高純度の魔鉱石が必要なのだ。だが全属性を使用できるほどの術式に耐えうる魔鉱石など存在しないはずだった……、だがそんな時私はお前を見つけたのだ! フフフッ、一目見たときからビビッと来ていたんだ。そしてお前は想像通り素晴らしい魔具へとなったのだ!!」
「ち、ちょっと待ってくれ。もしその術式に俺が耐えきれていなかったらどうなっていたんだ?」
「そりゃあ、その時はこうバキっと砕けてただろうな」
……あ、やばい。こいつ俺が思っている以上にヤバい奴だ。
真顔でなに怖いことサラっと言ってるんだぁぁ!
てか俺、寝ている間にそんな事されてたの?
何で目を覚まさないんだよ、俺の馬鹿野郎!
俺はグリエルの真の顔を再確認し全身に悪寒を感じるも、過ぎてしまったことは仕方がない。
今だ恍惚の表情を浮かべているグリエルは無視、気を取り直し自分のステータスについて考えることにした。
魔力付与。グリエルの話を整理すると、本来は使用者の魔力を魔具そのものに纏わせるようなものか。
そういうことなら……。
「……形状変化 剣。スキル 魔力付与を発動!」
「えっ……、ちょっと待て、うわぁぁぁぁ」
「……まじか」
グリエルは俺の刀身から発生した炎、いや火柱を目の当たりにしたことで身の危険を感じたのか頭を抱えあ地面に伏せる。
だが一番驚いていたのは他ならない、この俺だった。
……なんだよこれ。
俺はそこまで魔力を使っていないぞ?
それなのにこれだけ巨大な炎が発生するなんて……。
「……こりゃ、気を付けないといかないな」
「おいおいおい! 急に何するんだ!! てかなんでお前だけで魔法を発生させられるんだ……。本当に、お前は意味が分からん」
「俺だって自分が怖いよ……」
「はぁ……、もしかしたら私はとんでもない奴を魔具にしてしまったのかもしれないな」
グリエルは徐々に収まっていく火柱を見つめながら小さく呟く。
悔しいが、彼の言葉に俺も賛同せざる負えない。
確かに俺は想像以上に力が強くなってしまったみたいだ。
これは本当に気を付けないと、周りに被害が出るぞ……。
炎が収まり、剣状態から魔鉱石の姿へと戻った俺は、視界に浮かぶMP値を見つめる。
そこには1047643/1048003とあり、先ほどの火柱でMPは100程度消費したらしい。
ただそれでも俺の総MP量からしたら微々たるもの。
そのことがさらに自分の力の強さを物語っているようで、呆れることしかできないのだった。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもないさ。それよりも、後ろにおいてあるあの荷物はなんなんだ?」
「あぁ、これか」
俺は何も話さなくなった俺を心配して声をかけて来たグリエルに視線を戻すも、先ほどから気になっていた彼の背後に置かれている荷物の事を尋ねる。
グリエルもその言葉で荷物の事を思い出したのだろう。
背後に置いていた皮で出来た袋を担ぎあげ、その中身を俺へと見せるのだった。
「これは街へ持っていく魔具だ。流石に魔具ばかり作っていては生活は出来んからな、こうして時折魔具のいくつかを売りに行くんだ」
「へぇ。そうなのか」
街か……。そう言えば俺ってこの世界の事をまるで知らないんだよな。
これはもしかしたらいい機会かもしれない。
「……なぁグリエル」
「なんだ?」
俺の言葉に、グリエルはこちらへと視線を戻す。
「もし迷惑じゃなければさ、俺をその街に連れて行ってくれないか??」
「は、えっ?? お前街に行きたいのか??」
「ああ、少し興味があるんだ。だめかな?」
「うーん、別に構わないとは思うがな……。だってお前魔鉱石だし、入市税はかからないだろうしな」
「そ、それなら……」
「ただし1つ条件がるぞ? 街ではさっきみたいな力は使わないこと。いいな??」
グリエルは笑みを浮かべながら人差し指を立て俺に近づく。
「分かってるよ。それじゃあよろしく頼むなグリエル」
「おう、任せとけ」
フフフッ、ようやく異世界の街を見ることが出来るのか。
俺の転生ライフは、今ここから始まるんだ!!
グリエルの言葉に、俺はまだ見ぬ街に胸を躍らせる。
だが後日、俺はこの時の事をどれほど後悔したことだろう。
2日後足を踏み入れた始まりの街 ナナリア市。
そこで2度と出会いたくなかった、あの人物と再会しあんなことに巻き込まれることになるとは知らなかったのだから……。