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SPT介入

「アウター・タウンにおいて、統合軍に所属すると推定される部隊の展開、及び周辺で戦闘行為が進行中である事が確認されました。信号弾に拠る怪物の反応は旧警察署を示しています。」

SPTの部隊は、本部襲撃犯の操る怪物の反応を追跡してアウター・タウン旧警察署迄辿り着いた。SPT本部から反応を追跡する途上で信号が途絶したが、消失地点付近に軍事施設が確認された為、調査を開始した直後に再び反応が観測されたのだ。

「状況把握の為、斥候を戦闘区域に送る。浮遊式センサー・カメラを携行、該当エリア全体に配置しろ。」

浮遊式センサー・カメラは、旧世紀のサッカーボール大の粗悪品と異なり、直系4cm程度の躯体に高精細カメラと動体センサー及び、管制室と連携して重火器を認識する超高度情報解析機能が内臓されている。躯体表面は電磁迷彩パネルで覆われていて、視認は困難だ。

「了解。」

「いいか、我々の戦力は半減している。可能な限り戦闘は回避しろ。

特に旧警察署内に居る怪物に対抗するだけのポテンシャルは、現在の我々には無い。敵に関する詳細な情報の収集に努めるのが先決だ。今は耐え忍ぶ以外ない。」

「判っています。フェルナンデス司令。皆、リチャードやトッド、ジョニーの仇を討ちたい想いは同じです。」

「本作戦が終了したら、人権擁護局のハインズと交渉して予算拡充を図る。成功すれば、ローラの回復と戦力増強が実現する。SPTの総力を挙げて敵を壊滅に追い込むのは、その後だ。」

フェルナンデスの心中は煉獄の如く燃え盛る炎で満ち溢れていた。だが、現在の戦力では漆黒は元より統合軍と戦闘状況に突入する事は自殺行為であると言えた。故に、フェルナンデスは指揮官として冷静に如何に状況を打開するか緻密な作戦を練り上げていた。

戦闘行為が進行中の全域に浮遊式センサー・カメラを配備して状況を把握した後、旧警察署を拠点としている敵部隊の全容解明を図る。

戦闘介入は避けて傍観する以外選択肢の無い事は熟知している。

その代わり、徹底的に敵の詳細な情報を収集解析する事が有効な手段であると判断した。

「統合軍の部隊は特殊作戦部隊だろうな。対する戦闘中の敵は何者なのか・・・。果たして我々の敵か味方か。これに関しても詳細な情報収集が必要だな。現段階では、怪物を操ってSPT本部を襲撃したのは統合軍の部隊である可能性が高い。指揮官が大佐と呼ばれていた事、高度に訓練統率された行動、何れも犯人像を限定的に示すものだ。」

「統合軍が本部襲撃犯だとすると、やはりリチャードを殺害した奴は統合軍に所属しているのでしょうか。では統合軍と広域犯罪組織ザイードは何らかの繋がりが在る事になりますが。」

「その点も捜査する必要が有るな。何故連携して活動しているのか、非常に興味深い。」

邪悪の胎動を敏感に感じ取り、フェルナンデスはその底知れぬ闇の深さに嘗て如何なる犯罪と対峙した時にも経験した事の無い戦慄を覚えた。だが、同時に消し去る事の出来ない義憤の情が全ての真実を求めて心底に渦巻いて居た。

「我々は必ず勝利しなければならない。混沌とした世界に真の正義を顕現する為に。」

何時も想い描く理想がフェルナンデスの希望だった。

世界から悪辣な犯罪を一掃する。その為の犠牲は厭わない。

無数の人々の細やかな幸福を護る事。それが、犯罪の犠牲となって若い生命を散らせた愛娘の供養になると信じて。

フェルナンデスの眼光は揺ぎ無い決意と覚悟を示していた。

SPT隊員達は絶対の信頼感をフェルナンデスに寄せている。

嘗てシュトロハイムが暗躍して惹き起こされたテロ事件等の解決の手腕は全警察機構内で絶大な評価を獲得していた。

若き日には、統合行政府警察大学を主席で卒業して将来を嘱望されるエリートであるにも拘らず最も殉職率の高い部署である対凶悪犯罪特命課への配属を志願して、数々の殊勲を挙げている。

