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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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潜伏者 (3)

 ともあれ、この場に全員が揃った。


 わだかまりのようなものも残ってしまっているようだけれども、今日の予定は一通り終え、『エデン』を発たなくてはならない。


「エメラちゃん。ジェダちゃんにネフラちゃん。ゴルルさんに、それに護衛のみんな。今日は本当にありがとうね。感謝してもしきれないと思うんだけど、本当に、本当にありがとう」


 ボキャ貧なくらいに単純な感謝の言葉を並べ、ぺこりと頭を下げる。きっとみんながいなかったら、今ここで笑顔になることもなかっただろう。


「これが我が輩たちの任務でありますから」


「うむ、またのお越しをお待ちしているでござる。……まあ、その、アレなことがなければ、お、おほんっ」


「ま、結局課題が残ってもうたし、またいずれこんとなぁ」


 ネフラちゃんが小さく、ひっ、と悲鳴を上げる。本当に何があったんだか。


わたくしとしても、まだまだ全ての手続きを終えたわけではありませんからね。近いうちにまたお世話になると思います」


「そのときの護衛はまた我が輩に任せるであります! プニカ様のためなら火の中、水の中であります!」


 ジェダちゃんがビシっと敬礼する。


「それじゃ名残惜しいッスけど、今回の護衛はここまでということで解散ッス。みんな、お疲れ様ぁッス」


 そうしてエメラちゃんが指揮をとると、護衛のみんな、二、三十人ほどの軽い部隊のような団体が、一斉に敬礼する。思えばこんなにも沢山のマシーナリーさんたちに見守られていたんだなと改めて実感する。


「ナモミお嬢様、どうかアニキと末永くお幸せに」


 今生の別れかのように、ゴルルさんにおいおいと号泣されつつ見送られる。見た目の通り、人情に熱いマシーナリーさんだったようだ。


 今日だけの短い付き合いではあったものの、一番近くで見守ってくれた手前、一番情が沸いてる感は否めない。こういう人って割といるよね。


 なんと人間味あふれるマシーナリーさんだろう。


「ほら、ゴルル殿。大の男が女々しいでござる。みんなが帰りづらいでござろう」


「あはは、今日は本当にありがとうね」


 繰り返し、お礼をしつつ、見送られるままにあたしたちはゲートを、『エデン』の出口をくぐっていった。


 また近いうちに会えるだろう。そんな期待をひっそりと胸に抱きつつ。



 ※ ※ ※



 船内のモニター越しに、目の前いっぱいの星空の海を眺める。


 くるときに散々堪能したはずなのだけれど、不思議と久しぶりのように思える。


 それだけ『エデン』でのことは充実していたのだろう。前の時はどうだったっけかな。疲労感のあまり、半ば気を失う勢いで寝入っていたような気もする。


 気が付いたらもう『ノア』についていて、宇宙の航海というものをさほど思い出にできていなかった記憶すらある。


 そもそも、あのときは船の整備もそこまでじゃなく、割と快適な旅ではなかったし、軽い船酔い状態でもあったような。


 そのヤバい状態でワープしたとき、ジェットコースターの比にならない恐怖を味わっていたのは明瞭な記憶だ。


 そんなネガティブな思い出を丸ごとざっぱーんと塗り替えるほど、あたしはすこぶる良い余韻に浸れていた。


「『ノア』が見えてきたッスよ」


 モニターの奥、白くて丸い、たまごのような楕円形のソレが視界に映る。


 そういえば『ノア』ってこんな形だったんだっけ。まるでイカスミスープの中に浮かぶゆで卵のようだ。


 あたしが初めて『ノア』で目覚めて、そしてプニーに今の置かれた状況を説明され、『ノア』を紹介してもらったとき、今とは全く違う気持ちだった。


 プニーに説明された言葉の全てが現実のものとして受け入れられなかった。


 人類が絶滅だの、性行為セックスしろだの、なんなんだ、どういうことなんだ一体、という混乱で頭がいっぱいだった。


 あれから大して時間も経っていないと思うのだけど、あたしも随分とまあ心境が変化してきたものだ。まだ人類滅亡の危機なんてスケールのデカい話は頭からはみ出てる感じだが、性行為セックスはもう受け入れられている。


 不思議なもんだ。ゼクの赤ちゃんが欲しいなんて思えるんだから。


 これも人間の適応力というヤツだろうか。


「そろそろ着陸態勢に移るッスよ」


「重力コントロールフィールド展開。第一ゲート認証、オープン申請。いつでも入港可能です」


 そうこうしているうちに、この船も『ノア』に到着のようだ。


 機械都市『エデン』と比べてしまえば、『ノア』は方舟みたいなものだ。


 しかし、それでも規模的にはあたしたちの乗っている船なんかよりも何百倍も巨大なコロニーでもある。確か住居スペース的に『ノア』には何百万人かは居住できるんだっけ。スケールとしては十分すぎるくらいだろう。


 今はたったの数人ぽっちだけれども、いずれはあたしたちや、その子供たち、そのまた子供たちがどんどん増やしていくのだと思うと体の何処かが震える思いだ。


「……あれ? 権限剥奪? ん? なんかおかしいッスね?」


「エメラ様、いかがなさいましたか?」


「いや、なんかボクの操作を受け付けていないみたいなんスけど……プニカ先輩、そっちの方の端末はどうッスか?」


「はい、試してみます。……、……、入船許可下りました。ゲートが開きます」


「あれ? おかしいッスね……」


 何やら、オペレーターをしている二人の様子がおかしい。一応、『ノア』には無事に入れるみたいだけれども。


「どうした、何か異常でもあったのか?」


「いえ、こちらでは特に何も問題がなかったのですが」


「最近セキュリティのアップデートでもしたッスか?」


「エメラ様のバージョンアップ以降ではこれといって変更はないと思いますが」


「うーん……、うーん? ボクのセキュリティソフトだったらボクが弾かれることはないと思うんスけど……、でもプニカ先輩のは別に申請通ってて、うーん?」


 何やら不穏なことを言っているような気がする。言葉の意味は相変わらずも一つも分からないのだけれど。


「んみゅ? とりあえず『ノア』には入れるんやろ? だったら中に入ってからマザーノアに訊けばええんちゃう? セキュリティ管理は全部そっちが管轄やし」


「それもそうッスね。留守の間に何か変更があったのかもしれないッス」


 どうしてだろう。嫌な予感がしてくるのは。


 船は、『ノア』の中へと入る。

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