君の瞳に映る世界を見たくて…
いつも窓際の席でぼんやりと外の景色を眺めている君の姿を盗み見ながら僕はいつも考えていた。
君はいつも何を見ているのだろう…。
その儚げな瞳が見る世界はどんな風に見えてるのか知りたくて視線の先に瞳を向けてみるけれど僕の瞳に映るのは晴れ渡った青空と新緑の葉が繁る木々だけ。
確かに綺麗だと思うけれど僕には君の瞳にそれらが見えていないと何故だか思ってしまう。
だって君の瞳はずっと遠くを見つめているから--。
しばらく見ていたけれど気になってしかたがない。
だから--。
ガタッ。
僕は自分の席から立ち上がると君の元へと歩き始めた。勇気を出して聞いてみることにしたんだ。
だって、僕は君の事をもっと知りたいから…。
クラスは同じだけれど不思議と君と会話したことがなくて、いや違う。
ただ、一歩を踏み出せなかったんだと思う。
君につまらない奴だと思われたくない。
そんなつまらないプライドが邪魔をして話しかけることができなかったんだ。
君はどうなんだろう…。
不安が僕の鼓動を早くする。
ドックン、ドックン--。
大音量の胸の鼓動が君に聴かれやしないかドキドキしながら僕は君の元へと歩みを進める。
僕の瞳には君の姿しか見えない。
君へと近づくほど僕の鼓動がどんどん早くなる。
何て声をかければ良いのか分からず色んな言葉が駆け巡っていくけれど何も決まらないまま君の元に辿り着いてしまった…。
「あ、あの…」
小さな声で君に声をかける。
「うん?」
振り返った君は不思議そうに僕を見つめてくる。
その姿に僕の頭の中が一瞬で真っ白になって、何を話せばいいのか分からなくて…自分で声をかけたのに緊張のあまり次の言葉がまるで浮かんでこない。
「どうしたの?」
何も言わずに立ち尽くしている僕に君は不思議そうな表情を浮かべたまま小首を傾げる。
「あ、あのぉ、えっと君はいつも外の景色を見ていたから気になって…いつも何を見ているのかなぁって」
少しアタフタしながら尋ねる僕に君は一瞬だけ驚いたように瞳を見開くと直ぐに優しげな笑みを浮かべて僕を指差したんだ。
「ガラス越しに君を見てたの」
予期せぬ君の言葉に驚きを隠せない。
「えっ?」
思わず間の抜けた声が漏れる僕を君は悪戯ぽい笑みで楽しげに見つめてくる。
その姿に僕の鼓動がドクンッと高鳴った。
「だって、いつも私のことを見てたでしょ?」
頬杖をつきながら僕を見つめる瞳がキラキラと輝いている。なんだろう、この気持ち…僕を見ていた?
なんで…。
「気づいてたの?」
何だか恥ずかしくなってきて君の顔をまともに見れない。だって、きっと僕の顔は恥ずかしくて真っ赤になっているから。
「だって…私もあなたを見ていたから」
そう呟いた君も恥ずかしそうに俯いた。
そのまま時間だけが過ぎていく。
でも、嫌な感じゃない。
なんだろう…くすぐったいような、照れ臭いような、君が僕を見ていたその言葉のせいかもしれない。
「「あ、あの!」」
全く同じタイミングで顔をあげた僕と君。
互いに見つめあい--。
「ふふふっ」
「あははっ」
二人して照れ笑いを浮かべてしまう。
一気に緩んだ空気に僕らは自然と会話を始める。
それはとても他愛のない会話だけれども、とても楽しくて僕らは時間が経つのも忘れて喋り続けたんだ。
どれくらい話しただろうか。
今まで会話すらしたことがなかったのに今はお互いに途切れることなく自然と言葉が出てくる。
同じ時の流れの中でも楽しい時間は時を早める。
何気に外を見ると夕暮れ空が僕らを照らしていた。
壁時計に目を向けるとかなりの時間が過ぎていて、僕の視線を追うように君も時計に瞳を向けて驚いた表情を浮かべた。
「あっ、もうこんな時間っ!?」
「えっ、ウソ?」
楽しい時間なんてあっという間に流れてしまう。
「そろそろ帰ろうか…」
本当はもっと話していたいけど僕の我が儘で君を繋ぎ止めるわけにはいかない。
「そう…だね」
少し寂しげな表情を浮かべる君に僕の心がチクリと痛む。君の笑顔を見たいなら答えはひとつ。
「一緒に帰ろうよ」
その言葉に君は嬉しそうに僕を見つめる。
「うんっ!」
君の笑顔が見ると自然と僕も笑顔になる。
鞄を片手に二人で歩き始めた夕暮れは、いつも見る景色と違うと感じるのはきっと君がいるから。
一人で見る景色より二人で見る夕暮れの方が何倍も綺麗で…きっと君の瞳に映る世界も僕と同じだと思うから--。
~fin~