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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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ブラックマーケット (3)

「ど、どういうことだ……?」


 男は顔を引きつらせつつも、若干うわずった声で言う。


 銃口の先は依然として、俺に狙いを定めようとしたまま。しかし、その持つ手が震えてしまって、二度目は当たらなそうだ。


「い、今、確かに当たったはずでは?」


 酷く動揺し、酷く狼狽している。冷静さを装っていたはずの男からほんの一握りの余裕が掻き消えていく様子を垣間見てしまった。


 男が思い描いていた予定では、レーザーが俺の脳天を焼き切り、ミザールの平和を乱す異邦人を成敗することに成功。危険因子は無事に排除された。


 などという光景が目の前に広がっていたのだと思う。


「大丈夫だ。まだ俺の裁量でどうにかなる。どうか、ここは見逃してくれないか?」


「い、い、生きている、のか? ど、どうしてかね? お前、見たか? なあ?」


 完全に取り乱してしまったみたいで、目の前の男は取り巻きの方の二人にすがるような声で問い訊ねる。そういう反応になってしまうのか。


 対する二人の男の方も、ビビり具合がうつったのか、言葉をなくしている。


 状況はますますまずい方向に行っている気がしてならない。


 かなり性能のいいレーザー銃だったのだろう。


 大層ご自慢の品だったことがうかがえる。


 しかし、その程度のもので俺の肌を焼かれてもらっては困る。


 こちとら、機械民族マキナと何度も渡り合っているんだ。光線や熱線を遮断するフィルターぐらい付けているに決まっているだろう。


「き、キミは一体、何者なんだ?」


 その質問はもう三度目だ。そろそろ納得してほしいのだが。


「俺に名乗る名前はない。できれば都合の良い方で解釈してくれると助かる」


 実際のところ、俺には名前などない。勝手に仲間同士で呼び名を付け合っているくらいのもので、宇宙中のどの記録を引き出したところで該当するものはない。


 ただし、俺に、あるいは俺たちに関するデータで共通するものがあるとするならば、明瞭に答えられるものがある。


「俺は、コードZだ」


 男が後ろに数歩退いて、そのまま尻餅をつく。取り巻きの男二人はよく分かっていないようだったが、地べたの座り込む男を庇うように固まる。


「さ、さつりくへいき……、マキナの……」


 急に舌たらずになってしまわれた。俺を見る目がこの一連のやり取りの中でガラリと変わってしまった気がする。そのような認識をされてしまうと身も蓋もない。


 こういうとき、どういう顔をしたらいいのか分からない。


「貴様、我々に刃向かうつもりか!?」


「アルコル・ファミリーに逆らうとどうなるか分かっているのだろうな!」


 取り巻きの男二人がいきり立って前に躍り出る。


 おそらくよく使うテンプレートのような語録を引き出してきたのだろう。こういう状況下では汎用性も高そうだ。ただ、実力差が分かっていないのは悲しいとこだ。


「ひ、ひけっ! そいつは……、いや、その方は敵に回しちゃダメだ!」


 腰の抜けた男が間の抜けた声で制止する。


「し、しかし……このままではアルコル・ファミリーの顔に泥が……」


「いい、いい! 下手なことをするな! ミザールが、『カリスト』が滅びる!」


 男二人がきょとんとした顔をする。その唐突すぎる突拍子もない発言の意味が理解しがたかったようだ。連中にとってはアルコル・ファミリーこそが絶対だと思っているのだろうから。


「安心してもらいたい。何もする気はない。これは本当だ。ここは穏便に、見逃してほしい。そうすればこの場は何事もなかったことになる」


 刺激しないように懇切丁寧な言葉を探る。俺としても、アルコル・ファミリーとの交戦は願っていない。何故なら敵に回すということは、即ち機械民族にとっても敵になるということだ。


 そもそも、惑星『カリスト』の存在自体も機械民族にとっては目の上のたんこぶのようなもの。いつかは手を下さなければと考えているはずだ。


 敵対していない状況下なら俺たちも必要以上に関わることはないが、俺たちの今の任務は護衛。それをアルコル・ファミリーが阻害するようなことがあれば、上の判断によっては手を下さなければならない。


 そうなったとき、惑星『カリスト』ごと滅ぼすことは可能ではあるが、どう考えても現状からいって割に合わない。


 十分な補給ができたとしても、その後に支障が出る。


 保障だとか、手当だとか、そんな都合のいいものはない。余計な仕事が増えて、余計な遅延が発生して、それで任務に支障が出ようものなら最終的には俺たちにペナルティが加わる、そんな図式ができる。


 どう足掻いても、どれだけ足掻いても、俺たちは不利益しか被らない。


 つまり、俺が今この場でしなければならないことは、アルコル・ファミリーと敵対関係にならないように全力を尽くすこと。または交渉でもなんでもいいから、アルコル・ファミリーとは出会わなかった、ということにすることだ。


 向こうの、尻餅をついている方の男もソレを理解しているようだが、他のお仲間についてはそこのところをよく分かっていないようだ。ちゃんと教育してやれよ。


 俺も立場上、あまりペラペラと喋るわけにもいかない。


 言えるなら「お前たち、俺を敵に回すと機械民族の怒りに触れて、惑星『カリスト』は二度目の崩壊を迎えることになるぞ」とでも言ってやりたいが、無理だ。


 こちらにも守秘義務ってものがある。身分を明かすには相応のリスクを背負わなければならない。まだ、脅し文句にコードZだと吹聴したことにはできるはずだ。


 コイツらが余計なことをしなければ俺はこのまま立ち去るだけでいいんだ。


「面の皮が厚い奴め。俺たちを舐めきったその態度、気にくわないな」


「アルコル・ファミリーに刃向かったことを後悔させてやる!」


 最悪だ。


 コイツら、事態が悪化していることを察してくれ。


「ああ、直ぐに応援に来てくれ。くくっ、目にもの見せてくれる」


 男の一人が何か、機械を手に持って声を掛ける。


 まずいな。通信端末を使って仲間を呼んでいるのか。


「……っ! ……っ!」


 お前らの足下に転がってるソイツ、上司じゃないのか? 物凄い青い顔してるぞ。今にも泡を吹きそうだ。


 猶予がなくなった。そう確信した俺は、通信端末を起動する。


「ズーカイ、ゾッカ、聞こえるか。直ぐに撤収するぞ。最悪の事態になった」

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