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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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閉ざされる未来 (5)

「ザンカ、変な冗談は要らない。正確に調べてから答えてくれないか」


 はたして俺の言葉は平静さを装えていたのだろうか。焦燥に駆られた熱のこもる口調ではなかっただろうか。


『ちゃんと調べたつもりですよ。ですが、ゾッカさんのコードが検出されません。今こちらの手元にはヘルサだけでなく、惑星『セレーネ』全土のマップデータがあります。我々のいるヘルサの正反対側に位置する街の情報だって見逃しませんよ』


 むしろ、ザンカの方の口調が焦っているように聞こえたくらいだ。


『ザンカさん、それはどういう意味ですか?』


『こっちが聞きたいくらいですよ。ちょっと映像、出力しますよ』


 苛立った様子で、俺の目の前にザンカとズーカイが出てきた。これは本人ではなく端末が投影している立体映像だ。


『この惑星にきてからの我々の情報は常に監視されているも同然です。着陸する際も、空港に来たときも、はたまた階層を移動したときも全てです』


 そう言いながら、惑星『セレーネ』を模したかなり精巧な立体映像を出す。俺たちがスキャンされていくところから、今現在、こうやって対峙している時点まで全ての情報が網羅されていた。


 表面の皮を剥ぐみたいにピックアップするとピンポイントで映像を拾える。


 ミニチュアな俺が一人とぼとぼ歩いている光景も、同様にザンカとズーカイが肩を並べて歩いている光景も、ジニアに引っ張られるように移動するゾッカの光景も全部、そこに映し出されていた。


『ここ、見てください』


 その中、指先でちょんちょんとタイムコードを指定される。そこに映っているのは、ジニアとゾッカがマーケットの中を散策している場面だ。何のことはなく、希少な機械パーツを手にとって見定めては、愉快そうな顔で買い物をしている。


 ただ、次の瞬間、ジニアの視界から外れた死角、ゾッカの姿が消失していた。


 奇妙な消え方だ。まるで映像を切り取ったかのように、瞬時にしてゾッカが忽然と消えてしまっている。


 予備動作なども一切ない。本当に突然そこから消え失せている。


「なんだ、これは。映像データの破損か?」


『いえ、間違いなくゾッカさんはこのように消失しています』


「バカな。じゃあ、新手の転送装置か? うっかり起動してしまったとか」


『そんなものが動いてたら直ぐに分かりますよ。ズーカイさん、そちらから見てもどう思いますか?』


『次元転送系は、いずれにせよ空間に何らかの作用を及ぼします。どんなに精巧に作られていたところでその痕跡は消せません。湾曲して見えたり、フィルターに掛けたみたいにぼやけて見えるはずですが、これにはそんなものまるでないです』


 流石は万能パイロット。移動する機器に関してはザンカ以上の分析力だ。普段ろくに口数もないくせに、こういうときか、あるいは酒を飲んだときはよく喋る。


「なら、どうすればこれを再現できる?」


『高次元への接触。禁忌クラスです。僕らのようなコードZにとっては決して許可の下りることのない未知の技術でしょう』


 なるほど、分からん。シンプルな答えではあるのだが。


「その高次元の……は分からないが、なんでゾッカがそんな技術を」


『僕にも分かりません。それに今のは推測に過ぎません。もしこの映像の通りのことを実現しているとするならゾッカさんは違う世界を移動していることに』


 また余計に分からないことを。


『もう考えるだけ無駄ですよ。少なくともゾッカさんの存在は消滅しました。それが本人の意図していることなのか、事故なのかはさておいてね』


「ゾッカが何かに巻き込まれてしまった、のか?」


『それはどうでしょうね』


 ザンカがまた指先でタイムコードを指定する。その位置は、ヘルサの街の商業区の一角。俺もまだ足を踏み入れていない場所。だが、今の俺には何処だか分かった。


 映像が再生される。


 何の変哲もない、雑居ビルのような建物が、何の前触れもなく、爆ぜた。


 そうだ。これは今も尚、この街を騒がせている爆破事件の一部始終の映像。


 どうしてザンカは、これを俺に見せようとしたのか。その意図を考えようとした途端、吐き気にも似た不快なソレが喉奥を責め立て、しまいには頭痛を引き起こした。


 映像を、見る。


 建物が、突然、爆ぜる。


 本当に何の前触れもない。急に爆発したとしかいいようがない。


 何度繰り返し見ても映像は同じものだ。


 これを見る限りでは、ニュースでも言っていたように犯人は不明。一体何の目的を持って、何処の誰がどうやってこんなことをしでかしたのか、分かりようもない。


 だが、俺は気付いてしまった。


 その建物を粉砕に至った爆風の勢いや威力に覚えがあったから。爆発させているというのに、かなりの精密さを持ち、破壊するための最効率が計算され尽くされているかのような、爆発。


 そんなはずはない、と口で否定することは容易だった。


 しかし言わずにはいられなかった。


「ゾッカ……?」


『ゼクラさんも、その結論に至りますか』


「いや、違う……俺は別に、そういう意味じゃ……」


 だったら、どういう意味だったのだろう。


 俺の中の疑惑が確信を示していた。これはそう、以前ゾッカに開発してもらっていた爆弾と同等のものだ。爆弾そのものは姿形も確認できないが、その特徴的な金属音を交えたような炸裂音も、精密な爆風の動き方も、相違ない。


 ピンポイントで指定の箇所を破壊する爆撃。こんなものを造れるのは俺の知る限りゾッカくらいのものだ。


『その顔では否定したことになりませんよ』


『ではまさか、ゾッカさんが爆発事件を?』


 なんでそうなるんだ。微塵も理解ができない。


 ゾッカが突然、姿をくらまして、そして惑星『セレーネ』に襲撃?


「なんかの間違いだろ。うっかり変な装置が誤作動したとかで、それで爆弾が暴発してしまったとか」


『ゼクラさん、それはさすがに無理がある解釈だと思いませんか?』


 ザンカからなんとも哀れむような目で見られてしまった。そこまで正気を疑うような眼差しで見なくても。


『僕も、信じられません。どうしてゾッカさんが?』


「ザンカ、破壊された建物のデータは?」


『もちろん調べてありますよ』


 驚くほど早い返答だ。


 手が早いな。既にこちらが何かを言うまでに大体調べ上げてしまっているようだ。

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