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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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悪くないかもな人?

※別視点

 自称ツェリーを名乗るブロッサは、死を覚悟した。その刹那を覚えているが、恐怖のあまり記憶がぼんやりとしていてよくは思い出せなかった。


 ただ理解できたことは、自分が辛うじて生き延びたらしいという事実だけだ。


 荒れ果てた惑星『カリスト』の中心とも呼ばれる無法都市ミザールに現れた謎の異邦人数名。彼らの正体は何者であったのかはこの際どうでもよかった。


 目にも留まらぬ速さで移動できる超身体的能力。鈍器で殴ろうが刃物で刺そうが無傷でいられるデタラメな防御力。ついでとばかりに銃の弾丸を素手で捕らえる驚異的な動体視力。


 ブロッサはこのミザールにおいて、関わってはならない存在はアルコル・ファミリーだけかと思っていた。権力も武力も全てにおいて敵なしだと思っていたから。


『今度目の前に現れたら次はないと思え』


 ゾクリ。男の凍てつくような言葉と、異常な眼圧がリフレインする。


 アレは違う。何かが違う。ブロッサの中に構築されていた強さの概念がそのまま弾けて崩落した。あの異邦人たちはアルコル・ファミリーの比にならない。


 特に、ゼクラと呼ばれていた男。あの男だけは別格だった。まるで殺戮の限りを尽くし、人どころか建物、はたまた町、いやいっそのこと惑星ごと破壊していそうなくらいの計り知れないオーラをまとっていた。


 少なくとも、ブロッサは直感でそう思った。


 ブロッサの手はまだ震えている。足も、立ち方を忘れてしまったのかというくらいガクガクになってしまっている。


 何故、今自分はこうして生きていられるのか。子供だから見逃されたのだろうか。ブロッサの中で疑問が巡ってくるも答えは出せない。


「み……みんな、怪我は、ないか?」


 自分でもビックリするくらいに掠れた声だった。


 見回すと、いつの間にかブロッサと、その取り巻きの子供たちは皆、近くの廃墟の中へと逃げ込んでいた。生存本能だったのだろう。無我夢中で、殆ど無意識だったに違いない。


「ぼくはだいじょーぶ……」


「ツェリ姉はヘーキ?」


「ここここ怖かったよぉ……」


「うぇぇぇぇああああぁぁぁぁこわぁぁぁぁ」


 その場にいた子供たちはひっくひっくと泣きじゃくっていた。それはブロッサ自身も含まれる。頬が熱くて、涙でぐしゃぐしゃになっていると遅れて気付かされた。


 そして相手の力量を測りきれなかったことを、深く後悔した。危うくブロッサの判断で仲間たちを皆殺しにされてしまうところだった。


 殴っても、斬っても、撃ってもまるで動じないなんてそんな大人がいるなんて知らなかったから。


 普段は子供たちの前では弱みを見せないよう努力していたブロッサだったが、今回ばかりはボロボロと涙をあふれ、こぼれさせ、強がりのメッキが剥がれ掛けの状態だった。


 とはいえ、いつまでも弱いところを見せてばかりもいられない。


「落ち着け! アイツらはもういなくなったから! 大丈夫だ!」


 ブロッサはよろよろと立ち上がり、涙をぬぐってもう一度辺りを見回す。何人かいなくなっている子がいないか、念入りに数えた。


 少なくとも、ブロッサと共に襲撃に向かった子供たちは全員無事のようだった。そこでホッと一息つくが、まだ安心というわけでもない。


 あのおぞましい連中がこのミザールにいるということは、いつまたあの恐怖に襲われるか分かったものではない。


『今度目の前に現れたら次はないと思え』


「ひぐっ」


 背筋から刺されるような錯覚を覚える。


 殺される。そんな強烈な確信を抱いた。


 得体の知れない異邦人の身体がムクムクと巨大化し始め、ブロッサを軽々ひょいと指先で持ち上げて、そのまま頭からバリバリむしゃむしゃと食べてしまう、そんな想像をしてしまうほど。


 人間が突然巨大化するなんて普通は考えられないことだが、アレに限ってはそれもありうるのではと思えてしまっていた。


 ぶんぶんと頭を振ってブロッサは恐怖の妄想を払う。


「あたいは一旦家に戻る。お前たちは誰にも見つからないように身を隠せ」


 そういってそこいらからボロきれを調達して配る。こんな廃墟ならとりあえず被っておけばガラクタと埃にまみれて多少なりは姿を隠せるだろう。


「ツェリィ……」


 ぐずぐずに泣きじゃくる声で、子供の一人が呼び止める。


「大丈夫、すぐ戻ってくる。家に残した子たちを連れてきてな」


 震えを止めた頭をぽんぽんと優しく撫でる。そのままボロきれを被せて、急くようにブロッサは廃墟を飛び出した。


 幸いと、ブロッサたちがアジトにしていたボロ家はそこまで遠くはなかった。ブロッサの言いつけを守っているならば、そこの地下には幼い子供たちが隠れて待っているはずだった。


 道の真ん中は避け、壁沿いにゆっくり、じりじりと移動する。周囲に気を張りつつ、異邦人がまだそこら辺にうろついていないことを祈りながら、ブロッサは少しの時間を掛けて、ようやく家へと戻った。


 正直言うほど大した時間も掛かっていなかったのだが、ブロッサにとっては生きた心地のしない最悪の数分だった。体感では何時間掛かっていたかも分からないほど。


「ただいま、みんなっ!」


 家に入り、真っ先に床の扉を開く。本来は食料などを貯蔵する地下室なのだが、あいにくと普段は空っぽだった。その代わり結構なスペースがあり、いざというときのための避難場所として利用していた。


 中には明かりはない。小さな子供たちにとってはあまり入りたくない場所だ。怖がって泣いている子もいるかもしれない。


 泥だらけの階段を降りて、ブロッサはもう一度、声を掛ける。


「イヨー! シダ! ワズ! ゲーン! ヤエー! オウ! みんな! 帰ってきたぞ! ツェリー姉ちゃんだぞー!」


 ところが、何も返事はこない。不気味なほどにシンと静まりかえっていて、これではまるで最初から誰もいないみたいに。


「うそだろ……みんな、何処に……」


 バクバクと心臓が早打つ。まさかみんな食べられちゃった? そんな想像がふとブロッサの脳裏を過ぎる。


 いやいや、そんなはずはない。多分、待たせすぎたから地下室の中が怖くなって出ていってしまっただけだ。そう、推測して、ブロッサは尚のこと顔が青くなった。


「み、みんなが食べられちゃう……っ!」


 半ば、錯乱状態で地下室を飛び出す。他に隠れている場所はないか、家中を探すが、やはり姿は見当たらなかった。

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