しかし、フェルナンデスの胸中には一片の驕りも生ずる事は無かった。その性格と揺るぎ無き信念が、SPT司令就任後も多くの後進達を惹きつけている。

「司令。斥候に向かった隊員から通信です。浮遊式センサー・カメラの配備が完了した様です。」

「モニター・スクリーンに映像をマルチ受信しろ。」

「了解。各カメラ感度良好。映像を受信します。」

指揮車内のモニター・スクリーンに交戦中の勢力の戦闘状況が映し出された。何れの映像でも激しい攻防が繰り広げられている。

「Dエリアの映像を拡大しろ。焦点は統合軍と目される兵士だ。」

Dエリアの映像が拡大表示される。フェルナンデスは画面を凝視して暫く後、再度命令する。

「兵士の腕章に焦点を合わせて拡大しろ。」

映像が更に拡大され、兵士の腕章がはっきりと確認出来た。

翼の有る双頭の蛇の紋章。

「・・・統合軍特殊作戦部隊。連中が何故?如何なる作戦に従事しているのか・・。連中と交戦しているのは何者だ?統合軍の精鋭達と互角以上の戦闘能力を発揮するとは・・。各エリアの情報収集、謎のグループに関して解析作業を進めろ。」

「了解。行政府ヨタA.Iオメガにアクセス。情報解析開始。」

行政府が惑星全域を管理統制する目的で開発されたイオン量子ヨタA.Iオメガは、過去から現在に至る迄の時間軸の円錐上に散在するあらゆる情報を瞬時に解析して完全なる答えを導き出す。

どれ程些細な事象でも相互の関連性を算出して実像を特定する超高度論理演算回路は、浮遊式センサー・カメラが捉えた情報を元に、統合軍特殊作戦部隊と交戦中のグループを特定しようと試みる。

モニターに幾つかのキーワードが表示された。“黙示録の旅団”“元統合軍PKT所属ライリー・モロゾフ少尉”等の文字が羅列される。

「黙示録の旅団・・・アウター・タウンのカウンター・グループか。それに統合軍の元少尉。所属は悪名高いPKTか。この部隊の指揮官は確か、鮮血の死神と謳われたロマネンコフ・・・階級は大佐。果してこの符号の一致を単なる偶然と観るか否か。」

「フェルナンデス司令。PKTとはどの様な部隊なのですか。」

隊員の若者が問い掛けた。

「うむ。Perfect Killing Team・・・完全殺戮部隊として統合大戦時に猛威を振るった連中だ。連中の行軍した跡には一切の生命の痕跡も残らないと噂され恐れられた。・・敵味方問わずな。大戦終結後は大戦の齎した災禍の元凶として糾弾され、部隊は解散、隊員達は軍属を解任の憂き目に遭った。統合軍や行政府の処遇を恨んでいる可能性は高い。」

フェルナンデスの洞察力は秀逸であった。だが、ここで敵の特定を困難にする要素が確認された。SPT本部襲撃犯の指揮官が大佐と呼ばれていた事実と、合致する対象人物が複数存在する事実。

ロマネンコフ元統合軍大佐と、統合軍特殊作戦部隊指揮官スコルビンスキー大佐。この二名の指揮官のどちらかがSPT本部襲撃犯である可能性が高いと判断される。だが、現時点では何れが襲撃犯か断定するに至る程の情報は得られていない。

「統合軍特殊作戦部隊の指揮官の階級は大佐。そして、交戦中の敵部隊の母体となった事が推察されるPKTの指揮官の階級も大佐だ。一体どちらの組織がザイードと結託して我々の本部襲撃計画を実行したのか。双方共に鍛え抜かれた精鋭で構成され、高度な作戦遂行能力を有している。・・・リチャード殺害犯の戦闘能力と例の怪物の存在。是等の要素は、我々の対峙している敵が高度な科学力を背景に保有している事実を示唆している。現時点では統合軍の側である可能性が高い。しかし、連中の敵対勢力は悪名高いPKTを母体としているカウンター・グループだ。闇の武器商人等の支援を得て活動している可能性も否定出来ない。・・真実を見極める手段として我々は当事件に対する強制介入を実行する。戦闘に因る両敵戦力減少の隙を突く。総員第一種強襲態勢準備!」

「了解!」

SPT隊員達は、迅速な対応を見せた。小型ながら偵察用衛星と同質の機能を有する浮遊式センサー・カメラが捉えた情報から敵部隊の戦力展開状況を正確に分析して各員の配置を決定すると各エリアに散開して行った。


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