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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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おっぱいが欲しい (2)

 それにしても、胸の悩みをこうもどストレートに打ち明けに来るプニーの純粋無垢っぷりに、ちょっと込み上げてくるものがある。


 本当に少し前まではプニーもマザーノアのような無感情なコンピュータみたいに感じていたのだけれど、やっぱり見た目がこうでもプニーは女の子らしい。かわいい。いじらしい。抱きしめてあげたい。


 だが、本人はこれでも至って真面目だ。こちらも真面目に対応しないと。


わたくしもこの『ノア』で生活を共にする者として、将来的にも人類を繁栄させる身として、男に子作りさせる気を起こさせないと女としての立場がないと思うのです」


 いつになく分かりやすいくらい、表情に出る。プニーも真剣なのだと。


 思っても見れば、今『ノア』にいる女性陣の中で、容姿的な意味でも一番幼いイメージはある。まさかゼクもロリコンじゃあるまいし、プニーはマニアックだ。


 本人としてもそういうところは自覚せざるを得まい。


 あたしもプニーのゼクに対する数々の猛アタックを見逃していたわけじゃない。


 ただ最近は隙あらば「性行為セックスしてください」という露骨なアピールは少なくなった方だろうか。


 やっぱりプニーも色々と考えているに違いない。


 いつだったかはゼクと手を繋ぎながら歩いている姿を見かけたりした。あれは手を繋いでいるというよりもゼクの手を離すまいと両手でしっかり握って、まるでお化け屋敷で露骨に怖がる彼女っぽさがあって、なんか違う感が凄かった。


 多分プニーはスキンシップの取り方が分からないんだと思う。


 ゼクもゼクで優しいからか受け入れてくれているみたいだけど、ああいうアプローチの仕方をごく一般的かと言われたら首をかしげてしまう。


「そう、難しく考えることはないんじゃないかな。ゼクだってほら、拒絶しているわけじゃないんだし」


「しかし、私は正しいアプローチの仕方というものが分からないのです……。色々と資料を参考にしているつもりなのですが」


 確かに、情報収集なら困ることはなさそうだ。


 ただ、誰かの書いた指南書なんて大概が成功している人が自分の経歴を語ってるだけの場合が多いし、そのまま丸っきり参考にできる例って言うほどないとは思う。


 あたしの時代でも、コミュニケーションの苦手な人に向けた対人恐怖の克服を促す本に、出だしから「人に接触してみよう」「異性に話しかけてみよう」みたいなところから解説が始まって、本末転倒すぎる、なんてことが話題になってたのをなんとなく覚えてる。


 人には人の個性がある。誰かが成功した一例を、誰もが成功できる凡例と思っちゃいけないんだ。


 むしろそんなことで成功を収められるなら、少女漫画とかを読んだことある人はみんな恋愛マスターになれているはずだ。そのくらい極端といってもいい。


「女としての魅力を磨くにはどうしたらいいのか……」


「だ、大丈夫だって。ちゃんとプニーにも魅力はあると思うよ?」


 あれ? いつかのゼクも同じこと言っていたような……。


 プニーに魅力がないかといえば、別にそんなことはないはずだ。整ったキレイな顔はしているんだし、需要はある程度の魅力はある。


「それとも、プニーはゼクに何か言われたりした?」


 俺はロリコンじゃないんでな、みたいなことを言うようには思えないが。


「いえ、ゼクラ様からは特に何も。ただ、このままでは少々不安が……」


 奇妙なアプローチをしていたプニーの姿を思い出す。あれを今後も継続していくとなると不安というか、何か新たな文化が生まれてしまいそうな予感はある。


 大体、何処からあんな情報を引っ張ってきたのやら。逆に今度プニーに教えてもらいたいくらいだ。


 あのセクシーさとは無縁な謎のずんどこダンス。ずんどこ、ずんどこ。


「あんまり難しく考える必要ないんだって」


 つい同じ言葉を重ねてしまう。


 なんだかつい最近のお姉様とのやり取りがフラッシュバックする。逆の立場ではあるが、お姉様もこういう感じだったのかもしれない。


 違うところがあるとすれば、プニーは頑固なあたしとは違って、ちゃんとこうやって自分から悩み事を打ち明けに来ているというところか。


「まずね、プニー。女の魅力っておっぱいだけじゃないんだよ?」


 自分で言っててちょっと恥ずかしくなった。


「アプローチ掛けるのに必要なものって魅力だけじゃないし、というか、プニーには十分な魅力があるんだから、そこんとこは不安にならなくていいんだよ」


「そう、なのですか……?」


 ひょっとしなくても、プニーの悩みの半分はおっぱいでできているらしい。


「女は愛嬌だよ、愛嬌。もっとこう、可愛らしさを振りまいていく感じでさ」


「振り、まく……」


 ぎこちなく復唱された。普段は情報量ハンパない割にプニーの理解の遅さは一体なんなんだろう。


「笑顔になろうってこと。プニー、いつも同じような顔してるからさ、たまにこうにこーって笑うとそれだけで違うよ。だって、プニーの笑顔、可愛いんだもん」


 いつかの育児練習の際に見せたあのくらいの笑顔。あれもまだ無理している感じではあったけれど、それでも十分に可愛いいい笑顔だった。


「笑顔……。ゼクラ様はそれで喜んでいただけるのでしょうか」


 そうだよ、と言いかけて、ふとゼクに言われたことを思い出す。そう確か言っていた。「ナモミ、お前の笑顔は……」。そこまで振り返り、顔が破裂したんじゃないかってくらい、とんでもなく熱くなってきた。


「あの、ナモミ様?」


「あ、うん、喜んでくれるよ。すっごい喜ぶに決まってるじゃん、あはは」


 急に心臓がバクバクしてきた。絶大な効果はある。というか、むしろクリーンヒットしているのはあたしへのカウンターパンチのような気もするが。


「やっぱゼクも無愛想な顔よりもとびっきりの笑顔の方がいいって」


 頭の中でゼクの言葉がリピート再生され始めてきた。ああ、ヤバい。なんという破壊力だろう。ゼクめ、普段は草食みたいな顔してるくせに、急に男前ぶるときがあるから油断ならない男よ。


「ナモミ様? 顔が赤いようですが、体調が優れないのですか?」


「だ、大丈夫、大丈夫。赤くないから。大体いつもこんな顔してるから!」


 思い出しゼクは心臓に悪い。プニーもお姉様もゼクとそういう付き合いしてるんだし、分かりそうなものだけど。

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