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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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ケダモノです

 見上げる空は高く、青く、そして一面に広がるのは端の見えないほどの大草原。踏みしめる土の感触もなんだか不思議に感じるくらいだ。


 肌を撫でる風の心地よさをいつまでも堪能しておきたいところではあるけど、あいにくとそれは目的と逸れてしまう。


「ほにゃあ~、すんごいなぁ~」


 ふわふわお姉様が青空を舞う。


 あの空も実際には特殊なスクリーンらしいが、それ自体は投影されたものじゃなくて、規模的な話をすれば太陽光も再現され、雲や風も自然に近く、本物の空といってもいいらしい。雨だって普通に降るとか。


 遙か上空から成層圏的な酸素の膜も人工的に作られているとか言っていたような気がするけれども、正直それがどういうものなのかはまるで理解していない。なんか物凄いドームだということだろう。多分。


「ナモナモ、あっちあっち、あっちにぎょうさんおるでぇ」


 そう言って腕ごと突き伸ばして指さす先には、あたしでも実物を見たことのないようなソレの群れがいた。


 白と黒の縞模様をした馬、シマシマの馬、シマウマだ。動物だ。立体映像とか、レプリカとか、剥製でもない、実際に生きて動いている、まさしく野生どストライクの本物の動物がいた。草食ってる。もしゃもしゃ食ってる。


「ふおぉぉぉぉっっ!!」


 聞いたことのない猛烈な叫び声をあげて一目散に走り出したのは、なんとあろうことかプニーだった。


 この場にいるほぼ全員がこういった動物を資料以外で見たことがないというのだから当然の反応なのだろうけれど、プニーは一際オーバーだ。


 いつものクールキャラっぽいのは何処に置いてきちゃったのよ。


「ケダモノ! ケダモノ! ケダモノです! ……あでっ」


 興奮のあまり、壮快に草っ原にコケる。


 そこまでテンションが上がるものなのだろうか。


 元々プニーは何百年と自分のクローンに囲まれて生きてきたこともあってか、他の生き物ないし、自分以外に生きているものへの感心が人一倍強いらしい。


「プニカ先輩、あまり離れないでくださいッス! 飼育といっても放牧ッスから調教されてるわけじゃないんスよー」


 今日この場に招待してくれたエメラちゃんが追いかけていく。


 根本的な話として、この時代での動物というのは希少中の希少らしい。


 あまりピンとは来ないが、徹底的な種の保存に努めており、人類からは隔離されてサファリパークのような専用のコロニー内でのみ飼育を許されているんだとか。


 小難しい話はよくは分からないけれど、あらゆる動物というものは環境の変化に適用する進化の末、今の形になったとかで、同じ動物が生まれることというのはまず天文学的な確率でありえないらしい。


 ここにいる動物たちは地球の環境で生まれた存在で、言ってみればそれこそ何十億年という年月をそのままの形で環境ごと保存されているということになる。


 なんともはやスケールの大きすぎる話ではあるけれど、環境の保全やら種の保存やら、難しい言葉はさておいて少なくともとんでもなく重要な施設には違いない。


 何が言いたいのかと言えば、とどのつまり、このコロニーは普通は入れない、一般的に立ち入り禁止の場所ということだ。


 なんでまた、そんなところにこうやっているのかといえば、全てはエメラちゃんの厚意によるものだ。本物の動物に触れ合いたいというリクエスト――主にプニーの熱弁と要望が事の発端だったわけだけれど、ソレが功を奏して今に至る。


 エメラちゃんは絶滅危惧種保護観察員という肩書きを持つだけあって、こういう施設へと入場権も当然のようにあるわけだ。


 てっきり、あたしたちの身の回りの世話してくれるくらいの役職かと思っていた。いつも大変助かってます。ありがとうございます。


 動物の触れあいと聞くと、なかなかほのぼのしいものだけど、これはなかなかワイルドなもんだ。動物園や牧場体験なんかとはワケが違う。何せ大草原に放り出されているわけで、そこら中にいるのも野生動物と変わりない。


 お肉を食べたい、と言ったら一切れのステーキとかじゃなくて牛の丸焼きを提供されたようなもんだろう。


 まあ、元より動物そのものが希少なんだから言うほど気軽じゃないことは重々承知だ。思う存分満喫しなくては。


「うぅ~ん、空気が美味しいなぁ~」


 伸びをしてみたりする。


 正直なところ、『ノア』ではこれほど広い大自然なんてなかった。仮想スペースで投影された立体映像のようなものくらいがせいぜい。


 あれでも本物のようには感じられたけれど、やっぱり実際にこういうものを目の当たりにすると実感が違う。


「ねえ、エメラちゃん。ここにはどんな動物がいるの?」


「現在の地域は、地球で言うところの南アフリカという土地をベースにした動物が生息しているみたいッスね。近辺だとシマウマの他には、カバやキリン、ヌーやトムソンガゼルといった草食動物が確認できるッス」


 凄い。本当にアフリカみたいだ。


「あたしでも知ってる動物ばかりみたいね。なんか逆にちょっと驚いたかも。何か変わった進化をしたり、とかはしてないのかな。首の長いシマウマとか、羽の生えたキリンとか」


「いや、さすがにそういう進化はありえないッスよ。進化は環境への適用なんスから、一定の環境が維持されていれば必要以上の進化をすることもないッスし、それにここでは保存を第一に考えているから意図的に進化、あるいは退化とかしないように環境そのものをコントロールされているんスよ」


 進化した未来動物を見られるかと思ったけれども、それはさすがに幼稚すぎる考え方だったか。


「あと、実はこういう保存の施設は地球がまだあった頃から盛んに作られていたそうッス。何といっても地球の環境も著しく変化していったッスからね。最終的には人類すら住めなくなったくらいッスから」


「じゃあ、そういう施設が後々にコロニーとして宇宙に打ち上げられた感じ?」


「そッスそッス。当時では相当スケールの大きな計画だったらしいッス。何せ地球の動物を丸ごと宇宙に飛ばすんスからね。だからこそ、ナモミさんのよく知る環境の動物が今もこのようにしてそのままの形で生きながらえている、ってわけッス」


 昔の人も頑張ったんだな。あたしにとっては未来の話になるんだろうけど。

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