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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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閉ざされる未来 (8)

「で、具体的にはどうするつもりなんだ。ゾッカがどんな手法を使ってるのか知らないが、少なくとも俺たちには認知できない存在になってる。ひょっとするともうとっくに『セレーネ』を抜け出しているかもしれないだろ」


「ゼクラ、お前にしちゃ甘い見通しだな。ここを爆破するだけしてとっととオサラバするだけのお粗末な計画をアイツが立てるとでも思うのか?」


「まあ、確かに何か目的があるんだろうとは思っているが……」


 そもそもの話、爆破された現場はどういうわけか、被害の極めて少ない廃墟のような場所。ここを爆破することで得られるメリットなどないに等しいし、爆破されたことで及ぼされる影響もたかが知れている。


「ここは陽動だろ、どう考えても。ここを囮にしてまたどっかで何かをやらかすつもりなんだよ」


「ということは、ゾッカが次なる標的を定めていると?」


「ああ、一応リストアップしといた。条件が似ている物件だ。被害を最小限に抑えられて、爆破するには都合のいい形状してる建物な」


 ジニアの手のひらからディスプレイが展開される。そこにはいくつもの建造物の名称と映像が添えられて並んでいた。ジニアの言う通り、目の前で倒壊している建物と条件は似ている。


 なるほど、そういう手法で割り出そうという魂胆か。


「いつの間にこんなに調べ上げたんだ……。だが、また同じ条件の建物を襲撃するとは限らないんじゃないか?」


「ま、本命がどっかにあるだろうよ。だとすりゃ、この街の中枢か、あるいはヘルサそのものの中枢か」


 ヘルサ自体はかなり広大な領域だ。全部襲撃するとなるとかなりの大規模な計画になる。もはや機械民族に対する報復だ。それをゾッカたった一人で行う計画だとするならば、どう考えても無茶がすぎる。


「現状、爆破事件でこの区域は閉鎖されている。ゾッカが検問すら通り抜けられるような次元移動を可能にしているのならお手上げじゃないか? それに次の狙いがこの区画の外だとしたら何処を探せばいいんだ」


「うっせぇな。お前もちったぁ考えろ!」


 考えて分かるなら困らないんだがな。


 しかし、考えてみないことには分からないのも確かだ。


 俺はこの期に及んで、ゾッカが何を考えているのかを突きとめられずにいる。おそらくゾッカが狙っていることは、変革。


 この変革とやらは何を意図していることなのかまではゾッカの口からは聞けていない。ただ、この変革の礎となったものを俺は知っている。


 Zeus ex machina。


 俺たちコードZの技術と、機械民族マキナの技術を掛け合わせた最終兵器。


 今回の護衛任務より以前にも試作段階ながらも幾度と助けられている。勿論、今も尚、改良を重ねられ、ここに至るまでも俺の片腕として助けられてきた。


 理屈だけなら単純な仕組みだ。人間の肉体と融和する特殊な金属によって、機械民族と同等、あるいはそれ以上の性能を発揮させるというもの。しかし、それを制御するためには頭脳組織の遺伝子を改造されている俺の脳細胞でなければならない。


 ちなみに、元々機械の身体を持つ機械民族がZeusを使用すると、融和の際に完全に一体化してしまい、何の機能も発揮できない上に消失する。運が悪ければ、全身が融け出してしまい、自我ごと崩壊してしまうだろうとゾッカは言っていた。


 よって、俺以外にこのZeusを扱うことはできない。


 そして、ゾッカはこうも言っていた。


 Zeusのなかった未来では、俺は戦場で散っていた、と。


 正直なところ、ゾッカの言葉をどこまで信じていいものか分からないが、Zeusというものが俺の未来に変革を与えたということは紛れもない事実なのだろう。


 俺は、せいぜい強力な兵器程度にしか捉えていなかった。先の短い人生を、華々しく終わらせるための代物くらいにしか思っていなかった。


 ゾッカは、きっとそうではなかったのだろう。


 変革。それは俺や俺たちの生存だけに関わることではないのかもしれない。



『私は、少しでも、未来を、操作、したい。望む、未来を、構築、したいので、ス』



 そうだ。ゾッカは確かにそう言っていた。望む未来を構築する、と。


 より先の未来を見通して、さらなる未来に向けての変革。そういう考え方もあるんじゃないのか。


 俺は、コードZは、所詮は機械民族によって造られた使い捨ての人造人間。残された寿命も大して長くなどない。もし、その先のことを考えるとするならば。


「おい、ゼクラ。何か思い当たることはあったのか? ゾッカが次にする行動をよ」


「もしかしたら俺はゾッカのことをよく知らなかったのかもしれないな」


「なんだ、それは敗北宣言か? もうお手上げってか?」


「そういう意味じゃない。アイツはアイツ一人だけで何かを成そうとしている。俺たちの前から姿を消したのもそう。わざわざこんな爆破事件を起こしたのも、きっと俺たちから遠ざかるため」


「そんなのは分かりきってんだよ」


「なあ、ジニア。俺たちシングルナンバーが機械民族に刃向かうってことがどういうことなのか、分からないわけがないだろう? ゾッカだって分かっているはずだ。それでもアイツはこんな行動に出た」


「手の込んだ自殺だな」


「でも不思議なものだ。ここまでのことをしておいて、まだ機械民族は犯人を割り出せていない。高次元がどうのとか、禁忌クラスの技術がなんだとかは一先ず置いておくとしてだ。俺は一つの仮説を立てた」


「おう、なんだよ。勿体ぶらずに言ってみ」


「ゾッカは、アイツは……、もしかしたら……」




 ジニアの表情が、解けては歪む。せめて愉快そうに笑ってくれればよかったのに。


 俺の言った言葉がそんなにもおかしかったのだろうか。確かに自分でも突拍子もないことを臆せず言い切ったとは思う。顰蹙を買ったことは間違いないだろう。


 とはいえ、それは安易な発想ではない。


「ゼクラ、お前Zeusの使いすぎて脳細胞が変異しちまったんじゃねぇのか?」


 別にそこまで言わなくてもいいだろうに。


「あくまで仮説だ」


 我ながら言い訳がましくも補足を付け加える。


「そうであるなら、ある程度の話には説明が付く。ただそう思っただけだ」


 依然として、ジニアは釈然としない顔を見せる。言い切っておいてなんだが、少し自信がなくなる。

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