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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later

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ロボットは、いないの? (2)

 その一方で、プニカはといえば、別に何のこともなさそうないつものプニカだ。


 何も察してしないのが丸わかりだ。まったくもって空気が読めていない様子。


 気付いていたとしても、何かちょっと気分悪そうなのかな、程度にしか考えていないことだろう。


 このコロニーにいる限りは、全員が全員、人類繁栄を目的として生活している。


 そこまではいいのだが、合意の有無についてが少々欠落している。誰も強く拒否していないから当然といえば当然なのだが。


 プニカは専ら子作りに関しては任務であることを除いても関心が強い。人類の繁栄という以前に自分が子供を産むことを何よりも望んでいる。隙あらば何かのアピールをしてくる。


 ただ、当の本人は自分でやっているはずのそのアピールの意図をあまり汲み取れていないせいで、こちらからしてみると目の前で奇怪な体操を見せ付けられるだけになっているが。


 子作り意識の話では、キャナもどういうわけか異様にノっているようだ。


 自分の子供の名前の候補をいくつかストックしているようだし、ベビー用品の生産と知育玩具、はたまた将来的な教材までも準備の手を進めているらしい。


 それはそれでなんとまあ、気が早いことだ。


 そんな中で、ナモミはというと、この状態だ。


 執拗にアピールを迫ってくるわけでもなく、子供の将来を計画するわけでもなく、友人関係程度の交流を深めるばかりで、踏み入ったことがあまりない。


 子作りについて、あるいは俺に対して意識し始めてはいるようなのだが、その胸中は窺い知れない。


 じゃあ、俺はどうなんだろうか。


 むしろ、俺はどうなのか。


 この場で唯一の男である俺は人類繁栄のための全ての要である。


 俺自身、人類の未来をどう思っているのか。


 正直なところ、プニカやキャナと比べてしまうと貞操観念が強いといわざるを得ない。あの二人が特別に節操ないだけの話なのかもしれないが。


 かといってナモミのように、合意か拒否かどちらともつかないような迷いがあるわけでもない。必要に応じれば子作りをしなければならないという使命感がある。


 だが、その使命感というやつは何なのか。


 命令されたから、はい性行為セックスします、などという貞操観念もへったくれもないような甲斐性なしだろうか。


 いや、そもそも、この現状において、貞操観念なんてものが必要なのだろうか。


 気にするべきは性病の有無くらいなものか。


 子供が生まれれば、そのまた子供が子供を生み、子孫が紡がれていく。


 だが、それよりもまず現状は三人を孕ませなければならないということ。


 ここに貞操観念というものを突きつけると何もできないのではないだろうか。


「なあ、ゼックン。さっきからなぁに難しい顔してるん?」


「うおっ」


 目の前に逆立ちしたキャナの顔があった。相変わらず無重力のような縦横無尽っぷりである。位置関係的にはキャナの顔が下にあるのに見下ろされている。


「少し考え事だ。やはり俺もいつまでも二十億年前の人間じゃいられないからな。この時代の勉強をしなければと思ってたところだ」


 専ら、人間らしさ、貞操観念についてだが。


「うぅん、あんま無茶しなくてもええんよ? こういう機械の仕組みとかうちでもよく分からんし」


 何か少しズレた方向性で解釈されたっぽい。まあ、機械のメンテナンスについてももう少し勉強すべきところなのだが。


「必要とあれば機械技巧のデータがございますのでインストールされますか?」


 いきなり人間らしさから掛け離れた提案が持ち込まれてくる。


 そういう勉強の仕方は考えてなかったな。


 貞操観念という概念そのものが存在していない疑惑さえあるぞ、それ。


「え? 何それ、それを使うとどうなるの?」


 横からナモミが食いついてくる。当然こういうものは知らないのだろう。


「こちらを使いますと、頭脳に直接知識を入力させることができます。物理的な端末での勉強と異なり、記憶までのプロセスが大幅短縮します」


「科学の力ってスゲー!」


 思いっきり感心しているようだ。


「ただし、あまり多くのデータをインストールされますと、人間の身体は生身ですので、大きな負担にもなります」


「要らない記憶の消去というのはできないの?」


 物騒なことを言い出すな、ナモミは。


「記憶というものは結びつき、根付くものですから、一度インストールされたものを安易に消去してしまうと関連した記憶もまとめて消去される恐れがあります」


 不可能ではない、という言い方だな。


 ひょっとすると実体験済みの可能性すら考えられる。


「ピンポイントでの消去はできないのね……」


「非推奨です」


 やはり不可能ではない、らしい。


「そもそもノーリスクでできたらこれまでやってきた勉強会はなんだったのかという話になるしな」


「あ、それもそうか」


「用法と()()を守ることが大切です」


 とか言っているプニカだが、たった今、俺にデータのインストールする気でいたことについては言及しない方がいいのだろうか。


 非推奨は推奨されていないというだけだからいいのか。そもそもそのデータが負担掛かるほどのものかどうかも分からないし。


「ちなみに、うちのコロニーのルールでは人間へのデータインストールは禁則事項になっとったよ」


「コロニーによってそういった規律は異なりますからね」


「妙なデータも出回っとったしなぁ。インストールした途端に頭おかしなるヤツ」


「電子ドラッグと呼ばれていたものですね。バグの生じたデータほど危険なものはありません」


「ちょっと興味あったけど、あたしはパスかな……」


 俺もパスしておこう。未来の技術だからといって無条件に信用するものではない。


 データ漬けのジャンキーは俺の時代でさえ問題視されていたくらいだ。身体的な進化を促すのではなく、物理的に身体にデータを植え付けるのだから生身の人間には負荷が掛かって当然というもの。


「でもやっぱりあたしの時代からしてみれば未来って何もかもが進んでるのね。当たり前なんだろうけど」


 そりゃまあ七十億年分も跳躍してきたわけだからな。


「だが、常に文化や技術が進化し続けているわけでもないぞ」


「そうなの?」


「人類が地球を離れて暮らすようになってからの時代は途轍もない混乱に見回られてたらしくてな。沈黙の時代(サイレント・エイジ)と言われていたくらいだ」


「とても有名な話ですね」


「サイレントエイジ……? 一体それってどんな時代だったの?」


「インストールされたデータじゃないから正確ではないが……何億年という単位、周期的に人類の進歩が停止していたらしい」


 考えるのも怖いくらいだ。

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