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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium
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絶滅危惧種保護観察員 (2)

 どちらかといえば、面倒なこともどうにかできる権限を持っていることが一番の要点だったのではないだろうか。


 それにしたって何ともまあ頼もしい仲間が増えてくれた。


 それは大変喜ばしいことだ。


 人類がいかに劣等種族であるかを思い知らされるかのよう。


 これまで『ノア』での生活に不自由を感じることはなかったが、今回の大幅な生活環境の向上で人類繁栄の未来がより明るくなったことは間違いない。


 それに何より、友好関係を築くことができないものだと信じて疑わなかった相手からここまでの支援を受けられたことが一番の成果だろうか。


 あのコークス・コーポのディアモンデ氏もそうだったが、エメラもなかなか人類相手にフレンドリーだ。俺の持っていたイメージをまた一つ粉砕されてしまった。


 実際のところ、人間嫌いというのも俺たちが思っていたほど多くもないようだ。


 そもそも友好的な意味合いで交流することが早々になかったし、記憶の中にあるイメージが根強かったのでそれが大きな勘違いなのだと思い知らされた。


「いやぁエメちゃん、話してみると結構おもろいし、かわええなぁ」


 と、あの圧倒的な機械嫌いのキャナにこのように言わせてしまえるくらいだ。


 共同生活が始まると聞いたときにはどうなることかと思ったものだが、ただの取り越し苦労だったらしい。


 そっけなく接することもなければ、酷い喧嘩をすることもない。


 もうすっかり打ち解けているようだ。


 絶滅危惧種観察員というからには人間を下等な動物、あるいはペットのように扱ってくるものかと構えたりもしたが、むしろ逆にエメラの方が飼いならされているくらいだ。これが彼女の本業とはいえ、少々申し訳なくなる。


「マシーナリーって人類と友好関係じゃない、怖いみたいな感じでみんな脅すから、観察員も怖い人が来るのかなって思ってたんだ」


「大丈夫ッス、ボクは怖くないッスよ! それにマシーナリーでも別にみんながみんな敵対視してるわけじゃないッスから」


「来てくれたのがエメラちゃんみたいな女の子で良かったよ」


「えへへ、そッスか? ボク、そんなに可愛いッスか?」


 そうまでは言ってなかったと思うのだが。


 たわいもない会話に二人の女の子が華を咲かせている。


 持ち前の明るさからナモミともなかなか仲良く戯れている様子。傍から見てもほのぼのしいくらい、長い付き合いの友人関係に見えるくらいだ。


 絶滅危惧種観察員、エメラの存在が、ここまで『ノア』の生活を彩るなんて本当に思ってもみなかった。




 そう、思ってもみなかったことなのだが、全てが全て、良い方向になったというわけでもなさそうだ。


 エメラが完璧にこなしすぎて何が問題かといえば、プニカのことだ。


 これまで『ノア』ではプニカがあらゆる面で動いてきた。


 マザーノアの下、何百年と仕えてきたのだからそれを当然のようにしていた。


 ところが、エメラの加入によって、プニカがやるべきことというものがほぼなくなってしまったといっても過言ではない。


 この『ノア』では俺たちもずいぶんとプニカには世話になってきたが、エメラがその全てを担ってもまだ手が余るくらい活発的に、献身的に働いてくれるせいだ。


 それは言い換えれば、プニカにはいつもいつも負担ばかり押し付けていたということだし、プニカも肩の荷が降りてよかったのでは、とは思ったのだが、本人としてはそうでもないらしい。


「むむむ……」


 露骨にプニカが不機嫌さを醸し出す。


 エメラが来るまでは事あることにプニカが色々と頼まれていたものだが、すっかりその立場をエメラに奪われてしまい、何もできなくなってきた自分に苛立ちを覚えているようだ。


 まず『ノア』が旧型であり、そこから技術や知識を蓄えていったプニカなのだからそれを超える技術なんてものは目にしたことがなかったはずだ。


 いくらかネクロダストで拾えるデータを集めても、人類の歴史からして見れば過去の遺産であることには変わりない。


 その点で言うと、エメラは現代の最新、最先端。それどころか人間の文明の何歩も先行く革新的な存在なのだ。


 たかだか何百年程度、しかも古い知識を束ねたプニカでは敵うまい。


「うぅ……」


 プニカがまた小さく唸る。あれは何かをしたくてもする何かが見当たらず、うずうずしているのだと傍から見て分かる。


 エメラはあらゆる面でプニカの上位互換と言わざるを得なかった。


わたくしはもうお払い箱なのでしょうか……」


 目の前で自分以上にしゃかりきに働くエメラを目の当たりにし、プニカが悲痛の言葉を吐露する。


「いや、まあ、プニカにはプニカにしかできないこともあるだろう。そんなに落ち込むこともない」


「私にしかできないこと……、それは性行為セックスですか?」


 何、目を輝かせてそっち路線に走るんだお前は。脳内それしかないのか。


「あ、ボクもできるッスよ。この身体はバイオメタルなので性行為えっちもできるし、ちゃんと赤ちゃんも生めちゃうッス」


 そして、あえてそこを張り合ってくるな。


「……負けました」


 本気の本気で落ち込む。お前の存在意義は性行為セックスにしか集約されていないのか。


「へぇ~、マシーナリーって子供も生めるんだ」


「新陳代謝もバッチリなのでウンチもできるッス!」


 それはドヤ顔で言えることか?


「新陳代謝……、それは古いものが新しいものへと入れ替わっていくこと……。さしずめ私もウンチなのでしょうか……」


 可愛そうに、またすっかり悲観的になってしまって。


 ただでさえ小さなプニカの影がますます小さく縮んでいって見えるようだ。


 そこまで落ち込まなくてもいいと思うのだが。


「まあまあそう気を落とさんで。えぇと、せやな。ほら、身長とかプニちゃんの方が若干大きい!」


 珍しくキャナがフォローに入る。


 しかし大差はあるのか。確かにエメラはかなり小さい。子供だといっても通用するくらいにはかなり。


 発育具合も男の子と言っても信じてしまいそうだ。


 年も一歳だと言っていたし。


「そう、ですね。私の方が、大きいです、よね」


 そこにほんの僅かな希望を見出した瞳をしている。


 しかし、それで何故自分の胸を揉むような動作をしているのかは謎だ。


 今のは身長の話ではなかったのか。ソレの話をするなら大差はないぞ。

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