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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
31/304

ねぇ、子供あと何人ほしい? (4)

「ちょっと待って。ゼク。さっき親がいないって言ってなかった?」


「その通りだ。だから今流れているのは候補者だ」


「こ、候補者?」


 俺は、またデバイスを操作する。すると映像が切り替わり、違う男女の映像が流れてくる。


「え? この人たちは?」


「俺の両親。の、可能性がある人だ」


「はい?」


 説明するのはなかなか難しいところだ。


「簡単に言えば、俺は性行為によって生まれたわけじゃない。誰かの提供した精子や卵子を元に人工的に生まれたわけだ」


「ええと、まあその辺は分かったけど、じゃあこの人たちが提供者ってこと?」


「かもしれない、ということだ」


「何それ。誰が提供者か分からないの? ほら、DNA鑑定すれば一発で分かるでしょ、こういうのって」


「候補者数が多いというのもあるが、俺自身遺伝子改造もされていてな。少々DNAの構造も変わっているんだ。人間ということには変わりないんだが」


 厳密に調べ上げれば、あるいは判明するかもしれないが、当時では認可されていなかったし、今に至っては調べようもないだろう。


 ナモミがとびきり苦い汁を飲み干したような顔をする。あまりよくは理解できていない様子だ。


「あたしの時代と違うから全然分からないんだけど、こういうのって普通なの?」


「俺の時代でも普通ではないな」


 と思いたい。


 そんな横から映像に流れてくる男女が、こちらに語りかけてくる。


『息子よ、元気にしているかい? パパだよ』


『ちゃんとご飯食べてる? ママは顔も知らないけどあなたのこと思ってるわ』


『やあ、我が子よ。お父さんだ』


『お母様だよ。あなたに加護がありますように』


 男女が代わる代わるこちらの身を案じるような言葉を投げかけては、消えて、また次の親が現れる。一見するとこの男女がペアのようだが、実は別々に再生されているので、このペアが両親とは限らないのだ。


 おかしな仕組みだろう。それでは組み合わせがいくらでもできてしまう。


 それもそのはずだ。


「俺は、大量生産された中の人間の一人なんだ」


「え?」


「沢山の提供者を集めて、大量に人工授精や遺伝子改造を行い、赤ちゃん製造工場のような機構で作り出された、ってことだ」


「赤ちゃん製造工場……」


 いつだったかのプニカの言っていた機構に似通っているところはあるだろう。


 だが、俺の言う赤ちゃん製造工場は規格や規模がソレとはまるで違う。プニカが言っていたようなこのコロニー内にもある施設とも違う。


 文字通り、出産までの過程をも人工的に行う工場だ。提供者からあらゆる遺伝子情報のサンプルがあるため、同一固体を製造するクローンと違い、効率は落ちるが身体能力の向上が望める仕組みだ。


 そこでハッとする。余計なことを喋ってしまったかもしれない、と後悔した。


「ああ、悪い。気分を悪くさせたか」


「な、なんでそんなことを……?」


「……軍事力、という言葉で納得してくれないか?」


「戦争、してたんだ……」


「この話は止めようか」


「ううん、もう少し、聞かせて。あたしは大丈夫。ゼクのこともう少し知りたいから。あ、でもゼクがダメなら聞かないよ」


「言うほど面白くない話になるが」


「それでもいいよ。もっとパンチ効いたの期待してるんだから」


 その取り繕った顔で言われると何とも言えなくなってしまうのだが、ナモミも変に頑固なところがある。追い返す方が大変だろうし、話すしかあるまい。


「そうだな……まあ、戦争という言葉で括ってしまえばその通りだ。俺の時代は下らない戦争が頻発していた。兵器も人間も消耗品みたいなものでな。どちらも工場で量産されていたわけだ」


「い、いつの時代も物騒なんだね……」


「生まれてから提供者と会うことはない。正式な親ではないからな。だが、消耗品のように扱われる身とはいえ人間であることには変わりない。感情を持っている。だからこそ、こういうものが作られたんだ」


 通称、メモリアルフィルム。


 提供者が製造される子供に対して宛てるメッセージ。風習のようなものだから傍から見たら歪なものにしか思えないだろう。


 精一杯、親として振舞ってもらって撮影して収める代物。


 何せ、製造される側は数が途方もない。一人一人に挨拶しに行くだけで寿命が尽きてしまうレベルだ。しかしそれでも人間らしく、人間として生まれたことを実感するには親の姿形、声や励みはなくてはならないもの。


「自分を生んだ親さえ知らないまま旅立つ子なんて、寂しいだろ?」


 本当のところは、このメモリアルフィルムを視聴する者はそこまで多くはない。一度か二度見て処分されるくらい、あまり関心深いものじゃない。


 誰が本当の親なのかも分からないし、会ったことも世話をしてもらったこともないような連中に応援されても、白々しくて気味が悪い。そういう理由が専らだ。


 向こうは名前で呼ぶことさえもない。


 たまに適当にでっち上げて呼んでくるパターンもあるが。


「一応、親の顔くらい見ておこうかな、って思ったんだ」


 無論、こうやって見てても知らない顔ぶればかりで誰が誰だか分からないわけだが。向こうもまさか何十億年も後に見られているとは思うまい。


 ナモミが言葉を喉奥に詰まらせたかのように、ボーっとただ無言でモニターに目を向ける。そこに映るのは相変わらず何処の誰とも分からない男女がランダムに入れ替わって、競い合うように優しい言葉を投げかけてくるばかりだ。


 当の本人である俺が見ても赤の他人にしか思えない連中ばかりだ。ナモミが見たところで感じるものなんてあるのだろうか。


「……この人たちって自分たちの子供いるのかな?」


「いや、どうだろう。提供者のほとんどは子供の生めない事情があると聞いている。何せ徴兵みたいなもんだからな。合意も少なかったらしい」


 要するに戦争のために命を渡せ、という話だ。どんな形でも子供を産みたかった。そんな悩みを抱え、提供に至っている。


 仮に子供を提供しなければ自分自身、その身そのものを提供することもあっただろうしな。つくづく歪な環境だったと思う。


「ふぅーん……」


 またぼんやりと、ナモミは男女の言葉に耳を傾けている。


「見たことも、ましてや会ったこともない自分の子供に、こんなに優しく語りかけられるもんなんだね。親って」


 ここまで辛い話を聞かせてしまったと思った。


 ナモミも言葉を失ってしまうと思った。


 だが、言葉を失ったのは俺の方だった。


 目の前のこれを、俺は親だと思ったことがなかったから。


「ねえ、ゼク」


「な、なんだ?」


「子供、つくろっか?」


 あまりにも無邪気ともいえるあどけない顔で、そう呟かれた。

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