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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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それは恥ずかしすぎるッス (2)

 便利なようでいて不便のような、そうでもないような。だけれど、あたしの時代を基準にしてしまうと、ないものがあまりにも多すぎて、自分の物差しというものが全く機能していない。


「これを言ったらアレなのかもしれないけど、本当はもっとなんでも、ってくらい凄いことができるけど、今のところそんなでもない、ような感じなのかな」


「ま、概ねそんな感じッスね。なんだったらこの世から不可能という言葉をなくせてもおかしくはないくらいッス」


「権限や制約が機能してなかったら世界情勢がまるっと全て狂うであります。我が輩、そのような状況など想像もできないのであります」


「現実問題、この小難しい制約のせいで文化や文明がストップしている側面があるのも事実でござる。逆に大幅に衰退すらしているものもあるくらいで」


 緑の三姉妹が代わる代わる語る。


 エメラちゃんも、ジェダちゃんも、ネフラちゃんも、今の社会には色々と思うところがあるらしい。


 なんだかとんでもない時事問題にまで発展してしまっているらしい。よくは分からないけれど。


「ま、まあ……あたしからしてみたら、ううん、あたしの知っている時代からしたら知らないもの、なかったものばかりで不可能なんてなさそうに見えるし、想像もできないくらい凄くて、文化や文明も天井まで上り詰めてる感じさえしちゃうよ」


 つい最近まであたしは洞窟で暮らしてたんじゃないかってくらい、この高度文明の数々に驚かされてばかりだ。価値観も倫理観も何もかも全部、壊れてしまった。


「さっきの、エメラちゃんの話の続きじゃないけれど、ホラ、パーツ交換でいつでも好きなように変身できちゃったりするじゃん。あんなの、あたしには無理だし、っていうか人間には到底できないことだよね」


 常識の話なのか、倫理的な話なのか、まず、身体の隅々から隅々が違うパーツに置き換わったりしたら、それまでいたエメラちゃんと同じエメラちゃんと呼べるのかどうか。いつだったかゼクが言っていたような話を思い出す。


 マシーナリーにとって脳にあたる部位が何処になるのかは知らないけれど、きっと脳的なものさえ変わらなければ、指先一つも残っていなくとも概念的には同一のものという扱いなのだろう。多分。


「あと、なんだっけ、バイオメタル……? 人間とマシーナリーとで子作りできちゃうっていうじゃん。あたしの知っているレベルの話でも、例えば家畜とかの遺伝子をどうにかして人間に臓器を移植できるかも、くらいだったのよ? それがほら、もう次元が違うっていうか」


「そういえばエメラ殿の今のボディは繁殖支援もできる仕様でござったな」


「我が輩たちも保護観察員ではありますが、エメラは階級が高いこともあり、ボディも特別製のものを使えるのであります」


 一歳だとか言っていたはず。少なくともバイオメタルになってからは一年くらいしか経っていないという話だ。


 あたしは生きてから死ぬまでこのボディのままのつもりでいるけれど、どうもマシーナリーにとってボディは制服のようなものらしい。


 職業に応じて、階級に応じて、そういう仕様のボディを使える感じなのか。いっそ気軽すぎるなぁ、マシーナリー。


「子作りができるボディなんてレアッスよ、レア。別にマシーナリーが全員、バイオメタルボディが全員そのようになってる、ってわけじゃないッス」


「へぇー……、といっても、それでも凄いことには変わりないんだけどね」


 妊娠できるロボットなんて聞いたこともないし。


「時にエメラ殿。新しいボディはちゃんと使いこなせているのでござるか?」


 不意を突かれたのか、エメラちゃんがドキリとした表情を見せる。


「ま、まぁー……ぼちぼちといったところッス」


 目線を逸らす。今一瞬、チラリとゼクの方を見たような気がする。


 対するゼクは何かを知っているのか、いっそのこと、その質問の答えについてを把握しているかのような顔をしている。


「繁殖支援用の子作りボディはただのボディではないのであります。どんな種族でも円滑に繁殖できるよう、効率的に性行為を行えるよう設計インプットされているのでありますから。知識も完備。腰の振り方一つもほぼ身体が勝手に動いてくれる。何の問題がありましょう」


「そこら辺のおぼこと違って、常人の数百から数千倍ほど感度も高めているでござるからな。いくらでも子を産んでも負担のないようにもなってるはずでござる」


 優れた技術力についてドヤァしているジェダちゃんとネフラちゃん。


 しかし、何やら一方のエメラちゃんは不穏な顔をしている。身体が勝手に動く上に、感度が数千倍ってちょっと想像できないんだけど。


「あたしたち人間だとこの身一つだからボディに応じて知識とかそういうのがついてくる、っていうのが凄いなぁ、くらいにしか分からないんだけど、やっぱり新しいボディにしたりすると慣れとか必要になってくる感じなの?」


「そッスね。長年使ってきたボディと比べると違和感というのはあるッス。替えたばかりの頃だと慣れ親しんだボディが恋しくなったりするッス」


「慣れ親しんだボディというのはコレのことでござるか?」


 そう言ってネフラちゃんが何かの立体映像的なものをホワァーっと出してきた。


 おそらくは写真なのだろう。空中に何やら丸っこいボール状の物体が浮かんでいた。周囲に小さなアームのようなパーツが浮かんでおり、計四つ。少なくとも人の形はしていないが、作業用のロボットのような風体だ。


「ぎゃわああぁっ! そ、それは初代のボディじゃないッスか! なんでそんなデータをいつまでも持ってるんスか!」


 どうやらこれがエメラちゃんらしい。今と似ても似つかないけれど。


「エメラ殿もこれで何千年か過ごしていたのでござる。大層お気に入りで、これ以外のボディに替えるのを嫌がってたくらいで」


 なんか、いつだったか、どんなにキレイに着飾っても中身までは変えられないッス、みたいなこと言ってなかったっけかな。


「その割にはもう何億年くらいかヒューマン型のボディを使ってるでありますな」


 一応、同じ型のボディは気に入ってはいるのか。


「それは恥ずかしすぎるッス! そんなの早く消去デリートするッス」


 人間で言うところの幼い頃の写真みたいなものだろうか。いつまでも子供向けのキャラプリントの服を脱がない年長さんのようなソレか。


「大事な記録なので却下でござる」


 ふふふん、とネフラちゃんが笑ってみせた。

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