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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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人類繁栄への一歩 (2)

 向こうはあの内容で納得いったのか、思いの外あっさりとモニターが閉じ、通信も切れる。


 とても好意的な態度だったし、何のこともなく検問もスルーできたらしい。こちらとしては納得のいっていないところなのだが。


「正規の手順を踏んでいるので、問題はないと思います」


 そんな機械的に言われても困る。向こうも機械的に処理してくれたようだが。


「プニー凄い……」


 なんだかさっきから無駄に構えている俺とキャナが馬鹿みたいじゃないか。ここは俺たちにとっちゃ戦場のど真ん中と変わりないんだぞ。ちょっと平然としすぎちゃいないか?


 見てみろ、キャナの怖がりようを。


「ほひゃあ~……」


 天井で逆立ちしながら両手両足が正反対の方向に絡まってるぞ。なんだこのポーズ。こんな無様な格好のキャナを一度でも見たことあるか?


「ここまでは想定の通りに進行しています」


 想定どおりすぎて逆に怖く感じるところもあるがな。


「今の手続きで入星権を得られました。あとは『エデン』に入り、適切な交渉に応じられるエントランスフロアへ向かうだけです」


「エントランス、フロア……? 玄関?」


「あらゆる組織との交渉を取り繋ぐ、パイプラインの窓口のようなものです。居住者以外が外交する際などに利用する施設といえば分かりやすいでしょうか」


「大使館みたいなものかな」


「目星はついているのか?」


「幾つかリストアップはしておきました。しかし問題点はアポイントメントの取得になるでしょうね」


「それもさっきみたいな正規の手順とかで何とかならないの? シュパパーって」


「今のは我々の船が不審船ではないことを証明したまでです。ただ渡航者として認識されただけなのでクリアできましたが、今度は違います」


「何せ、人類が機械に助けを請う取引だからな。ちょっと手を貸してくれ、って言うだけなら楽かもしれないが、おうよ、って応じてくれるかどうかだ」


 今回の要点はそこだけに懸かっている。


 ここまではただの渡航者。ここからは人類の代表者だ。


 対等な立場ではない、アンフェアの取引。


 なめられて当然の立場になるし、明らかに向こうの方が圧倒的に優位な立場だが、交渉を成立させるための対価も用意できる自信がない。


「『エデン』へ入ります」


 自信がないのだが、ここまで来たからには立ち止まるという選択肢もなければ引き返すという選択肢もない。覚悟を決めて『ノア』から発進してきたのだからプラン通りに事が運ぶように祈るしかあるまい。



 ※ ※ ※



 外観でも思ったが中へ入ってみてもそこかしこが機械、機械、機械。まさしく電子回路の中のようだ。自分たちが部品の一部にでもなってしまった気分。宇宙の旅とはまた違う、幻想的ともいえる空間が広がっていた。


 いつ、どこから何がやってくるのか、予測することも適わないが、ただ言えるとしたら、周囲を壁に完全に囲まれてしまっているこの状態で襲撃されたらひとたまりもないということだろうか。


 自ら巨大な生物の口に飛び込み、自ら飲み込まれているのと同じだ。


 当たり前だが、既にこの船の周囲にも別な船が行き交いしている。この船なんかよりもずっと大きいし、性能の差も凄まじいことだろう。


 このいずれの船も人間が載っていないと思うと、気が気でないな。もう逃げ場というものが見当たらない。


「そろそろ引力制御フィールドに入ります」


 着陸態勢に入るようだ。とはいっても、中にいる身としては、あまり大きな負荷が掛からないようで、重力コントロールに失敗して潰れるという心配もなく、ましてや操縦の不手際で船ごと墜落する恐れもないらしい。


 ふと船の外の景色がグルリと丸ごと一転したかと思えば、ものの一瞬でこの船は『エデン』へと降り立っていた。あまりの不快感のなさに驚くばかりだ。


「ここからゲートまで酸素はありません。スーツを着用する必要があります」


 もう既に人数分の手配は済んでいる。あとは酸素供給用のマスクを被れば完了だ。


「では、『エデン』へ降りましょう」


 と、今まさに出発しようとしているところなのだが、一人、降りようとしないのがいた。というか天井に上っていた。


「やっぱいかんとあかん?」


 一応マスクを付けてはいるのだが、あと一歩、覚悟が据わっていないようだ。


 確かにここから一歩でも出ればもう機械都市だ。そこら辺を往来しているのは皆ロボットたち。人間はいない。ともなれば、何をされるのか分かったものではない。相手がどのように対応してくるのか想像もつかない。


 いきなりそこら辺のゴミを掃き捨てるようにレーザーで焼却されてしまってもおかしくはないのではないだろうか。


「大丈夫よ、お姉様。ここまで無事に来れたんだからきっと大丈夫」


 根拠のないことを言う。ほとんどがプニカの手回しのおかげなのだが。


「せやろかぁ……」


「せやせや」


 観念したのか、それともナモミに諭されて引くわけにはいかないと思ったのか、キャナが天井からするすると降りてくる。


「ルートの確認をします」


 プニカの手元の端末からモニターが出力される。


 周辺のマップと、目的地までのルート、そして例のミニプニカがちょこちょことマップ内を右往左往してナビゲートしている。


「まず我々はこのステーションのゲートを抜けます。するとメインストリートに出ますので、そこからルートに沿って移動し、エントランスフロアに向かいます」


「さっき言ってた大使館みたいなものね。人間いないけど」


「ここで交渉のアポイントメントを取ります。ただし、クリアしなければならない手続きが多いため、先ほども言いましたがこの時点で応じてもらえない可能性が非常に高いです」


「追い返されたら違うエントランスフロアに向かうわけだな」


「ただ追い返されるだけならええんやけど……」


「まさか、人間が来たー、ってだけで酷いことになったりは……」


「けしてその可能性は低くはないでしょう。ですが機械都市にもルールはあります。無条件に殺傷するような行為は認められていません。それは人類も例外ではありません」


「だが、こっちは不利益な条件を持ちかけることになる。それがどのルールに抵触するかは分からない。勿論、綿密に確認してはいるが、下手を打てば交渉決裂が最悪の形になるってことだ」


 重要なところだ。

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