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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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閉ざされる未来 (12)

 ※ ※ ※



 あれからしばらく経った。


 未だに俺は惑星『セレーネ』のヘルサに滞在していた。本来の予定を大幅に超過してしまっているが、任務には何の支障も出ていない。


「ゼクラさん、調子はどうです?」


 俺の部屋にザンカが入ってくる。なんとも複雑な面持ちでだ。


「ああ、手足は十分に動く」


「無茶しすぎなんですよ。炎の中を長時間探索するなんて。言っておきますが、普通の人間だったらとっくに死んでいたんですからね」


「同じことを何度も言わなくていい。気が動転してたんだ。さすがに反省してる」


「結局ゾッカさん、見つかりませんでしたよ。キレイに焼失してしまったのか、また何処かの次元に消えてしまったのか。ジニアさんも頑張って探しているのですが」


 あのとき、ゾッカがタワーを爆破し、落下していった後、爆炎の中を必死に探し回ってみたが、ゾッカの姿は何処にも見当たらなかった。おかげで俺は全身に火傷を負ってしまい、治療を受けるはめになってしまった。


 こんな調子では任務を続行するわけにもいかず、休暇届を提出するにまで至る。


 普通ならば早々簡単に受理されることのない代物だが、今回に限っては、あっさりと申請が通ってしまった。


 結局のところ、ゾッカが引き起こした一連の事件に関しても機械民族たちの間で様々な審議がされていたようだったが、真相は不明という結論に落ち着いた。


 シングルナンバーに扮装した一般人が幾度と戦地に繰り出された結果、精神に異常を来して不可解な行動をとってしまった、ということになったらしい。


 時空の隙間だの、別の世界からやってきただの、精査されたソースのない荒唐無稽な言葉の羅列は機械民族にとって到底理解できるものではなかったようだ。


「ザンカ、お前は別の世界の存在を信じられるのか?」


「立証されていないのでハッキリとは言えませんが、あのゾッカさんが言っていたのですからあるのでしょう」


 なんとも信頼度の高い言葉だな。


「我々には観測のできない情報です。ですが、今回のことで大きな物事が起きたことは間違いないでしょう。ゾッカさん風に言うなれば変革でしょうか」


 実行犯の消失した連続爆破事件。あまりにも前代未聞なこの事件によって惑星『セレーネ』は混乱の渦に呑まれた。


 それにより惑星『セレーネ』の近辺の警備が厳重化され、かなりの数のテロリスト組織が検挙されたらしい。その中には、俺たちの護衛対象であるネクロダストを狙っていた組織も含まれていたのだろう。


「我々の出発の遅延、加えて周辺の敵対組織の減少。憶測にはなりますが、ゾッカさんの言う未来を変えるファクターだったのではないでしょうか。こうすることで、ゼクラさんが死ぬ未来が変化したのだと」


 いつだったか、ゾッカは未来を視ることができるといっていた気がする。どうすることで未来を変えられるのか、掌握していたともとれるのか。


「だが、それでも解せない。なんで俺の未来を変える必要があったんだ。アイツの目的は自分の世界に帰ることだったはずだ」


「時空の歪みを修正する。ゾッカさんはそう言っていたんですよね。だとすると、おそらくゾッカさんは今まで歪んだ時空の中に滞在していた。それを修正するためのファクターが変革、つまりはゼクラさんの生存だったんじゃないですか」


「関連性が今ひとつ掴めないな……」


「そりゃ我々には時空の歪みなど観測することも理解することもできないですし。ただ言えることは、ゾッカさんがいたからこそゼクラさんは死ぬ未来になっていた。そしてゾッカさんがいたからこそゼクラさんの死ぬ未来は避けられたということです」


「まるで意味が分からないな」


 俺のあずかり知らぬところでアイツは俺の命運を左右するパズルゲームをしていたのか。未来は直ぐに姿を変える。だから全てを話すことはできない。アイツの言葉がその通りであれば、ろくに相談ができなかったのも頷ける。


「……これだけのことをしたんだ。今頃アイツも元の世界に戻れているといいな」


「そうですねぇ……」


 何にせよゾッカがいなければ、俺の未来は閉ざされていたのだろう。


 理由はどうであれ、閉ざされる未来から抜け出すために奔走していたとするならば俺は感謝するべきなのかもしれない。


「しかし、まだ分かっていないことが残っている」


「なんですか? 分からないことだらけだと思いますが」


「ネクロダストの件だ。『カリスト』に滞在していたとき、ロック解除を試みた犯人もゾッカだとしたら一体何の意味があったんだ?」


「きっとそれは、疑いを持たせるためではないですか?」


「疑い? 一体誰に?」


「ゼクラさん、あなたですよ。我々にとって任務の遂行は絶対条件。不審な点は排除しなければならない。そんなときのあなたの思考回路を読んでいたのでは?」


 確かに真っ先に身内の犯行を疑ってはいたが。


「今回の爆破事件は、シングルナンバーの裏切り、そしてそれを突き止めた仲間による妨害という筋書きになっていました。あのときゼクラさんがゾッカさんを追い詰めにいかなければ違う結果だったのでしょう」


「アイツそこまで読んで……」


「ま、今となっては真相も分からない勝手な憶測ですけどね」


 もはやゾッカ自身が消失してしまっている以上、確認する手段もない。あるいは、ひょっこりと何処かでまた姿を現しそうな気もしてくる。


 コード自体を所持していないのであればほぼ捕捉することは不可能に近いし、俺たちの世界では不可能に近い高次元の接触とやらで物理的な干渉もできないともなれば、どう足掻いても手の出しようもないわけだが。


 今さら戻ってくることを期待するだけ無駄というもの。


「ふぅ……しんみりとしてしまったが、仲間がまた一人、消えただけだ。切り替えていかないとな」


「いつぶりでしたか。ザミアさん以来でしたっけ」


「その前にジジャがいただろう。ズーカイが長いこと落ち込んでいた」


 所詮、俺たちは機械民族の奴隷にすぎない。


 いずれにせよ、使い捨ての兵器なのだ。


 情が沸くことはあっても、それが変わることはないだろう。


 今回の一件は、また厄介な任務ではあった。しかし、誰かがいなくなることを予測していなかったわけではない。これもまた、俺たちの日常なんだ。

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