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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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私と性行為してくれませんか? (3)

 ……すまん、申し訳ない。


 今からでも吐いても構わないだろうか。


 いっそこのままぶっ倒れてしまいたいくらいだ。


「このコロニーに生存している人類は、私とゼクラ様、そしてナモミ様だけです」


 改めて言うな。理解させるな。耳鳴りがする。


 激しい頭痛が奥からまた響いてくるようだ。


 立っていられなくなるくらい、不快な波が脳髄を揺らめかせる。


「ネクロダストを回収したんじゃなかったのか? あれは個人用のポッドじゃない。居住区単位の規模のはずだ。先ほどの話の感じじゃ一つ二つ程度のようには聞こえなかったが」


「……回収はしました。確かに数だけでいえば指では数えられないほどです。しかし無事に蘇生ができたのはゼクラ様とナモミ様だけで、他の方は損傷や破損、腐敗など保存状態が悪く、生存した人類とはとても」


 なんてことだ。


 なんということだ。


 気がついたときには俺はコロニーの通路で膝をついて、目の前いっぱいの床を睨み付けていた。


 そんなことってあるのだろうか。


 それでは本当に、人類は絶滅しているも同然じゃないか。


「蘇生するのは大変でした。時間も要しました。幸いこのコロニーにその技術があったことに感謝しなければなりません」


「じゃあもう人類は今、三人だってのか?」


「確認されている範囲では、です。今も蘇生中の者もいますが、それでも生存している人類は私たちだけということになります」


「じゃ、じゃあ蘇生中の人類がいるんだな? それを含めたら……」


「ゼクラ様の蘇生には四十六年費やしました。ナモミ様の蘇生は古い技術のため百三十七年ほど費やしました。現在蘇生中のものは二十年ほど経過している状態です。そして蘇生が必ずしも成功するとは限りません。既に何万という単位で蘇生に失敗しています」


 数字だけを並べられてもピンとこない。


 が、どうやらよろしくない状況であることはハッキリしている。


 蘇生なんて容易いもののはずがなかった。


 何年も掛かったり、あるいは失敗したりも当然あるわけだ。


「現在蘇生中の者は生存しているうちに含まれません」


 本人としてはおそらく悪気はないのだろうが、冷たく鋭い言葉が突き刺さる。


 考えなくてもそりゃそうだ。


 確かに生きている状態ではない。生命活動を停止して保存されているだけ。


 それを生存しているうちにカウントできないだろう。


 もし、次に眠っている誰かが蘇生するまでにまた何十年も掛かれば、下手すれば今ここで生きている三人全員の寿命が尽きてしまう可能性もある。


 そもそも蘇生するのを待ったところで、蘇生が成功しなければ全てが無駄になる。


「今、我々にできることは不確定な蘇生を待つことではありません。少しでも多くの子孫を繁栄させることです。つまり、子作りです」


 とてつもなく合理的な答えを突きつける。


 こんな真顔で。



「ゼクラ様、私と性行為セックスしてくれませんか?」



 プニカの冷淡な表情からはなかなか連想しづらいフレーズが出てくる。


「これは人類の存亡を賭けた重大なる使命です」


 容易に断ることのできないフレーズまで叩き込んでくる。


 ここで嫌だ、と横に首を振れば、人類は滅亡してしまう。


 何の冗談にもなっていない。


 ついさっき、ナモミもこれを同じことを突きつけられたのか。


 なるほど、これは厳しい。


 目が覚めたら何十億年先の未来で、人類は今、片手で数える程度。


 それで今すぐにでも子作りしろ、と。


 思えば、奇跡的な巡り合わせではある。


 ネクロダストなんてものは宇宙のあちこちに散らばっていて、俺のいた時代では廃棄物のような扱いだったくらいだ。


 回収されては保管されを繰り返す。


 蘇生するにも結局中身は過去の死人。


 人間社会に蘇らせるには倫理的にも色々面倒なあれこれが山積みだ。


 そもそも拾われることすら稀。


 そんな中、何十億という年月、宇宙をさまよい、今こうして回収され、息を吹き返し、ナモミやプニカに出会えた。これがどれだけ天文学的な数値か。


 先ほど、プニカはさらっと説明していたが、気の遠くなるような過程を経て、人類を滅亡の危機から抜け出せる今に辿り着いたのだ。


 というか、ちょっと待てよ。


「そういえばプニカ。今さっき俺やナモミの蘇生が何十年とか言っていたが、それはつまり何十年間も俺たちを見ていたということなのか?」


 ともなるとプニカは何百歳のババアということになる。見た感じ、プニカは俺と同じ年くらいだ。二十億年未来の整形技術によるものなのかもしれないが。


「いいえ、違います」


 割と食い気味に否定された。


「私は元々、このコロニー内でスリープについていて、覚醒したのも実はつい最近のことです。先ほど説明した内容はこのコロニーのコンピュータにアクセスして知ったことです」


「ん? ということはコロニーのコンピュータによってコールドスリープから目覚めたのか?」


「すみません、語弊のある言い方でした。私、プニカはクローン個体です。予備の個体をコールドスリープ状態で保管し、プニカの命が尽きる前に次のプニカを蘇生させて生存しておりました」


 クローンか、そうかクローンなのか。


 いや、ややこしい。


 つまり今のプニカの前にまた別なプニカがいたということか。そして別なプニカが今のプニカを蘇生させたと。


「ちなみにプニカのクローンはもうストックがありません。私が最後のプニカです」


「ということは、さっきの何十年何百年というのはその前のプニカ、その前の前のプニカたちによる情報ってことか」


「端的に申し上げればその通りです。相違ありません。観測したデータは前のプニカたちによって全てコンピュータ内に保存しておりますからそれらを統合して人格ごと次のプニカに引き継がれていきます。私の頭脳はアクセス権を持っておりますので」


 何百年分もの記憶を一人のプニカにぶち込まれたということか。


 これもまたスケールの大きな話だ。多分俺の頭で考えようとすると容易にパンクしてしまうだろう。


「プニカは、あ、前のプニカの話ですが、今の私と同様、コンピュータの指令によって人類の繁栄のため、宇宙に散らばるネクロダストを回収し、蘇生可能な人類をかき集める任務にあたっていました。このコロニーにも何人ものプニカが共同生活を送っていたのですが、蘇生が完了するまでに残っていたプニカは私だけとなってしまいました」


 ずいぶんとまた壮絶なことを息も切らず一口に言ってくれるものだ。

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