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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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CODE:Z

※番外編

「おい、起きやがれ、寝坊野郎」


 はっきりと覚醒していないうちに、なんとも不快な雑音じみた声がカンカンと響いてくる。うるさい。それを言葉にする間も惜しみ、拳が空を切った。


 渾身の力のつもりではあったが、思いの外ヘロヘロなそれは容易く声の主の手のひらに収まる。


「ようやく起きたかよ、ゼクラ」


 へへへ、と笑われる。ぼやけた視界越しでも分かる。あのにやけた面が浮かんでくるようだ。相変わらずこいつは愉快そうに笑う男だ。


 振り上げた拳をそのまま引き上げられ、半ば強引に俺はグイっとポッドの中から出される。そして出された勢いで、宙を舞い、天井に届くか届かないかのところで、俺は身を翻した。


「よっ、と」


 こんな狭いところで変にふざけるのは勘弁してほしいものだ。


「で、ここは一体何処だ? もうみんな配備についているのか?」


 見たところ、記憶にない小部屋だ。俺が今の今まで眠っていたポッドを除けば、テーブルはおろか、椅子すらも見当たらない。せいぜい目につくのは天井の簡素な丸いランプくらいのものか。いかにもなオンボロ部屋だ。


「まあま、慌てるなよ。今な、良い情報と悪い情報があるんだ」


「勿体ぶる意味はない。現状を報告しろ」


「はいはい、ゼクラ様は真面目ですね」


 両手をひらひらとおどけて見せつつ、やれやれといった様子で、その手元にある端末の操作を始める。すると、腕の端末に仕込まれたプロジェクターから立体映像が投影されてくる。


 そこに映っていたのは、俺の記憶に鮮明と残っている、戦艦『サジタリウス』号だ。鏃のような形状をしており、理論上、現状で最高速を出せるエンジンを兼ね備えた戦闘用の宇宙船。そして、俺たちと長年共に過ごしてきた船でもある。


「まぁ~オレたちの目的はコイツで惑星『アルテミス』を目指していたわけだが」


 投影される『サジタリウス』号の先に赤いラインが引かれ、その先の球体の図形と繋がる。乗船する前にも見たプロジェクトだ。


 この赤いラインはルートを指し示しており、この球体が惑星『アルテミス』を模しているというわけだ。


 しかし、その赤いラインはパッと途中で途絶えて、折れるように見当違いの方向へと進み出した。


 あまり聞きたくはない話であることは容易に想像できた。


「今ここだな、資源惑星。名称は特にはない」


「話の間を抜くな。何があったかを報告しろ」


 コイツの説明下手には困りものだ。


「ようするにだ、オレたちがおねんねしている間に、どっかの防衛システムだかに引っかかってボッカーン。そんで、自動操縦でこっちに落ちてきたってことだ」


 概ねは分かったが、そんないい加減な報告があってたまるか。コイツの説明を少しでも頼りにしようとしていた俺がバカだったらしい。


 自分で整理した方が早そうだ。




 俺は通称ゼクラ。呼び名はあれど名前は特にはない。戦艦『サジタリウス』号の乗組員クルーとして宇宙を飛び回り、司令塔である機械民族マキナの指示のまま、戦闘を繰り返す人造人間にして人間兵器。


 目の前でにやけているバカ野郎も同じく人間兵器。名前はないが、呼ぶときはジニアと呼んでいる。こんな体たらくで副艦長だというのだから笑えない。


 そして今、俺たちが受けている任務は惑星『アルテミス』の破壊だったはずだ。自分の所属している機械民族マキナとは敵対関係にある別な種族の機械民族マキナの殲滅だ。


 なんでロボット同士の戦いに人間が巻き込まれるのか理不尽さも感じるだろう。


 コスト的な意味では戦闘員の量産は人間の方が都合がよかったらしい。人間である俺からしてみれば都合がいいだなんて都合の悪い話でしかないわけだが。


 さて。目的である惑星『アルテミス』までの航路は途方もなく長く、一時的にコールドスリープに入ったというところまでの記憶はあるのだが、どうやら厄介なことに辿り着く前に撃墜されてしまったらしい。


 運良く名もない資源惑星に流れ着いたようだが、任務が続行可能なのかどうかが今一番知りたいところだな。


 資源惑星は言葉の通り、宇宙開拓を進めるための資源をかき集めるために指定された惑星のこと。使えそうな資源を採集するだけ採集したら用済みになる、エゴの被害者みたいな存在だ。


 規模にもよるが、生物の存在しない惑星が殆どで、移住を目的とはしていないから遠慮無しに星として機能しなくなるくらい枯れ果てるまで搾り取られる。最終的には大きな泥団子みたいな星となって宇宙を彷徨い続けるわけだ。


 そんな資源惑星にいるということは、ここが現役であれば復帰も望めるはずだ。例え戦艦『サジタリウス』がスクラップ同然の鉄クズ状態であっても、ある程度の資源が揃っているならば修復できる程度の技術は持ち合わせている。


 性能面では完全に元通りにすることは難しいだろうが、このアホ面下げたジニアにすらできることだ。大した問題ではないだろう。


「で、単刀直入に聞くが、任務に復帰できる状況なのか?」


 他にも聞きたいことは山ほどあるが、コイツに多くの情報を求めても仕方ない。


「そっちはまあ大丈夫だな。お前が寝坊してる間に『サジタリウス』も万全な状態まで復旧しといたぜ。なんだったらズーカイのヤツに頼んでみな。ここいらの炭鉱ツアーに連れてってもらえるぜ」


「そうか、それはすまなかった。なら、のんびりはしてられないってことだな」


「おおっと~良い情報と悪い情報をまだ伝えてないぜ?」


「今の話がそうじゃなかったのか?」


 戦艦の修復完了が良い情報で、撃墜されてルートから外れたのが悪い情報だろう。今の話の流れからしたら。


「まあま聞いとけ。通信でニュースを流してたんだがな、シングルナンバーの解放がコードWまで来たらしいぜ? こらぁもう、いよいよって感じじゃね?」


「何、もうそこまで来てたのか」


 シングルナンバーというのは俺たちみたいな人造人間に割り振られた認証コードを示す。低コストで量産された俺たち人間兵器はそう長くは持たない使い捨て前提の扱いで量産された連中はナンバーが古い順に戦闘員から除名されていっている。


 解放だなんていうのは俺たちが都合良く解釈しているだけで、言ってみれば解雇、破棄ともいえるな。戦場に投入されていった軍人が戦場から切り離されるわけだから、その後の余生がどのようなものかは想像に容易い。

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