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亡き友への誓い

 陰鬱な雨が降り続く重い空気の中、爽児は目の前の大理石のモニュメントに向かい黙想していた。

モニュメントは偉大なメタルボウラー達の為に建立されたもので、掌を翳すと亡くなった選手のプロフィールと優秀選手賞受賞の記念メッセージがヴァーチャルビジョンで再生される。

ウィルやボブの記録もここに遺されている。墓は別に在るが、二人は殺害されたので生前に記録されたプライベートメッセージは無い為、亡くなった二人が語り掛けてくれる場所はここしかない。

かけがえのない親友を二度も失った悲しみで爽児の心は揺れていた。

何故こんなことになったのだろう。


 全てはあの時からだ。ウィルが何者かに惨殺された日。

ラルの誕生日を祝う為にサイバー遊園地に向かう約束の日だった。

あの日、爽児はメタルボウルの専属ドクターに呼び出された。

ドクターに告げられたのは残酷な現実。

以前負傷した脚の怪我が、選手生命にかかわる重篤な状態にある事を告げられたのだ。

怪我の原因はプレイ中のウィルとの接触事故だった。

ウィルに知られる訳にはいかない。知ればウィルは責任を感じるだろう。

爽児は過去のバイク事故が原因であると偽装して引退宣言をすることを決断した。

結局ウィルがその事実を知る事はなかったが、爽児はラルとリンダの為に嘘を吐き通した。

その後ラルは失踪した。

爽児はラルを引き取って育てる事を考えていたので、手を尽くして消息を探ったが結局見付からなかった。

 ラルは知能が群を抜いて優秀な子供だった。飛び級で大学院への進学を打診されたこともある。

 ウィルとラルは両親を亡くしている。そして爽児も同じ境遇である。孤児を育成する為の救護院で爽児とウィル達兄弟は出会った。

爽児とウィルはメタルボウルに夢中な少年達で、プロを夢見て練習に明け暮れた。救護院を支援していたプロメタルボウラーに見出され、特別プログラムを組んで指導を受ける機会に恵まれた事も幸いして、見事念願のプロメタルボウラーとしてデビューが叶ったのだ。

 デビュー後救護院を出たウィルはラルの父親代わりを務めていたのだが、ラルには普通の子供時代が必要だと考えて、飛び級は留保して貰う様に政府機関に申告した。

 ラルは素直に従っていたが、知的探求心は尽きる事が無く、独学で博士号取得者に匹敵する知識を得るほどだった。

 ラルは意図的に自身の存在を爽児や統合政府から隠したのだ。

パーソナルデータを改竄して一時的に身を置いた孤児院でエリックとの邂逅を果たし、カイルのバックアップを得て以降は完全に社会の裏に身を潜めて活動する様になった。


 現在、黙示録の旅団はシュトロハイムとの合同作戦に向けた準備を進めている。

 爽児は統合政府の行政府会議場で開催される総合政策会議に記者として赴き、ハインズのインタビューの名目で暗殺を食い止め、その奸計を白日の下に曝す事を目論んでいる。

 黙示録の旅団のメンバーである王虎が同行してくれる手筈になっている。恐らく襲撃者は王虎の手にも余る戦闘力を秘めた、あの時の女性かSPTの捜査官を完全に破壊したもう一人の謎の存在かの何れかであると予想される。だが、爽児達も無策ではない。

 シュトロハイムから提供された武装がある。会議場の厳重な武装チェックをも掻い潜るバイオケミカル素材で、標的の動きを止める強力なパルスを放つアーマー貫通弾を射出することが出来る。

 通用するかは未知数だが、動きを鈍化させることが出来ればハインズが警護要請している筈のSPTをサポートする事くらいは可能になると考えての選択だ。

 更に王虎の身体能力を強化する為の超小型ジェットノズル搭載の戦闘スーツも在る。蹴りや突き、体捌きのスピードが格段に向上する。ヒートガンや通常弾に対する防護効果も備えている。


 爽児はモニュメントが再生するウィルのメッセージを観て、誓いを新たにしていた。

 リンダは必ず自分が護ると。ハインズの件より、リンダの事が気にかかっている。先日から端末での連絡が取れない。何か嫌な予感がする。直接訪ねて行こうにも、ミレーヌとの一件のほとぼりが冷めるまではWBNの関係者に見付かる訳にはいかない。

 「ウィル、天国から観ていてくれ。リンダは必ず護って見せる。ラルのことも救いたい。この陰惨な現実の運命の連鎖を断ち切ってやる。どこまでやれるか判らないが、胸を張ってお前に逢いたい。」

 映像の中のウィルは、爽児のその言葉を優しく聴いているかの様に微笑んでいた。まるであの頃のままに。




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