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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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人類繁栄への一歩 (7)

 結論から言うとだ。


 交渉は、まさかの大成功だ。


 ディアモンデという男は人間好き側だった。


 もう人類が絶滅していたものだと思っていたようで、その興奮を抑えきれず、かなり友好的に接することができた。


 彼がいかに人間という存在を愛しているかについてが主な議題になってしまっていたが、そこに付け込んで無理難題と思われた取引は逆に引いてしまうほど円滑に進んでいった。


 そうでなくとも、あの名前も分からない紳士が暴走してくれたおかげで、他の客にも迷惑が掛かったし、損害も多少なりあったようなので、お詫びの意味も込められているらしい。


 まさかプニカの通報が決め手になるとは分からんもんだ。


 それに、こちらは最初から正規の手続きを踏んでいたし、一方的に被害を被った側になる。一切の反撃もせず、ジッと堪えたことも功を奏したようだ。


 お詫びや賠償、その他もろもろを束ねればお釣りが出るどころじゃない成果だ。


 そして、これは当初から相談し、考えていたことなのだが、ディアモンデにも話をつけて、こちらの件も上手いこと繋ぐことができた。


 それは、人類を絶滅危惧種生物として申請する、ということ。


 自らそう言ってしまうのは何とも冴えない話ではあるが、これで登録することができれば保護される身となるので、丁重に延命させてもらえるようになる。


 ディアモンデほどの地位があれば登録ももう確定だろう。


 当初の予定では、せいぜい何か物資を一つ二つ頂戴できれば、もうそれだけで上出来くらいに考えていたのだが、まさか希望通りのものが丸ごと来るなんて、これが夢だと言われたなら信じてしまうな。


 行き当たりばったりの乾坤一擲けんこんいってき


 よくもまあ、大当たりを引けたものだと感心するばかり。


 ディアモンデが別れ間際に言ってくれたのだが、彼が人類を好きになったのはあろうことか二十億年前の俺たちシングルナンバーの功績がきっかけだったとか。


 俺はただ、くだらない戦争を消化していくだけの道具、消耗品でしかなかった。


 人類の、俺たちの力によって戦争の虚しさ、悲しさがどのように後世に伝わっていったのかは定かではないが、俺たちの活躍が、残された者たちへ与えた影響がこうして二十億年も先の未来にまで届いていると思うと感慨深い。


「ゼックン。また同じ質問だけど訊いてもいい?」


「なんだ」


 キャナが逆さまにふわふわしながら訊いてくる。


「なんでさ、なんで今回の交渉をする気になったん?」


 また、その話か。


 交渉は成功に終わったのだからもう話すところはないのだが。


「相手はゼックンにとって憎むべき相手やったんちゃうん? そんなんと和解しようなんてハラワタ煮えくり返るやろ、フツー」


「……必要だと思ったからだよ」


「でも交渉とかせえへんでも、うちらの力だけでもどうにかなったやん。わざわざ他の、しかもよりにもよってあないなとこと手を結ぶなんて」


 くるりとキャナが半回転して、また顔をぐいっと寄せてくる。


「分かっているだろキャナ。俺はな、シングルナンバーなんだよ」


「え……?」


「二十億年前、戦争で多くの命を奪ってきた兵器だ。俺にとっての生存とは、敵の排除によって成り立つもんだったんだ」


 英雄なんて言葉で飾られても、そこが変わることはない。


「この『ノア』で目覚めて、それまで命を奪ってきた俺は今度は命を作る立場になっていた。酷い皮肉だと思わないか?」


「でもゼックンが奪ってきたのは人間の命じゃ……」


「人間だろうが機械だろうが命は命だ。兵器として歩んできた俺は他者の命をあまりにも軽んじてきたってことに、今になって気付いたんだ。いや、これまで気付くことができなかったんだな……」


 笑えるくらい、笑えない冗談だ。


「贖罪、なんて俺のしてきたことを考えれば軽い言葉だが、俺はこの『ノア』で命を紡ぐ者になろうと思ったんだ。だからさ、絶やすわけにはいかないだろ」


 他の手段なんていくらでもあっただろうよ。だが、今まで排除することによって生存してきた俺は、気付いてしまった。


「守るためには、和解が必要だ。いがみ合っていては命がいくらあったって足りやしない。ましてや、俺たちはたった四人の人類。守らなければならない、って考えたらさ、こうするしかないって思ったんだ」


 まあ、今回の交渉は成功したからいいものの、一歩間違えれば全員巻き添えになっていた可能性は高かった。なんて浅はかな作戦だったんだ、って思う。


「まったく……ゼックンってほんま不器用すぎるんやなぁ」


「元より、兵器だからな」



 ※ ※ ※



「ゼクラ様、とてもよい知らせがあります。人類が絶滅危惧種に指定されることが決まりました」


 ステーションの待ち合いスペースで一息ついていたところで、プニカが開口一番にそう告げる。ついでにその情報の詳細が目の前に表示された。


 いくらなんでも早すぎるんじゃないか。まだディアモンデと対話してから半日どころか数時間も経っていないぞ。


 物事がとんとん拍子すぎて怖いくらいだ。


「つまり、これでどういうことになるの?」


 ナモミ、お前絶対話が複雑すぎてついていけてなかっただろ。この話は『ノア』を出発する前に確認しあったはずだ。


「少なくとも俺たちは故意に命を狙われるようなことはなくなるということだ」


「あと伴って保護監察員が一名、派遣されてくるとのことです」


「常駐するということか?」


 まあ、そのくらいはあるだろう。想定の範囲内だ。


「『ノア』に住民が一人増えるんかぁ……、楽しみっちゃ楽しみやけどちょっち複雑な気分やなぁ」


 キャナは、というかキャナも俺と同じであまり機械に対して良い印象を抱いていないからな。今日の一件でますます悪化しかけたような気もする。


 出会いがしらに銃弾打ち込まれまくったしな。


 あの後にディアモンデが手厚く、温かい対応をしてくれなかったら、あるいはこの場で悲鳴をあげるほど拒否していたのではないだろうか。


「何はともあれ、当初の目的は果たされました」


「ああ、人類繁栄への一歩だな」


 これにて一件落着、というやつだろう。

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