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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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CODE:Z (2)

※番外編

 初代のシングルナンバー、コードAの余生を綴った資料に目を通したことはあったが、アレが俺たちの未来の姿なのだと思うと、ゾッとして仕方なかった。


 比較的最近のシングルナンバーはどうやらまともな生活ができるレベルでも解放されているらしいが、果たして俺たちがそこに含まれるかは知るよしもない。


「オレたちも早いとこ解放されたいもんだぜ、へへへ」


 暢気な発想だ。次々に解雇されている先輩たちへの馳せる想いはないのか。


 せいぜい五体満足で解放されるのならいいがな。


 ちなみに、シングルナンバーという呼称は歴史的に見ると最近できたものだ。今ではダブルナンバーやトリオンナンバーなんてものができてしまったため、こういう呼び方が流行るようになった。


 しかもだ、そいつらは俺たちみたいな奴隷ではなく、普通の人間だというのだから嫉妬を覚えてしまうし、また反面、哀れみもある。


 コードを付与されるということはとどのつまり、管理が容易になるということ。


 量産可能な人造人間の奴隷を道具のように管理するためにこういうコードなんてものが作られたというのに一般人にまでコードが付与されるなんて世も末だ。


 これまでごく普通に過ごしてきた人々が、ある日突然奴隷と同じ認証コードをつけなくてはならない制度ができたとき、一体どんな気分だったことやら。


「それにしても気前のいい話だな。もう既にコードWまで来ているとは」


「じゃ、悪い情報、いっとくか」


 重い溜め息をつくと、ジニアは神妙な面持ちで声のトーンを落とした。


「ザンカに解析を頼んだんだ。オレたちをここに叩き落とした防衛システムのな」


 あまりにも笑えない、そんな表情を浮かべ、ジニアが言葉を続ける。


「大分改竄された形跡があったようだが、機械民族マキナの仕業だったらしいぜ? しかもよりにもよってオレたちが所属している側の、上層部だって話だ」


「それは一体どういうことだ?」


「ま、()()()()ってとこか。わざわざ隠蔽工作もご丁重にされてたみたいだし、上の連中全員の総意じゃないってとこだけが救いか」


 俺たちの司令側が、俺たちを攻撃していただと?


「ゼクラ。お前だって分かるだろ。オレたちは兵器だ。もういくつかの星も破壊してる。あいつらはそろそろ潮時と考えてるんだよ」


「人類にこれ以上武力を持たせてられないってか?」


 俺たちを都合のいい兵器として生み出しておきながら、今になってその武力が疎ましくなってきたというのか。これまで俺たちを含む数多くのシングルナンバーたちがその命を賭して、機械民族マキナに尽くしてきたというのに。


「解放なんてのも、ま、そういうことなんだろうよ。もうしばらくしたらオレたちも無事に解雇されて、んでもって管理されるだけの家畜になるってことよ」


 初期の頃のシングルナンバーたちの多くは、まともな状態で戦場から立ち退いたわけではない。文字通り使えなくなったから捨てられたのだと容易に想像できる。


 だが、比較的最近のシングルナンバーは健全な状態での退役が増えていた。妙だとは思っていたし、ジニアの言う話をそのまま飲み込めるくらいの違和感は前々から察していた。


 俺たちは目障りな存在なわけだ。あまりにも勝手すぎる話だが、ソレを裁くような法律ルールもないし、人類にとって機械民族マキナはいわば飼い主とペットのような関係だ。使い捨ての奴隷の都合を考えるほどの良心はそうないだろう。


「んでだ、どうするよ。真面目なゼクラさん。このまま惑星『アルテミス』行って一暴れしてくるかい?」


「俺たちにある選択肢は、いつも一つだろ」


「ああ、分かってるよ。()()()()()()()。それがオレたちだからな」



 ※ ※ ※



 それから少し後の話をしよう。


 惑星『アルテミス』に着いた俺たちは任務の通り、殲滅作戦に入った。


 だが、そこは事前に与えられていた情報と異なる環境ばかり。それどころか、こちらの状況を向こうに把握されていたかのように、戦況はあまりにも不利としか言えない状況だった。


 予測していなかったわけではないが、どうやらこれも上の()()()()らしい。


 自らの手で復旧した戦艦『サジタリウス』号も、まるで玩具のように遊ばれて、交錯した情報に翻弄されていた俺たちに任務を全うすることは不可能だった。


 いかに実績を積んだ兵器とは言え満身創痍で挑んで勝てるような相手ではない。


 作為的な戦場で為す術はなく、戦艦『サジタリウス』号は惑星『アルテミス』から矢のように飛んで逃げることになった。


 だが、相手が易々と逃がしてくれるなどという都合のいい話はなく、すぐに無数の追撃部隊に取り囲まれ、あえなくして戦艦『サジタリウス』号は四面楚歌の状況に置かれることになった。




「ゼクラさん、退路がもうありません。機体の損傷も限界です」


 レーダーに映る無数の艦隊。情報にはなかった戦力が一斉にこちらの行く先を潰していく。何隊か破壊したものの、次から次へとキリがない。


 艦内も警報が鳴り響いて止まない。幾度となくコイツとも窮地を脱してきたが、今回ばかりはどうしようもないらしい。


「どうやらオレたちもここまでみたいだな、ゼクラ」


 相変わらずジニアは愉快そうに笑みを浮かべる。


 今は宇宙を漂う瓦礫の影に身を潜めているが、向こうはじわりじわりと間合いを詰めて、いつトドメを刺すか狙いをすませているようだ。


「ズーカイ、ネクロダストは使えるか?」


「は、はい! ステルス・カモフラージュも正常です。いつでも乗り込めます」


 こういうときのためのポッドだ。まさか使うときがくるとは思わなかったが。


「へへへ……、みんなで心中かい。それも悪くないがオレは抜けとくぜ」


「何言ってるんですか? 早く乗り込みましょう!」


「バーカ、いくら石ころに化けたとこでこっちの位置は特定されてるんだ」


「ジニア、何を考えてる。お前まさか」


「オレは『サジタリウス』と心中させてもらうぜ。お前らはここでおねんねしてな。オレは少しでもヤツらを引きつけておく」


「ゼクラさん、敵の艦隊がもう近くです! これ以上猶予はありません」


「だとよ、ゼクラ。さっさと行け。オレの棺桶はこっちだ」


「……分かった。じゃあなジニア」


「へへへ、あばよ」


 最期に、やっぱりコイツは愉快そうに笑っていた。

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