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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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私と性行為してくれませんか? (4)

「それまでにこのコロニーに蘇生された人類はいなかったのか?」


「プニカを除けば記録には残っておりません」


「なら、クローンの量産はできなかったのか? いやそもそも、過去に何人ものプニカがいたのなら同様にそのクローン技術で人類を繁栄できるんじゃないのか?」


「私のクローンを造ったのは私ではありません。そもそも私には生きた人間を生成する技術力がありません。人間と同じ成分をした知能を持たない肉人形の量産くらいならできるかもしれませんが、それを人類とは認められません」


 要するに、やり方が分からないということか。


「生成するにも技術力だけでなく相応の施設、また材料の調達なども必要になります。それらをこのコロニー内で行うことはとても困難です」


 まさか無から生物を生み出すことなんてできないだろうしな。


 コンピュータからデータをちょいと調べ上げればポンとクローンが造れるものだと思っていたが、そんなに甘くはないか。


 可能なら今、人類が滅亡するなどと問題に上がるはずがない。


「ただ過去に前例はあります。クローンで量産された男女で共同生活を行うコロニーもあったそうです。要因は定かではありませんが、どういうわけか住民たちは精神に異常をきたして最終的にはクローンによる人類繁栄の計画は頓挫したとか」


 確かに右を向いても左を向いても同じ顔ばかりだなんて、自分が一体誰なのか分からなくなってしまうだろう。


 その実体験者が今、まさに目の前にいるわけだが。


 一つの手段として頭に置いておきたいが、現状はそれを実行に移せる人類もいなければ、設備も全く整っていない。考えるだけ無駄だろう。


「少なくとも言えることはクローンによる繁栄は推奨されていないということです。コンピュータもそのように予見しております」


 機械みたいな顔をして機械的なことを言う。


「コンピュータは人類の繁栄を望んでいます。そしてそれに必要なのは私たちの助力。そう、これはコンピュータによって決められた決定事項」


 感情が希釈された抑揚さえ薄い言葉を紡いでくる。


「私としても、ゼクラ様との性行為セックスを望んでいます」


 結局こっちに戻ってくるというわけか。


 そんな顔して言われてしまうとどうにも返答が淀む。


 あまり感情移入させられるような話し方ではなかったが、話している内容は想像絶するほどに壮絶すぎた。


 このプニカはコンピュータの命令とやらで何百年もの間、人類繁栄のために宇宙をさまよっていた。自分のクローンしか存在しないこのコロニーでだ。


 そんな精神に異常をきたしそうな環境の中で感情を失ってしまったのだろうか。


 宇宙を漂う死体を回収しては蘇生し、それに失敗し、またそれを繰り返し。


 そして次々にいなくなっていく自分のクローンたち。


 はたしてどんな気分で、そんな日々を過ごしてきたのか。


 目の前のプニカを見ているだけではとても想像できない。


「古代では人類のメスはオスを誘惑して性行為セックスに誘っていたと聞きます。データ上でしか知りませんが、そのためには自分の魅力というものを高めていたとか。残念ながら私はその方法を把握しておりません。よって私には魅力がないと思います」


 プニカが何処か切なそうな無表情を浮かべながら自分の身体を眺める。


 思いの外とっかかりもない平坦な胸を両手のひらで上下にさすりながら物思いにふけるよう。


「愛嬌もない私ではやはり性行為セックスする気にもなりませんでしょうか?」


 そういう上目遣いで見られるとやはりドキリとする。


 もの悲しいその顔は小動物のようなソレに似ている。


「あ、いや魅力、あると思、う」


 精一杯の励ましの言葉をひねり出すのがやっとだった。


「鼻の下伸ばしちゃって、えっちな顔」


 真横から意表をついてきたのはナモミの声だった。


 思わず飛び上がりかけた。そういえば先ほどナモミを寝かせていた部屋の扉がそこにあったのを今更思い出す。扉が開く音にすら気付かなかったのか。


「お前、だ、大丈夫なのか?」


 そう聞いておいてなんだが、やはり顔色はあまり優れない。


 ふるふると小刻みに震えていて、今にも床に崩れてしまいそうだ。


「何よ、そんな目で見ないでよ……」


 俺の姿がどう見えているのかは定かではないが、その棘のある口調からしてさぞかしおぞましいものに見えているのだろう。


 人類が絶滅寸前というこの一人類として無視することのできない現状は、当然のことながらプニカと俺だけの話ではない。


 ナモミも紛れもない人類である。七十億年ほど昔の人類だが。


 それってつまりは、ナモミとも、子作りをしなければならないということになる。だが、この刺すような嫌悪感はどうだろう。


「ナモミ様にもゼクラ様と性行為セックスを……むぐっ」


 つい自前の手がプニカの口元に伸びた。


 火に油を注ぐような発言はやめていただこうか。この子、本当に空気読めなさ過ぎるんじゃないか?


 キッと俺の顔に穴を空けんばかりに睨み付けてくる。今にも泣きそうな瞳の奥には一体どんな思惑が錯綜しているのか。


 きっとその本人にも理解しきれないほどぐちゃぐちゃのソレで一杯なのだろう。


 何か優しい言葉の一つや二つかけてなだめてやりたいのだが、俺自身も今のこの現状に理解も納得も追いついていない。


 二十億。


 現実味がない。数字がデカすぎて、脳が処理しきれていない。


 そして七十億。


 その重みが俺に理解できるはずもなく。


 機械的に言えば、人類が残り少ないなら、産めや増やせやで解決するのが実に合理的だろう。


 そらそうだろうよ。


 だが、知恵を持つ人類には単純思考では解決できない。


 ほんの少し前に顔を合わせたばかりの男女が突然合意もなしに性行為セックスに及んでしまうほど人類の知能は劣化しているはずがない。


 そこには理性という鎖が合理的思考を阻んでいる。


「誰が子作りなんかっ!」


 人類滅亡を目前にして、この有様である。


 お互いの初めての出会い(ファーストコンタクト)は最悪のシチュエーション以外のなにものでもない。


 この広い宇宙、奇跡的にも出会ってしまった俺たちの運命は、あろうことか人類の命運でもあり、そしてそれは俺たちの意思一つでどうにでもなってしまう。


 助けもない。逃げ場もない。未来を作らなければならない。


 あまりにも理不尽すぎやしないだろうか。


 性行為セックスしなければ人類が滅びるなんて。

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