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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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シングルナンバー (3)

 ※ ※ ※



「あれが惑星『セレーネ』です」


 ズーカイがパパパっと端末を操作し、モニターに出力して見せる。


 しばしの休息を経て、我らが『サジタリウス』号はあれから無事に敵対組織と交戦することなく、惑星『セレーネ』の見える場所まで辿り着いていた。


 拍子抜けという言い方もおかしいかもしれないが、散々追いかけっこをしてきた後だ。余計な戦闘がなかったことは幸いだ。


 惑星『セレーネ』は惑星『カリスト』のような自然惑星ではなく、機械民族によって製造された惑星になる。視認できるほどの無数の衛星が規則的に周回しており、まるでその星自体が生物か何かのように見えるほど。


 縦横無尽に飛び交う衛星のいくつかは目玉のような見た目をしている。あれらが周囲の監視する役割を持っているらしく、かなりの遠方まで望遠できるとか。


 案外、『サジタリウス』号が襲撃に遭わなかったのはあの衛星のおかげもあるのかもしれない。


 そうこうしていると、『サジタリウス』号の周囲を覆うかのように小型の衛星のいくつかが飛来してくる。すると何やら幕のようなものを形成し、筒状に整列する。『サジタリウス』号は筒状となった衛星の中をトンネルのように潜らされていった。


『Z-o-E-a-K-k-R。コード認証。入星を許可します』


 どうやら今の一連で全てがスキャニングされた様子。俺の端末からアナウンスが流れてきた。それで全てが終わったのか、衛星はまた惑星『セレーネ』へと帰還する。


 普通、入星審査というものはこういうものだったな。


 これでもかなり簡略化されて円滑にはなっているが、少なくとも惑星『カリスト』のような歓迎のされ方ではない。何故か安堵してしまった。


「まずは、都市部に向かいます」


 ズーカイが端末を操作し、『サジタリウス』号がいよいよ惑星『セレーネ』へと進入していく。周辺を巡回している無数の衛星がアーチのようなものを形成し、視認できるルートが構築されている。


 一見すると、親切に案内されているように見えるが、実際は進行方向に制限を掛けられている。言わずもがな、俺たちは機械民族の奴隷という位置づけであり、任務を担っている手前、ある程度の配慮はされるが、それ以上はない。


 とりあえず敵対していないという状態なだけだ。だが、今はそれだけで十分。


 任務を遂行するという建前さえ行使すれば、物資の調達も安全な休息も与えてもらえるのだから、文句の付け所のない好待遇といえよう。


 衛星に誘導されるがまま、『サジタリウス』号が突き進んでいくと、そこには巨大な都市があった。文明レベルが『カリスト』とは格段に違う。


 まず、建築物が石造ではないし、キノコみたいな森があるわけでもない。


 一面銀色に光る地上には針のように細いアンテナが空に向けて格子状に広がっており、あたかも生きているかのように蠢いている。さしずめ、アンテナの森か。


 あの一つ一つがエネルギーの供給であったり、通信基地の役割を果たしていたりとかなり幅広く機能を持っている。『サジタリウス』号が付近まで降り立っていくと、アンテナがこちらを監視するかのように一斉にこちらを向いてくる。


 すると、格子状のソレがニョキニョキと伸びてきて、あっという間に『サジタリウス』号が絡め取られてしまう。そのまま引きずり込むようにして、アンテナごと『サジタリウス』号は地下へと沈められていった。


 気が付いたらそこはエレベーターのような箱状のスペースになっており、『サジタリウス』号は俺たちを乗せたまま、さらに下層へと移動していった。


 しばらくして、到着したのか、箱状のソレが開く。


 目の前に広がるのは、おそらくは空港の光景だった。


 立ち並ぶ棚のように何段にも分けられた区画に、いくつもの宇宙船が規則正しく並べられており、大きさや機種などかなり細かく分類されているのが一瞬で分かった。


 見ようによっては宇宙船の博物館のようにも見えた。この場にいるだけで何やら『サジタリウス』号もコレクションか何かの一部にされたみたいに錯覚する。


 管理されているという意味では、それもあながち間違ってはいないのだろうが。


「この区画は、ヘルサと呼ばれている都市のようですね。区画内ならば移動に制限はないようですし、しばらくは自由行動としましょうか」


「ヘルサね。ご身分の高そうな名前だこって。よし、ゾッカ。一先ずは部品を調達するぞ。ザンカ、マーケットは何処だ」


「ここに入るまでに取得してますよ。手元の端末で確認してください。ええと、ここからまた少し地下に降りたところにありますね」


「おーし、ゾッカ、地下だ。地下に行くぞ。へへへ」


「はいはい、行きますよ、ジニア、さん。慌てなくてもいいだ、ロ」


 ジニアは引きずられるようにゾッカと共に『サジタリウス』号から颯爽と降りて、とっととマーケットへとまっしぐらだ。相変わらず緊張感のない奴だ。


「ザンカ、お前はどうする?」


「そうですね。とりあえず情報収集も兼ねてエントランスフロアに向かいますか。ズーカイさんもこれから先のルート構築に必要になってくるんじゃないですか?」


「はい、では僕も同行しますよ」


 二つ返事でズーカイが答える。


「ゼクラさんはどうしますか? ここもセキュリティは万全ですし、わざわざ『サジタリウス』号に留守番する必要もないですよ」


「そうだな……適当に散策してくるかな」


 正直なところ、ジニアたちと同行する意味も、ザンカたちと同行する意味もないわけで、『サジタリウス』号でスリープに入っていてもいいくらいなのだが、折角休めるのだから羽を伸ばす意味合いも込めて、ヘルサの街を見ていくのもいいだろう。


 そもそもジッとしているのも性に合わない。


「なら、しばらく別行動ですね。何かありましたらこまめに連絡するんですよ」


 そんな保護者みたいなこと言わなくても。とは思ったが、まあ、前回『カリスト』のミザールでは散々な醜態を晒してしまっている手前、突っ返す言葉もない。


「せいぜい、のんびりさせてもらうよ」


 束の間の休息のようなものだ。このヘルサで存分に消化させてもらおう。


 まさかこんなところで『カリスト』のときのようなよく分からない騒動に巻き込まれることもないだろうしな。

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