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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
95/304

もっと素直になりなさい (4)

 ※ ※ ※


「うふふ……、久しぶりに創作意欲をかき立てられたわぁ。あぁたが有機生体アニマピープルなのが惜しいくらい」


 うっとりとした表情で、あたしの姿をとらえるその瞳は何故かあたしのさらに遠くの向こうを眺めているかのようだった。


「あぁたが望むのなら……いえ、無粋だったわね。今のはちょっと忘れて頂戴」


 フローラさんが溜め息をつく。何を思っていたのかは分からない。


「美に永遠はなぁい。あちしももう何十億年と美を追究してきたけれど、同じ形で留まり続けるものなんて一つもなかったわ。そのために何度このボデーを潰してきたことか……」


 スッと腕を突き出し、指をぱっちんと鳴らす。


 するとそれを合図に天井からスクリーンが降りてきた。あたしの全身が入り込むくらいのかなりの大きさだ。


「ご覧なさい。これがあぁたの美よ」


 スクリーンに映像が流れてくる。


 そこには驚くほど可愛い女の子が映っていた。


 カジュアルな感じで元気っぽさが全開に伝わってくるのに、その純朴っぽい中から何か内に秘めたものがぽわんと浮かび上がってくるよう。


「これ、あたし……!?」


 それが姿見だと気付いた瞬間、あたしはハッと息を飲んでしまった。まさか自分の格好に見とれてしまうなんて。


「そう、あぁたよん」


 特にメイクとかしてないし、スカート穿いたのも割と久しぶりだし、あんまり人から可愛いなんて言われたことなかったけれど、あたしってこんなんだったっけ?


 いわゆる馬子にも衣装?


「こ、こんな……え? えぇぇ?」


 ちょっと右へ、左へと身をよじってみる。


 子供のお洋服ってほど幼稚でもない。お姫様のドレスというほど豪華でもない。あたしの身体にぴったりとフィットした、まるであたし専用、あたしにしか着られないような、そんなコーディネート。


「お気に召したかしら?」


「はいっ! これ、すっごく素敵で、ああ、もう何ていえばいいのか……ありがとうございます」


「うふふ……喜んでもらえてあちしも嬉しいわ。折角だし、色々とオプションもサービスしておいてあげたわよ。ま、細かいのは端末で確認しといてね」


 ふと、手元の端末からマスクを起動する。


「あれ?」


 さっきまではバイクのヘルメットのような流線型の形状だったはずが、なんとゴーグルになっていた。この服のデザインに合わせたのだろうか。


 確かにこの格好でヘルメットみたいなマスクは不釣り合いすぎる。


「ああ、そうそう。最新のエアバブルも搭載してあるからその状態でも酸素の供給はできるようになってるわ。そこは安心してね」


 どう見てもゴーグルなのにマスクと同じことができるってどういうことだ。


 まあ、あまりツッコミ入れて真面目な回答を得られても難しすぎて理解できないだろうからここはあえて黙るという選択肢を選ぼう。


 機能的にもどうやら大きく変わっているわけでもなさそうだし。


「ねぇ、あぁた。名前を訊いてもいいかしら?」


「え? あ、はい、あたし、ナモミって言います」


「ナモミ。あぁたはとても迷っているみたいね。瞳の奥が不安を訴えてる。きっとあのボウヤの浮気相手のことね。誰だか知っているみたいだし、嫌っているってわけでもないみたい」


 いやいや、なんでそこまで見抜けるのよ、この人。


「もしかしたら譲った方がいいのかな、なぁんて遠慮したがってるみたいね。でもね、ナモミ。女は勝負の舞台を降りたらそこで負けなの。負けを認めたら惨めなだけ。同じ舞台には二度と立てなくなる。だから、もっと素直になりなさい」


 目をきらきらさせて言う。何をワクワクしているのだろう、この人は。


「あぁたのラァブは美しいわ。このあちし、美の追究者フローラが保証する。ボウヤをビンビンに感じさせてあげなさい」


 美を追究した人にそう言われると、なんだかとんでもないプレッシャーを感じてしまう。あたしの魅力で、ゼクをビンビンに……。


「さ、ナモミ、ボウヤを待たせているわ」


「はい、色々とありがとうございました!」


 精一杯のお辞儀とお礼を言い、あたしはその妖しい笑顔に見送られつつも、この店を後にした。



 ※ ※ ※



「よっ、お待たせ」


 待ちぼうけさんに軽く挨拶をしてみる。


「ん、お? ああ、いいのは選べたのか」


 今、二秒くらいゼクが見とれてた。よっしゃ。心でそっとガッツポーズ。


「どう? フローラさんに全部おまかせしちゃったんだけど」


「ああ……、よく似合ってる」


 心が躍るという心地をあたしは今、体感している。間違いない。


「はぁー……ナモミお嬢様、とても素晴らしいです。とても美しいです。ソレガシ、もう溜め息をついてしまうほどですな。いやはや、ゼクラのアニキが羨ましくてしょうがないですな」


 ゴルルさんが熱を込めて言う。照れるし、嬉しいけど、そうじゃない。


「ゼクラのアニキ、ほら、もっと褒めたらどうです?」


 そうそう、もっと言って、もっと言って。


「そうだな、見違えたよ。ナモミじゃないみたい……いや、違うな、ナモミらしさが引き出された気がする。やっぱり服を勧めてよかったようだな」


 圧倒的高揚感。


「えへへ……」


 すっかり浮かれぽんちになってしまっている感が否めないけれど、仕方ないよね。嬉しいんだもの。服を一つ着替えたくらいでこんな気分になれるもんなんだ。

 前よりも自分に胸を張れるようになった気がする。


 少しだけ素直になれたような気がする。これもフローラさんのおかげだ。


「あれ? そういえばエメラちゃんはまだ戻ってこないの?」


「エメラ姐さんはどうやら渋滞にハマってるですな。この時間帯は特に多いです。何せここは『エデン』でも随一の巨大マーケット。あのコークス・コーポ系列だから当然なのですな」


 見ると確かにマーケット中央の柱がさっきよりも混み合っているように見える。


 時間感覚もなかったからうっかりしてたけれど、スーパーのタイムセールのラッシュみたいなものかな。規模が大分違うけど。


「もうしばらく掛かりそうだな」


「ね、ゼク。だったら今度は食事にでも行こっか。あたし、お腹減っちゃったし」


「ああ、そうだな。ここに来てから何も食べてなかったしな」


 デートじゃないかもしれない。でも、それっぽくてもいい。


 今このときを楽しみたくなってきた。


 ビンビンにしてやるんだから、覚悟してよね、ゼク。

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