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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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分かんないわよ (4)

「ぁー……でも気を悪くしたら申し訳ないんスけど、正直この『ノア』を管理ないし、維持させるほどの技量や知識を、人類が担えるとはボクは思えないッス」


 エメラちゃんが申し訳なさそうに言う。


 課題がデカすぎて無理っぽそうなのは何となく分かる。だって、これから子供が生まれたとして、教育しなければならないんでしょ?


 この、今のあたしでも理解不能なヤバい難解な途轍もない代物を。


 そういえば『ノア』を開発したのは人類じゃないみたいなことも言っていたような気もするし、そこの辺りはしょうがない話なのかもしれない。


 しかし、ふとそこでまた疑問が沸いてくる。


「この『ノア』が何だか凄い技術でできているのはまあ何となく分かったけれどもソレって一体何処からやってきた技術なんだろうね」


 だって、そうだよね?


 マシーナリーというか、ロボットは人類とはまた違う、独立した全く別の種族という次元だったはずだ。言ってしまえば亀裂のある関係性だったというのはこの間の一件でよく分かった。


 と、なると。じゃあ一体この『ノア』は何処の誰が造ったものになるのだろう。


「人類に手に負えないほどの技術力で、人類以外が造った……んだよね?」


「ええと記録を参照すると……機械人形オートマタッスね。製造者」


 何やらまた変な言葉が飛んできた。ただでさえ今のこの現状で情報量の多さに頭がパンクしかけているっていうのに、まだ増えるというのか。


「オート、マタ? それは人類とも、マシーナリーとも違うの?」


「人類でもあり、マシーナリーでもあるッス」


 ああもう、何を言っているのか分からない。やめて。これ以上あたしの脳みそに情報をぶち込まれたら本当に狂っちゃう。


「ああ、ごめんッス。ナモミさんに分かりやすい言葉を選ぶと、そッスね。サイボーグという言葉なら分かるッスか?」


「サイボーグ。人間に機械のパーツをつけた感じのアレ?」


「そッス、そッス。生身では限界のある人類の一つの進化先ッスね。破損した身体の部位を機械パーツで補う技術が発端とされてるッスけど、思考回路や生命装置ひっくるめて殆どの箇所が機械化しているのが機械人形オートマタと呼ばれているッス」


 ま、まあ、サイボーグと言われたら何となくイメージはつきやすい気はする。


 サイボーグと人間では全くの別物だ。


「それはマシーナリーとの違いみたいのってある、の?」


 恐る恐る聞いてみる。またあたしに理解できないようなとんでもない情報量がガッツンと飛んでこないことを祈るばかりだ。


「マシーナリーは機械から自立した種族で、機械人形オートマタは人類が自立した種族ッス」


 ごめん、かなり短めにまとめてもらってドヤ顔してるところ悪いんだけど、割と厳密なところの区別があたしにはつけられないよソレ。


 まあ、ロボットは元々人間が開発したものなのは分かってる。


 あたしの時代でもAIの技術が発達していっていずれは人類の知能を超えるだろうってのも噂されてたし、そういうのが実現した結果がマシーナリーなのだろう。


 一方の機械人形オートマタはとどのつまり元は人間で、もう人間と呼べないくらい改造しまくった改造人間ということでいいのかな。よく分からないけど。


「あたし、本当この時代のこと分かってないから何かおかしなことばかり言ってるかもしれないんだけど、人類と機械は長い歴史で友好関係じゃなかったけど、人類と機械人形オートマタ、っていうのはそうでもないってことなのね?」


 お願い、この解釈あってるよね。


 ものすごくとんちんかんなこと言ってないよね?


「その通りッス」


 ピンポーン。大正解だ。


「まず人類も機械人形オートマタも分類上はどちらも人類ッス。ただ性能面や技術面とかの話をするとマシーナリーと機械人形オートマタには区分け以外の差が実はないんス。ここがややこしいところなんスよね」


 うぅ……あまり難しそうなこと言わないで。


 もう既にパンク寸前で頭で理解できなくなってきているんだから。


「人類にもまた人種差別というのがあって、機械人形オートマタを人類と認めない派閥も当然あったッス。機械人形オートマタはマシーナリーと同列だ、とする場合も当然。まあ、それは今も議論されている問題ッスからボクもハッキリとは答えられないッスね」


 ああ、差別問題。この時代にもそういうのはやっぱりあるのね。その辺の話に首を突っ込むとまたえらく厄介なことになってしまいそうだ。


「話がちょっと脱線しちゃったけど、今のあたしには今のこの環境がオーバーテクノロジーっということだけはよく分かったわ……」


 とりあえず分からないということが分かった。こういうときは分かることだけ分かればいいと思う。


「まあ、でも今はボクがいるッスから。ナモミさんが頭を痛める必要はないんスよ。困ったことがあれば全部ボクにおまかせッス! そのためにいるんスから遠慮せずに何でもお助けするッスよ!」


 ああ、いい子だなぁ、エメラちゃん。なんでもかんでも押し付けてしまって気が引けてしまうところではあるけれど、実際のところ、こういう難しいところはエメラちゃんに頼むしかないのが現状だ。


「できないものはできないものとして、あたしにも何かできることがあればいいんだけどね……、あたしにできるものなんて……」


 この時代、あたしにしかできないものなんてないだろう。根本的に文化レベルが違うのもそうだし、ゼクにしてもプニーにしてもお姉様にしても、あたしよりもずっと優れた能力や技術を持っている。


 子作りか? 子作りするしかないのか?


 もう赤ちゃん産むだけで生きていくしかないのか、あたしは。


「そんな気落ちしなくてもいいんスよ。ナモミさんにはナモミさんにしかない貴重なものがあるんスから」


「えっと……やっぱ、子作りくらい?」


「何言っているんスか。ナモミさんは七十億年前の人類ッスよ? この図書館にあるどの情報よりも生きた情報を持っている、いわば生き字引じゃないッスか」


「そ、そんなに貴重、なのかな……、情報だって調べればいくらでも出てくるんでしょ?」


 実際にプニーとか七十億年前の情報を引っ張り出して当時の食生活の再現をはじめとして、あたしの部屋のコーディネートまで見事に馴染み深い仕上がりにしてくれたくらいだ。


「記録された情報と記憶されている情報は違うッスからね。年月と共に何処かしらズレも生じてくることもあるんスよ」


 そうは言われてもピンとこない。が、よくよく考えてみれば、あたしの時代で言ってしまうと恐竜とかが生存しているようなものか。そら貴重だ。

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