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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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好きだよ (4)

「エメラ殿も少し前までは保護観察員としては階級が低い方だったのでござる。ぁーと階級については大丈夫でござるか? マシーナリーはボディ素体によってその階級を定められ、それに見合ったコードや権限を付与されるのでござるが」


「そ、そうなんだ……」


「ネフラ、あんまり難しい話は」


 エメラちゃんが助け船を出してくれる。


 わざというか意地悪ではないんだろうけれど、あたしの知能レベルや知識レベルを把握しているからこそ、極力その手の話は控えめにしてくれていたのだろう。


 なんか一般常識中の一般常識みたいなんだけど。


「説明は義務でござる」


「これだからネフラは頭が固いと言われるのであります。ヒューマン、ええと名前は……、ん? コードが確認できない? あ、あ、あ? あなた、名前はなんというのでありますか?」


 目にハテナマークを浮かべてショートしたみたいに首を左右にカックンカックンとかしげながら訊ねてきた。


 そして何故かおっぱい揉んできた。そこを探して一体何が出てくるというの。


「あ、あたしはナモミよ。コードとかそういうのがない時代から蘇生されたの」


「な、な、な、なんと!? 吃驚仰天であります! ナモミ様! いや、ナモミ閣下! あなた様はヒューマンの中でも極めて希少中の希少であります!」


「マ、マジでござるか? ということは二十億、いや三十億年ほど太古のヒューマンということに……、ぅ、ぉ、ナモミお嬢様。そなたは何という……」


 あれ? 何このオーバーすぎる反応。言っちゃマズかったレベル?


「ナモミ閣下、大変失礼申し上げたであります。通りでここ数十億年もの常識が欠落していると思っていたのであります。いや、それは当然のことでありました! このジェダ、一生の不覚であります!」


「あ、いや、そこまで気にしてないよ、うん」


 というか、マシーナリーの一生って。寿命ないんじゃなかったっけ?


「一応マシーナリーは年功序列なところもあるッスから……」


 そうなのか。とはいってもあまり意味は分からないけど。


 エメラちゃん、ジェダちゃん、ネフラちゃんの三人の付き合いが実際に八億年だとしても、あたしは七十億年もの昔の人類なわけで、立場がとんでもないことになる、という解釈でいいのかな。


「ボクはあまり意識してないッスけどね」


 そんな感じはしてた。エメラちゃん、めちゃくちゃフレンドリーだし、例え大統領が相手でもタメ口聞いてしまえるくらい大らかな器がありそうだ。


「ナモミお嬢様、そなた様はきっと今、不安の極みとお見受けする」


 また膝をついてネフラちゃんがこうべを垂れる。ますますお姫様気分だ。


「して、お嬢様。生涯の伴侶はあの者――Z-o-E-a-K-k-R殿で心は決まっておるのでござるか?」


 ゼクの方に目配せをする。まだ名乗ってなかったはずだけど、コードを読み取ったのだろうか。


「不慣れな時代、不慣れな生活。ナモミお嬢様はこの環境の中、繁栄をすると誓ったと。しかし、相手を選ぶ猶予がござらん。押し付けられた婚姻と同義。そなた様は納得しておられるのでござるか?」


「ネフラ、あまりナモミ閣下に詰め寄るのは止めるのであります。困惑しているのであります。それにその答えは無意味極まりない。そもそも選択の余地がないのであります」


「ええい、これは重要なことなのでござる。好いてもおらぬ相手と交わるなど乙女心が許さぬであろう!」


 物凄い真面目なんだな、ネフラちゃん。あたしよりも頑固なんじゃないのかな。今、護衛の任務の真っ最中なんだけど。


 ふと、またゼクの方に目配せをする。あの目は今の申し訳なさを語っている。


 確かにそうだ。今は選択肢がない。


 人類滅亡の危機から救うためにはゼクと子作りをするしかない。望んだものじゃなかったはずだ。他に男がいるわけでもない。


 確かにずっと迷っていたときはあった。どうしたらいいのか分からなくなっていたときもあった。


 だってそうだ、好きな人と一緒になりたい。それが乙女ってものだ。


 でも、そんな迷っていたのはとっくの昔のこと。答えは分かりきっているんだ。


「ふぅー……」


 深く、深く深く、呼吸をする。


 みんなが見てるんだけどなぁ。どうしよっかなぁ。


「大丈夫、好きだよ。ちゃんと」


 顔を覆うマスクに手を触れ、解除。


 スッと、一歩、二歩。


 トクンとくるソレを抑え、ゼクを首から見上げる。


 ゼクのマスク越しに瞳が見える。ちょっとごめんね。そんな仕草をしつつゼクのマスクも解除。


 自分がどんな顔をしているのか、分かりようもないし、今はあまり知りたくもない。だけどきっと自分が一番見たくない顔で、ゼクに一番見せたい顔に違いない。


 視界が淡く、黒に包まれる。つま先に力がこもり、かかとが浮き上がる。


 熱くて、そしてやわらかいソレを余韻が残るくらいに、預け、そして貰う。


 時間が停止してしまったかのような、刹那の静寂。


 吐息が絡んで、帯びた熱を感じる。


 惜しむように身体をそっと離す。


 視界に光が戻る。


 ゆっくりと振り返り、みんなの顔がよく見えた。ああ、やっぱり少し恥ずかしい。トクン、トクンと、外にまで響いて聞こえてしまいそうだ。


「ねっ?」


 プニーが両手で口元を抑えてる。


 お姉様もくすぐったそうな笑みを浮かべてる。


 エメラちゃんに至っては見たことのない顔で口がポッカリ。


 ジェダちゃんも同じような顔。そしてネフラちゃんは目があった途端、またしても跪いて、今度はとうとう土下座だ。


 なんか周りのあまりにも大きなリアクションっぷりに、慌ててマスクを装着し直す。これで顔が全部隠れたわけではないけれど、耳まで赤くなってるところくらいは隠れてるかな。


「おみそれいたしました。大変な無礼をお許しを!」


 どうやら納得していただけたらしい。


「もう既に気持ちは固く決意されてござったとは。露とも知れず勝手なことばかり。このネフラ、一生の不覚でござる!」


 だからマシーナリーの一生ってなんなのよ。


「ということは、そちらのお二方も同じでありますか? Punica-KCMPIZ091-1様とLI――」


「せやで! うちもゼックン大好きやからな!」


 食い気味に、お姉様が両腕を広げ、ゼクの胸に言葉通りに飛び込んでいく。


 あたしよりもずっと大胆に腕をギュッと肩の後ろまで回して、回転しながらダイナミックなキスだ。


 あそこまでやっていないけれど、つい今さっきの自分があんな感じだったのだと思うと、また改めて耳が燃えてしまいそうなくらい熱くなってきた。


「どうやら無用な心配でありましたな。我が輩としても安心したであります」


 何はともあれ安心していただけたようだ。

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