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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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ケダモノです (2)

「あれ? そういえばプニカ先輩は何処ッスか?」


 さっきまでそこにいた走りゆくシマウマの群れを眺めて喜びの舞をしていたような気がするが、そういえばいつの間にか姿が見えない。また一人で何処か遠くまで行っちゃった感じだろうか。


「もしかして、あれ、プニカじゃないか?」


 そういってゼクの指差す先を見る。水辺の近く、密集するようによりそう巨大な群れの傍らにプニーの姿があった。


「あれって、ゾウじゃん」


 元々プニーは小さい方だが、この遠目、かつゾウの巨体と比べるとますます小さく見える。あんな近くで一体何をしているのだろう。


「ゾウっていうのは大丈夫な動物なのか?」


 あまり知らなそうな感じでゼクが聞いてくる。やっぱりそこまで詳しい感じではないらしい。まあ、あたしも言うほど詳しいわけじゃないんだけど。


「ええと、草食動物で温厚なイメージがあるんだけど、確かアフリカゾウとかだったら気性が荒かったような。見た目の通り体重とか何トンもあって、押しつぶされたりしたらひとたまりもないんじゃないかな。まあ、下手に刺激しなければ……」


 しかし、嫌な予感がする。


 動物園で飼育されているような優しい優しいゾウさんならまだしも、あれはアフリカをベースにした野生のアフリカゾウだというのなら話は変わる。


 そうこうしているうちに、感極まっているのか、プニーがゾウの足元付近にまで来ている。


 まさかとは思うが、触るつもりじゃあるまいな。


 そう予想した時には既に的中させられていた。プニーが一体のゾウの前脚の方に抱きつかんばかりに超接近していた。


「あ、ちょ、アレやばいって、ぜ、ゼクっ!」


 ゾウが足を振り上げ、そしてドシンと下ろす。思わず声を張り上げた時、瞬きをする間に、ことはもう終わっていた。


「あれ? ゼクラ様?」


 何故か目の前にプニーが、ゼクの脇に抱きかかえられていた。


 キョトンとした顔をしている。あまり何が起こったのか分かっていないようだ。


 一方のゼクはといえば、片腕でプニーを抱え込んだまま、冷や汗かいたような顔をしていた。


「あんまりはしゃぎすぎもよくないぞ、プニカ」


 向こうを見てみると、ゾウは不機嫌そうにノシノシとしていた。そこにさっきまであったプニーの姿は当然ない。あそこまで何百メートルくらいだ?


 なんで今、真横にプニーがいるんだろう。しかもゼクに抱え込まれて。


 脳が遅れて理解する。どうやらゼクに救出されたらしい。この間、およそ何秒の世界。いやいや、どんな俊足だ。チーターかよ。いや、チーターよりチートだよ。


「ダメだよプニー、不用意に動物に近づいちゃ。いくらなんでも今のは危なすぎるよ」


 まだ何が起こったのか理解できていない無表情でプニーが首をかしげる。


 プニーからしてみたら、目の前のゾウに狙いを定めていた次の瞬間、何百メートルも遠ざかっていたわけで、尚のこと脳が処理落ちしていることだろう。


「はっ!? もしかして、わたくし、助けられたのですか?」


「そッスよ、プニカ先輩。生身でゾウに向かっていくなんて無謀すぎるッスよ」


 危うくぺたんこプニーができあがるところだった。ただでさえぺたんこなのに。いや、物凄いグロテスクな光景になっていたんだと思うとゾウっとする。シャレになっていない。


「ゾウはとても温厚で優しい動物と聞いていたので……」


 世間知らずもここまでくると大したもんだ。知識だけで物事が完結してしまっている。プニーは今まで身の危険というものを感じたことがないのだろうか。


 かつて何百人といたプニークローンの記憶も肝心なところは引き継がれていない感じなのかもしれない。


 一息置いたら、今になってあたしにも冷や汗がじっとりにじみ出てきた。そのくらい、ことの始まりと終わりが一瞬すぎた。


 時間がようやく追い付いてきた感がある。


「一応、超強力麻酔銃も手元に用意してあったッスから最悪、これでも何とかできてたかもしれないッスけど、さすがに今のは肝が冷えたッスね」


 マシーナリーに肝なんてあるのだろうか。超高性能でウンチもできるらしいから普通に肝くらいならあるのかもしれない。


「あんなに大きなゾウでも二秒でコロリ。丸二日は眠ったままッス。レーザーピルなのでどんなに遠くてもバシュっと」


 ジャキっと腕の中から突き出た小型の銃を構える。


 こっちもこっちで恐ろしいな。


 どういう原理で薬がレーザー光線になるんだろう。ピルって丸薬のことだったような気がするけど、それじゃむしろガン薬なんじゃないの。


「皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。初めて見る動物に少々私も取り乱してしまったようです」


 どう見ても少々だったように思えないのだけれど、そこは目をつむっておこう。


 するりとゼクの腕の中から抜け出し、プニーが地に足を付ける。その矢先だ。


「あ、アレは! 巨大なネコです! ネコといえば愛玩動物としても有名な愛嬌ある動物だったはずです! 大変興味深いです!」


 そういって、舌の根も乾かぬうちにまた走り出して行ってしまった。初めて動物園に連れて行ってもらった子供か。


「なぁなぁ、ナモナモ、あの動物ってそんな有名なん?」


 宙を浮かんで逆さまになったお姉様が訊ねてくる。


 ネコ? まあ、ネコだったらよくペットとして飼われていたし、ゾウより脅威は――とここまで考えて、直ぐに脳からヤバい信号がビビビと送られてきた。


 あれは、あそこにいる黄色いアレは、確かにネコ科の動物だが、プニーの知識とはまるで違うものだ。()()といった時点で気が付くべきだった。むしろ、プニーも気付いてよ。知識持ってるんだったら。


「ライオンだよ、アレ! に、肉食動物! 獰猛なことで有名で、百獣の王って言われてる、あのライオンだよ! プニー、あ、あ、危ない!」


 本当に、本当に、本当に、本当にライオンだ。近すぎちゃってどうしよう!


「もぅ、プニちゃんも仕方ないなぁ……」


 呆れた顔をしながら、お姉様が手のひらを返して指をくいっと持ち上げる。


「ほわあぁっ! 浮きました! 私の体がふわふわになりました!」


 興奮も冷めないまま、わちゃわちゃと空中をもがくプニー。


「プニカ……」


「プニー……」


「プニちゃん……」


「プニカ先輩……」


 この場にいたプニーを除く一同はおそらく同じことを思ったかもしれない。

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