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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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閉ざされる未来 (2)

「で、ゼクラ、さん。調子はどうなんです、カ」


 これほど辺りの風景に溶け込まない男もいないだろう。


 神秘的とも言える建築美の溢れる静寂な公園の片隅に、半身が機械のかたまりにまみれた男が雑音を吐き散らしている。


「調子か。正直なところ、分からないな。大分くたびれていたと思っていたのだが、ジッとしているだけじゃ落ち着かない。身体が闘争を求めているかのようだよ」


 我ながら自分の言葉も半々というところ。本当に戦いに飢えているのかどうかなんて自分でも分かっていない。ただ、休もうとすることを拒んでいる、そんな感覚に襲われつつはある。目を閉じたらもう、二度と開かないような気がして。


「やはり、Zeusを過剰に使いすぎた、せい、なの、カ」


 副作用。考え得ることだろう。負担は軽減できていることは確かだ。だが、何の反動もないわけがない。無理やり覚醒剤をドーピングし続けているようなものだ。


「また少し、調整する必要が、ある、ナ」


「なあ、ゾッカ。お前はどう考えている?」


「どう、と、ハ?」


「俺の寿命など、もうたかが知れている。次の任務か、あるいはその次の任務か。いずれにせよ、長いなんて見栄は張れないよ。これ以上改良を重ねたって、ソイツが倍に伸びていくわけじゃあるまい」


 所詮、使い捨て兵器の身。自分の限界が訪れていることくらいは分かる。Zeusの負荷を改善できたとして、より戦闘を重ねられるようになったとして、その先に残るものは一体なんだというのか。さらなる進化の礎か?


「私は、少しでもゼクラ、さんの寿命が延びるなら十分、ダ」


 表情の読みづらい顔をしてやがる。その顔の残り半分の生身の部分まで機械化しているんじゃなかろうな。どういうことを意図している顔なんだ、それは。


「前にも言っていたな、ゾッカ。お前には少し先の未来が見えると。そのすぐに変化してしまうという未来、今はどんな形をしているんだ?」


 ザリザリザリ、ギギギと通信機器が故障したかのような異常な雑音がゾッカを中心にして鳴り響く。それは声なのか、嘆きなのか、悲鳴なのか。判別もできない。


「変革は、実を、結ぶ、間もなく、理想、形となり、世界は」


 なんだ、ゾッカの言葉が認識できない。意味を汲み取る以前に、言葉を発しているのかどうかさえ理解できない。ただひたすらに雑音に雑音が重なっているみたいだ。


「長い、長居、友よ、私は、少し、もう、時間が、撓み」


 目の前のソレは、なんなのだろう。壊れたスクラップか何かなのだろうか。ソレを長く共に戦い抜いてきたものであるということを認識することができない。まるでフィルターごしに観測しているかのよう。


「すまない、ゾッカ。お前の声が聞き取れない」


 キュル、キュル、キュル。何の音だろう。吸着力を持ったゴム質の物体を超高速で擦り合わせたかのような甲高くも聞き取りづらい、奇妙な音。


「ふぅ……、どうやら私も、焼きが回ったよう、ダ」


 今度こそゾッカの声が聞けた。相変わらずも雑音が混じっているが。


「未来は姿を変える。よって、ここで、ゼクラ、さんに答えられるものは、な、イ」


 キュイ、キュイ、キュイ。また変な音が何処からか聞こえてくる。


「少し話題を、変えよう。世界は時が未来に向けて、進み続けている。そして、未来は無数に広がっている。私が、観測できるのは、直近のものでしかな、イ」


「遠い未来のことは分からないということか?」


「それは正確、ではない。例えば、巨大なファクターの登場は、未来を大きく、左右する。その登場は早まっても、遅れても、ズレが生じる。しかし、結果として巨大なファクターの未来は、何処かで、収束する。時間に撓みが出るだけ、ダ」


「時間に撓み?」


 またえらくよく分からない話がぶち込まれてきたような気がする。そうでなくともゾッカの言葉は時折難解すぎて理解するのに苦労しているのだが。


「簡単な話。同じ事象が発生するとしても、それが時間軸で観た場合、過去にもより未来にもなりうる、ということ、サ」


 まるで意味が分からない。


「それは、例えば俺が死ぬことが決まっていたとしても、とっくの過去に死んでいる場合もあれば、もう少し先の未来で死ぬ場合もある。そういうことか? 以前お前はZeusを作り上げることで俺の死ぬ未来を改変したかのように言っていたよな」


 キュッ、キュッ、キュッ。一体なんなんだ、さっきからこの音は。一体何処から聞こえてくるんだ。これもゾッカの雑音なのか?


「私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、変革が必要なの、ダ」


 キュ、キュ、キュ。


「私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、変革が必要なの、ダ」


 キュ、キュ、キュ。


「私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、変革が必要なの、ダ」


 キュ、キュ、キュ。


「私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、変革が必要なの、ダ」


 キュ、キュ、キュ。


「私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、私は今、悍ましいまでに撓む、時の坩堝に囚われている。抜け出すには、変革が必要なの、変革が必要なの、変革が必要なの、変革が必要なの、ダ、ダ、ダ」


 これもゾッカの雑音なのか? 一体何処から聞こえてくるんだ。一体なんなんだ、さっきからこの音は。キュッ、キュッ、キュッ。


「以前お前はZeusを作り上げることで俺の死ぬ未来を改変したかのように言っていたよな。そういうことか? もう少し先の未来で死ぬ場合もある。とっくの過去に死んでいる場合もあれば、それは、例えば俺が死ぬことが決まっていたとしても」


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。


 まるで意味が分からない。



 … … …



 … …



 …



 世界が、流転している。そう知覚できていた。


 何処からか、何時からか、何故なのか。


 まるで巨大な渦の中に飲み込まれていくような……。

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