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庭園にて

「お母様。ほら、見て。綺麗でしょう。」

車椅子の女性を、ベータが押しながら庭園を歩いていた。

庭園には色鮮やかな花々が咲き乱れ、小鳥が囀っている。

空調が整備された緑溢れる空間は、無機質な建造物の一画に在った。

車椅子の女性は、無表情で視線は虚ろに見える。

ベータは哀しげな表情で女性を見て、溜息を吐いた。

「無駄な事は止めろ。・・・もう何も感じてはいない。」

研究棟の通路から歩み出てきたアルファが声を掛けた。

「・・・兄さん。確かに、お母様は植物状態よ。でも、まだ生きているわ。私は、お母様の死を認める事は出来ない。」

「母は、テロリストの凶弾に斃れたのだ。連中に確実な死を与える事が俺達の為すべき事だ。」

「でも、その為に無関係の人達を傷付けなければならない。お父様の指示は、本当に正しいのか疑念を拭い去れないの。」

「余計な事は考えない事だ。俺達は只、与えられた任務を着実に遂行するだけで良いんだ。」

アルファは冷徹に言い放った。

「凍夜兄さんは何も感じないのね。でも、私は感情を抑える事が出来ないわ。」

「戦闘には、感情等不要だ。任務遂行の障害にさえなる。スタジアムで御前が標的を仕留め損なった原因は其処に在るのではないか。」

「それは・・・。」

ベータの脳裡に、爽児の姿と言葉が浮かんだ。

「ふん。まあ、いい。だが、忘れるな。命令は絶対だ。全ての感情に優先する。・・・俺達は、父の意思に叛く事は出来ない。」

「・・・判っているわ。」

ベータは、諦念した様に俯いた。深い哀しみの光が、母を見詰める瞳に宿っている。

庭園での様子を、監視カメラと指向性マイクが捉えていた。

軍事科学技術長官室と書かれたプレートの付いた部屋で、初老の男がアルファとベータの会話を聴いていた。

「・・・やはり、ベータには問題が在る様だな。早期の改善策が必要か。ハインズ暗殺の任務は、アルファに任せるのが良いだろうな。」

画面に映る二人を凝視しながら何事か熟考していると、通信が入った事を報せるLEDが点滅した。スイッチを切り替えると、画面には鋭い眼光の男が映し出された。

「カオス司令。第9次NBC兵器人体実験作戦の決行準備が整いました。ハインズ暗殺計画はどうなっているのでしょうか。」

「スコルビンスキー大佐か。作戦計画は順調に進行している様だな。ハインズの暗殺は、アルファに任せる。貴様はNBC兵器人体実験作戦に専念しろ。」

「・・・了解。」

通信が切れて、画面は再び庭園の映像に変わった。

カオスは、陰険な眼差しでベータを睨み据えて呟いた。

「ベータの処理は・・・脳波コントロール・システムを利用するか。二度と余計な感情が発生する事も無いだろう。」

冷酷に薄笑いするカオスの瞳には、狂気の光が宿っていた。


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