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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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シングルナンバー (4)

 ヘルサの街を散策してみよう。何の気なしに、そう言ってみたものの、別に土地勘があるわけでもないので、端末に周辺のマップをダウンロードし確認してみる。ザンカがいるときに任せた方がより詳細な情報を得られたような気もするが、今更だ。


 一先ずは改めてヘルサの全域を知ることができたのだが、想像していたよりも数十倍は広かった。かなりの層に分かれており、さらには途中から枝分かれなどもあり、樹木の根を輪切りにしたかのような構造になっている。


 今いる宇宙空港も、実はほんの入り口に過ぎないようだ。大分地下まで潜っていたように思えていたのだが、まさかまだまだ下層のそのまた下層があるとは。


 滞在中にヘルサの全てを巡ることは不可能ということがとりあえず判明した。


 それほど長期滞在する予定でもないし、あまりに広大だということが真っ先に理由として挙げられるが、それ以前の問題として人類が立ち入りを許可された領域が極端に少ないというのがある。


 当たり前の話だが、機械民族に統治された惑星で人類が自由に往来できる方が珍しい。好き勝手にのさばっている『カリスト』がひたすらに無法地帯なだけだ。


 ともなれば行けるところは居住区や商業区を含む繁華街ぐらいに絞られてくる。それだけでもまだ区分が多いのだが。


 迷う意味も特にないのでエレベーターに乗り込む。


 まずは下層を、と思ったが操作盤がかなり複雑な形式で、面を食らいそうになる。円盤状に操作端末と思わしき水晶が数十と並び、まるでパズルみたいだ。行き先を指定するために手順通りの操作をしなければならないらしい。


 操作時間にも制限があるらしく、もたついていれば入力を無効にされる仕組みになっている。もし一般的な人類が操作するとしたら一体指が何本あればいいんだ。


 まあ、機械民族に合わせた機構なのは今更驚くところでもない。


 こんなところで足踏みしていても仕方ないので、適当な階層を指定する。


 すると、目の前の扉が開き、指定した階層に着いていた。エレベーターとは思っていたが、昇降機の類いではなかったらしい。次元接合型の転送装置だったのか。


 ヘルサの街への第一歩を踏み出す。地下であることを忘れさせるくらいにそこは広大な空間が広がっており、大パノラマな都会の町並みがそこにあった。


 鏡のような光沢を持つ、長方形型の建造物が階段状に高低差をつけて整列し、波を描いている。何を意図しているデザインなのかは分からないが、スケールが大きい。


 この辺りは人類の領域ということもあり、往来している人々は人の形をしている。他に目に付くものは言えば、点在するように機械民族が目を光らせている程度。


 ここはまともな階層のようだ。少なくとも、俺の目線での話だが。


「Z-o-E-a-K-k-Rだな」


 ふと俺の目の前に、頭サイズくらいのボール型の機械民族が飛来してきた。


「はい、そうです」


 右手の敬礼を添えて返す。


 表情というものを持ち合わせていないボールからは何を考えているのかはうかがえないが、見定めるようにこちらを見ていることだけは分かる。


「連絡は承っているぞ。任務、ご苦労。ここまでの護衛で貴様には報酬が出ている。このヘルサでも使用可能な電子貨幣だ。引き続きの任務のため、ここで十分に英気を養うといい」


 そういうと、俺の端末から数値が表示される。ふむ、悪くない額だ。


「貴様の功績は賞賛に値する。今後の活躍にも期待している」


 言うことはそれだけなのか、ボールはまた飛んで何処かへと行ってしまった。


 わざわざ労いの言葉と報酬を送るためだけに現れたのか。あるいは「何処にいてもお前たちのことは監視しているぞ」という牽制も兼ねているのかもしれない。それは流石に考えすぎだろうが。


 それにしたって随分と丸い機械民族だった。いや、見た目のことではなく。


 月並みな言葉を述べられることは別段、珍しくもないことだったが、最近は特に何処か体面上、表面上のものではなく、含みを感じる節がある。


 偏に、目を見張るような活動を評価されているだけなのだろうか。


 俺を含むシングルナンバーと呼ばれる連中は数を減らしつつあるのが現状だ。九割方は戦死で、残りの一割は解雇。


 だからこそ奴隷の扱い方を変えようとしているとも解釈はできる。


 そんな傍らで、シングルナンバーの最後の世代であるコードZ、つまり俺たちの世代で一旦量産化体制は打ち止めとされているのだが、その意図は実のところ分かっていない。


 終戦に向かって動いているという建前は聞かされている。戦争が終わるならば兵器を量産することは無駄な浪費でしかない。それならば納得できないこともない。


 ところが、制度の改正によりダブルナンバーやトリオンナンバーなど、シングルナンバーに次ぐ世代が現れている。これらの登場によって俺らの世代がシングルナンバーと呼ばれるようになったわけだが、これがきな臭い話の根源だ。


 その世代は、別に俺たちのように生まれながらにして人体改造手術を施した使い捨て兵器などではないということ。ごく一般的な人類でしかない。


 例えばそう、惑星『カリスト』で出会ったブロッサもそうだ。コードを持ってはいたが、何処にでもいるようなごく普通の少女だった。


 コードが付与されているのは、人類をより掌握しやすくするための手段なんて言われているが、事実はどうなのだろうか。考えるほどに深みにはまっていく。


 ひょっとすると、そこいらの人間すらも兵器化する計画が水面下で動いているのではないか。そんな疑惑もまことしやかにシングルナンバーの間では囁かれている。


 全人類兵器化計画。完全なる人類の奴隷化。はたしてそのような桁違いに規模の大きい計画を実行に移すことが可能なのか。


 その無謀が過ぎるように思える計画を実現させてしまえそうな、一つの可能性。それは、まさしく今、俺たちが命がけで護衛している古の王妃の存在だ。


 人類の最終進化形態と呼ばれたコードZを超え、更なる高見に臨むためのピースとなるのかもしれない。


 この任務を完遂することは、一体何を意味するのか。


 もう既にその計画は動き始めているのか。


 ただ使われる立場にある奴隷の俺たちに、それを知る権利などありはしない。

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