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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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分かんないわよ (5)

「そうだ、ナモミさん。折角ッスからアップデート手伝ってもらえないッスか?」


「え? あ、アップデート? でもあたしなんかじゃそういう高度なものは……」


 今の今まで話していたことを総括しても、あたしには到底無理という結論に至ったように思えたんだけど。


 何処から手を触れればいいのかすら分からない状態だというのに。


「いやいや、ナモミさんにしかできないッスよ。何せ、七十億年もの過去の記憶を持っているんスから」


「はへ……? 具体的には、何をすればいいの?」


「例えばそッスね、ここにあるデータから七十億年前の道具をボクが再現して生成するッス。それについてをナモミさんに解説してもらうんスよ」


「それって何か意味があるの?」


 データがあるものを解説する理由が今一つしっくりとこない。調べて出てくるようなものならわざわざ改めて説明が必要なのだろうか。


「もちろん! めちゃくちゃ意味があるッスよ!」


 エメラちゃんが嬉々として声を張り上げてくる。


「なんといってもデータそのものは残っていても実際にそれがどういうものであったかなんて生のデータは皆無ッスからね。極端に言ってしまえば、オコメ、食べるもの。オハシ、食べるための道具、みたいな」


「ぁー……? ぅー……?」


 分かるような、分からないような。


「ボクもデータとしては知っているつもりッスけど、さすがに七十億年もの昔のデータとなると詳細が欠けてて当然ッスからね。実際にはこうだった! なんていうものもあったりするんスよ」


 あんまりしっくりと頭の中で処理はできていないが、まあまあなんとなくは理解できてきた。


 例えば、あたしの時代でも恐竜が何万年前に生きていたという事実を知っていても、どんな生態系だったのかということを知っていても、じゃあ恐竜がどんな風に過ごしてきたのかなんていう光景は見たことがない。


 要はそういうものなのかもしれない。よく分からないけれど。


「でもあたしがやらなくても解説くらいならデータと再現したものがあればできるんじゃないの?」


 ここのところが分からない。


「いやいや、やっぱりそこは七十億年前の当時を知るナモミさんがやるから意味があるんスよ」


「そういうものなのかしら?」


「色々と不安かもしれないッスけど大体の段取りはボクにおまかせッス! こっちで動画を撮影するッスからナモミさんはただ道具を紹介するだけでいいんスよ。できれば正しい使い方から間違った使い方の範例なんかもあるといいッスね」


「なんだか、マイチューバーみたいね……」


「まいちゅーばー?」


「あ、いや、まあ厳密には色々と違うんだけど、例えばそうね、新しい商品とかが出たり、その商品をちょっと変わった使い方をしてみたりするパフォーマーみたいなもの、かな」


「広報部みたいなものッスか?」


「なんというか……、宣伝とかなら企業がやってくものなんだけど、そういうのとは別で、個人が自主的にやってるのが大体ね。さっきの例えじゃないけど、お米を一気に百人分炊いてみた、とか、お箸を木を削るところから全部自分で作ってみたとか、あまり普通の人がやらないことを大げさにやる感じ」


 実際はそれが全部というわけではない。


 中には流行りのゲームを実況しながら遊んでみたり、有名な音楽に合わせて自分で考えた振り付けで踊ってみたり、見ている誰かに自分のできることをアピールするものだと思ってる。


「この手のものってあたしの時代では結構流行ってて、そういう動画もいっぱいあったと思うんだけど、もう残ってないのかな」


 いわゆるインターネットに配信した情報なんだから永久的に残っていそうなものだけれども。


「ああと、それっぽいデータはあったスけど、復元できる状態じゃないッスね。昔はそういうものが流行っていた、というデータがあるくらいッス」


 インターネットは世界中につながっている、などとはいったものの、結局のところ地球そのものがなくなってしまった今では影も形もなくなってしまうのか。


「でもなかなか興味深いッスね。なんでそんなことをしてたんスかね」


「動画として残しておけば誰かが見るし、楽しかったら他の誰かにおすすめしたりするし、そうやって自分のやってることが多くの人の目に映る。そういうのを一つの楽しみにしてる、んだと思う」


「なるほど、なるほど……」


 納得してもらえたみたいだ。


「じゃあ、ナモミさんにも是非そういう感じでやってもらいたいッスね!」


 あ、結局そういう話になるのか。


「ま、まあ分かったわ」


 あたしの時代の道具をただ紹介するだけだ。そのくらいのことならあたしにはできるし、逆にあたし以外にはできない。そう、あたしにしかできないことだ。


 どんな形にせよ、何かに貢献できると思えばやりがいはあるというもの。


 それに、実はあたしもマイチューバーの真似事みたいなことはしたことがある。


 中身は、新発売のスナック菓子を食べて味の感想を言うくらいの何ともない内容の動画だったけれども、再生数はそれなりに稼げた記憶がある。有名な曲とかを歌ってみた感じの動画はさっぱりだったけど。


 ああいうものだと思えばいいんだ。難しく考えることもない。


 分からないことだらけのこの時代で、やっと見つけた分かることだ。やらない方が勿体ない。


「早速七十億年前の道具を再現してみるッス」


 そういって、エメラちゃんが手のひらを器のようにして、何かを念じるかのように集中する。すると、ふわぁとその手のひらの上に何かものが出てきた。


 なんだろうこれ。


 ピンク色のカプセル状のものにコードが繋がってるリモコンのようなモノ。


 妙に太い歪な棒状をした何故かスイッチがついたモノ。何らかの道具であることは確かだけど、あれ? これってもしかして……?


「ナモミさんにはこれらの道具の使い方についてを実演してもらいたいッス。勿論その様子は録画しておくッスから重要な資料として永久保存されるッスよ」


 ちょっと待って。


 これって、そのこれって、もしかしなくても……。


「あの、エメラちゃん……? この道具って……」


「データによると太古の人類が性処理に使っていた道具らしいッスけど、ナモミさんならこれがどのように使われていたものなのかちゃんと分かるッスよね」


「わ、わ、わ……」


「わ?」


「分かんないわよ!」

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