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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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ブラックマーケット (4)

『ゼクラさん、どうしましたか?』


 通信の向こうからズーカイの焦るような声が聞こえてくる。


「アルコル・ファミリーと接触してしまった。もう長居はできない。『サジタリウス』号に退くぞ」


『分かりました。直ぐに帰還します』


『こっちも、了解、ダ』


 続けざまに、ゾッカの声も確認。


 釘を刺しておいた俺の方が厄介ごとを背負っているのだから世話ない。


 一先ず、ズーカイとゾッカについてはこれで大丈夫だろう。次は、まあ、また嫌みを言われそうだが仕方あるまい。


 渋々と手元の通信端末の信号を切り替える。


「ザンカ、ジニア。聞こえるか? すまない。アルコル・ファミリーと接触してしまった。これから戻る。直ぐにでも発進できるよう待機しててくれ」


『――何やっているんですか、あなたは』


 心底呆れるような声が返ってきた。予想通りと言えばその通りだ。


『わぁった。準備しとくぜ、へっへっへ』


 愉快そうな声までやってくる。これはしばらくネタにされてしまいそうだ。


 さてと、問題はここからだ。この密集したマーケットのど真ん中から脱出していかなければならない。周囲の気配を探った感じでは、どうやらかなりの数が俺の方を目指して移動しているようだ。


 向こうから本格的に迫られて追尾されるほどにまで至ったらこちらとしても無視ができなくなる。もう呑気に歩いて、は無しだ。被害の出ないよう善処するとしよう。


 足を、踏み込む。踏み固められた地面にズブリと足がめり込んだ気がしたが、気にするまい。手荷物をこぼさないよう注意を払いつつ、跳ぶ。


「んな……っ! 高っ!」


「に、人間の脚力かよ……!?」


 下の方から何か聞こえたような気もするが、構う暇も惜しい。


 マーケットには、屋台やテント以外のものがないので、そう高く跳ばなくても辺りを見回すには十分だった。


 視界の端にマーケットの切れ目を目視。あとは人との接触を避けて駆け抜けるルートを構築するだけだ。この程度ならZeusを起動するまでもない。


 秒の滞空時間を終えて、地面に着地する。思っていたよりも足が埋まる。やはりこの機械パーツの重量は無視できるレベルじゃなかったか。とはいえ、折角調達してきた品々だ。捨てるには惜しい。


 地面から足を引き抜き、今度は横方向に跳躍する。高さを間違うとそのまま通行人と衝突して、とんでもないことになりかねないが、臨機応変に対応しよう。


「ちょっ、俺たち無視かよ!!」


「ま、待て! 逃げんじゃねぇ!」


 やや後方から呼び止める声が聞こえるような気もするが、気のせいにしておこう。


 マーケットを行き交う人々の頭上スレスレを飛び越え、人垣の薄いところに着地。注目度がどんどん増してきているが、もうそれどころじゃない。


 既に増援にきたアルコル・ファミリーはかなり近くまで接近しているはずだ。


 もう一度、跳ぶ。かなり危うい飛行だ。俺も重力装置を装備してくればもっと手際が良かったのかもしれない。とはいえ、ないものねだりしても仕方ない。


「いたぞ! アイツだ!」


「追え! 逃がすな!」


 向こうの方から知らない連中の叫ぶ声が聞こえてきた。明らかにこちらに向かって言い放っている。


 もうマークされているのかよ。顔が割れてしまったのはかなりキツいぞ。いつの間に撮影されてたんだ。意外と用意周到だ。


 伊達にこの界隈で恐れられていないわけだ。


 これはますますのんびりしていられない。


 跳んで、着地。人を避けて、また跳ぶ。大道芸人にでもなった気分だ。


 跳んで、跳んで、跳んでと何度か繰り返し、アルコル・ファミリーを撒きつつも、攪乱し、マーケットの出口までとようやく辿り着く。しかし、その先に見えるのはまだミザールの町だ。


 これで逃げ切ったわけじゃない。ここはまだミザールの中央であることには変わりない。その証拠に、マーケットを抜けたというのに、少し開けた空間には妙な人だかりが見えている。


 それは人だかりだけじゃない。大型車両やら、ドローンやら。物々しいものが待ち伏せていた。何を、って勿論、俺のことをだろう。


 目視できるだけでもズラリと数百人規模は待機してる。お前ら、暇なのか?


 車両も次から次へと到着して数えるのも面倒になってくる。


 ドローンに至っては武装したものがハエのようにブンブンと無数に飛び交ってる。


 完全に、俺を捕らえる包囲網を完成させているようだ。


 今からこれをかいくぐっていかなければならないのか。被害を抑える気力が失せてくるのだが、どうしたものだろう。さすがにZeusまでは使わないにしても、そろそろ武器を取り出したくなってきた。


 ここまできたらもう言えないだろう。「俺に攻撃の意思はありません。どうかここを通してください」なんて。誰も聞き入れてくれる様子はないぞ。まあ、最初からこちらの要望なんて通ってなどいなかったが。


「貴様が何処の何者かは知らないが、アルコル・ファミリーに楯突くとどうなるかをその身に刻むといい」


 なんか、偉そうな男が前に出てきた。俺に楯突くと機械民族から報復されて思い知らされるのはお前らの方なんだがな。


 と、こちらが何かを言う前に、数台のドローンからレーザーを撃たれた。即座に躱すのは容易だったが、力量を測られているような気がしてあまりいい気分ではない。


「なるほど、報告の通り、なかなかすばしっこいようだな。だが、この包囲網からは抜け出せまい」


 どうしてこうなってしまったのだろうな。俺としては穏便に、穏便にと気を配っていたつもりだったというのに。


 最初からステルス全開で姿をくらましながらそこら辺のものをかっぱらっていった方がよかった気さえしてくるくらいだ。これではアイツと同レベルの思考回路だな。


 過程でどの程度何をしてきたかなど、もうこの期に及んでは何の意味も成さない。結果として残っているのは自分が撒いた種ばかり。


 自分の尻ぬぐいは自分でやらなければな。


「少しくらい歪んでも後で直せるよな」


 ポツリと呟きつつ、自分の両腕の中にあるソレの心配をした。まさかスクラップをお土産にするわけにもいかないからな。


 どれくらいの数を振り払えるかは分からないが、なるべく被害は最小限に抑えるようにしよう。そう心に誓いながら、俺はまた再び、足を強く踏み込んだ。

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