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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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人類繁栄への一歩

 二十億年ぶりの宇宙そら。眼前に広がる無数の星々の微かな煌きが、今は眩しく感じてしまう。張り詰めた緊張感に今にも皮膚を裂かれてしまいそうだ。


 銀河を渡るこの船がただの運搬船というところが少々情緒に欠けるところではあるが、元よりロマンを求めた航海ではないのでせいぜい後悔しないように最善を頭に貼り付けておこう。


 まあ、最悪の場合は後悔すらできないわけだが。


「まもなくテリトリーに進入。通行許可証の発行を申請します」


 プニカが操舵パネルの前で唱える。とはいっても見た感じは複雑な機構はなく、端から見たら黒く平べったいテーブルのようなものが扇状に広がっている。


「ちなみに聞くが、拒否されたらどうなる?」


「その時点で防衛システムから撃墜指令が下り迎撃衛星より狙撃されるでしょう」


「やっぱあかんよぉ……今からでも引き返そ?」


「申請はもう送りました」


 刹那、小さな悲鳴を上げ、キャナが室内の端に逃げる。勢いあまって天井にまでふわふわと上っていった。


 防衛システムが動き出したら船ごと攻撃されるだろうから意味はないと思うが。


 普段何しても何食わぬ顔しているふわふわのキャナでもこういうものは怖いと感じるのか。いつになく弱気な気がする。それはまあ人間としては当たり前のことなわけだが、キャナがここまで怯える姿は少し珍しく思えてしまう。


「交渉成立、するのかな?」


 傍に立っていた小声でそっとナモミが訊ねる。


「さあな」


 この船が向かう先は人間の住まない都市。機械だけの都市。


 とどのつまり、俺たち四人は交渉という選択をした。たった四人しか存在しない人類が繁栄するためには相応の力がいる。


 今の『ノア』の生活が不十分というわけではないが、いずれ将来的には『ノア』ですら事足りなくなるときがくることだろう。


 そんないつ千切れるかも分からない綱にしがみ付いていくくらいなら、力を借りていくべきだ。そういう判断に至った。納得していないのもいるが。


「許可が下りたようです」


 ついでにキャナも降りてきた。


「ほんま大丈夫なんやろなぁ?」


「向こうは交流を求めていない。こちらを知的生物とは思わず異物と認識しているだろうな。交渉にまで漕ぎ着けられるかも分からない」


「せやろなぁ。うちの知る限りそんなおっかないことした人聞いたことないわぁ」


 交渉なんてものはお互いに対価を取引するものだが、向こうに求めるものに対し、こちら側から返せるものはたかが知れている。


「何もなく、何をすることもなく追い返されるかもしれないだろ」


「虫けらみたいにぺちーんって駆除されるんちゃうん?」


 無論その可能性は十分に考えられる。だが、あまり脅すようなことは言わない方針でお願いしたいところだ。


 ナモミの顔がまた青くなってきている。一応今回の交渉の提案者だが、早くも後悔の文字をくっきりと表情に映し出している。


「ワープ航路地点到達。これよりディメンション・ホールを開通させます」


 端末の操作を開始する。どうやら一気に飛ばす準備を整えているらしい。


 俺の時代とは技術が違うので分からないが、こんな安っぽい船でもワープができるなんて驚きだ。


 ワープ機能を搭載している船舶なんて負担を考慮したらもう少し装備や設備が必要なものかと思っていたが、やはり未来の技術は違うらしい。


 なんか機体のあちこちが尋常ではないくらいに唸り声を上げているように思えるのだが、きっとそれも大丈夫なのだろう。


「というか、こないなオンボロ船でワープに耐えられるん?」


「整備はしておきました」


 プニカもこれまでこの船を使ってネクロダストの回収にあたっていたらしいし、さすがにその辺のメンテナンスは抜かりなかったか。キャナがホッと安堵しかけたところで、プニカが続ける。


わたくしには技師のデータをインストールしておりませんが」


 おい、プニカ。


「ワープを開始します」


 不安だけ煽って、ホールを展開する。


 船の前に大きな空間のひずみが発生する。まるで巨大な生物が口を開けているかのよう。この中に飛び込めば終着点までかなりの距離を短縮することができる。


 この船体が無事に耐えることができたら、の話だが。


「ホール、突入」


 俺たち四人を載せた船は有無を言わさず、ホールの中へと吸い込まれていった。



 ※ ※ ※



 吐き気を催すような亜空間の小旅行を終えた先は、先ほどまでとは違う銀河の世界がそこに広がっていた。明らかに自然物ではない星々が規則正しく整列する、まるで創られた宇宙だ。


 機械の電子回路の中に紛れ込んでしまったかのように錯覚する。距離感がおかしくなるが、あのいくつも公転している星の一つ一つは『ノア』の数倍大きい。


 そして中心にあるまたその数倍ほどある一際大きい星。


 どうやらここが目指していた場所で間違いないらしい。


 人類の存在しない都市。今や無数に点在しているうちのその一つだ。


「ここが認識名称『エデン』。機械の住まう都市です」


 正直なところ、視界の端に収まりきらないほど巨大で、その全容はまるで分からない。都市なのか星なのかハッキリしてほしいところだ。


「せめて門前払いしてくれへんかなぁ」


 まだそんなことを言っているのか。


「この領域に入った時点で向こうはこちらの存在を認知しています。不審な動きをすれば攻撃される可能性があるでしょう」


「ひぃ~、そらあかんてぇ……」


「大丈夫。ここまで来れたんだ。敵視されていたらテリトリー内に入った時点でとっくに攻撃されてるだろ」


 と、気休めを言ってみる。


「いえ、正規の手順で申請を通しただけですから攻撃されなかったのでしょう。こちらの船に何が乗っているのかまで把握されていないと思います。つまり今の状態は『ノア』から出発してきた不確定情報を持つ船という認識されているでしょう」


 せっかくの気休めを粉砕するんじゃない。


「あ、通信が入りました。これは検問のようですね」


「ああぁぁ、もうあかんやん……終わりやん……」


 宙にモニターが出力される。遮光ヘルムを付けた警備員らしき者が映っている。顔周辺が隠れて表情は見えないが、いかにも厳格そうな様相をしている。


『認識名称の提示をせよ』


 通信機ごしに流暢な、それでいて威圧的な声が聞こえる。間違いなく怪しんでいるのだろう。下手な行動はできないが。


「『ノア』、所属Punica-KCMPIZ091-1」


 プニカが飄々と返す。そして手元の端末からカードのようなものを引き抜き、通信端末に挿入した。すると、モニター内の警備員の手元にカードが出現する。


 今の一連のやり取りでこちらの情報を向こうに転送したらしい。


『認証完了。ようこそ、プニカ様』

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