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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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面倒 (4)

 大勢の人の気配。それと、賑やかな喧騒。廃屋の建ち並んでいたスラムとは打って変わって、突然文化のレベルが一段階、二段階上がったように思わされる。


 超高層ビルこそないものの、人々の行き交う繁華街がそこにあった。先ほどまでの寂れた町並みからそう離れているわけでもないのに、その一角だけ切り取って持ってこられたかのように、その差異が明瞭だった。


 スラムの子供たちはあんなにもみすぼらしい恰好をしていたというのに、そこいらを歩いている子供ときたら、まるで貴族みたいな恰好してすましている。ここまで分かりやすい貧富があったとは。


 一応、ここも無法地帯に含まれているはずなのだが、ある程度の秩序は保たれているのか。これも、例のアルコル・ファミリーとやらの恩恵か。


 厄介なところに首を突っ込まない限りは、まともな生活を保障されるらしい。


 俺としては、機械民族マキナの姿がないことに違和感を覚えるところだ。もっとこう、武器を構えた機械民族たちが文字通りに目を光らせて、統率の取れていない者に銃撃を浴びせるような、苛烈な光景を想像していた。


 俺の想像と比べてしまえば、このミザールは平和という形を成していた。確かにこの街の近隣にあるスラムとの貧富の差はあれど、そもそも人が住まうには劣悪な状況だった過去のことを思えば、些細なことのように見えてしまうくらいだ。


「てめぇこのアマ! 俺様にガンつけやがったなぁ! あぁん!」


「ひぃぇ、そ、そのようなおつもりは……! ご慈悲をっ!」


 何やら小さな諍いが目に入る。いかつい男が馬鹿でかい銃器を片手に、いかにもか弱そうな女性を牽制している。


 まあ、無法地帯であるという点に関しては想定していた通りだろう。


「で、何処に向かうんだ、ズーカイ」


 それはそれとして本題はこっちだ。


「この先にマーケットがあります。そこで燃料になりそうな資材を調達しましょう」


 シンプルに、ゆったり口調で具体的にまとめてくれる。


 ようやくお目当てのものにありつけるというわけだ。ただでさえ回り道しているというのに、なんだかさらに余計な回り道をしてしまったように思う。


 人混みを抜けた先は、それを人混みと思っていたことが誤りであったと理解させられる程度に一層ランクの上がった人混みが待っていた。


「ふむ、ここがミザールの心臓か」


 もしこの場所に人がいなかったらだだっ広い草原だったのかもしれない。土の見える地面一帯、見渡す限り、無数の屋台やらテントやらがズラリ、ズラリと並び、賑やかさに拍車を掛けている。


 何やら食欲をそそるようないい香りも右から左から漂ってくる。


 建築物こそないが、ここがこのミザールの中心ということは容易に理解できた。


 仮に住民の大多数がここに集結していると言われてもさほど違和感はない。


 貧民とも貴族ともとれない中間層くらいの人々が大半のように見える。中にはスラムの子供らしき姿もひっそりと息を潜めている。これだけ人が多いと取り締まるのも大変そうだ。


 既にこのマーケットに立ち入って数十歩、万引きや窃盗の数は歩数を軽く上回っている。なかなかカオスなところじゃないか。


 ミザールの外側は貧困層の住まうスラム。中央に近づくと富裕層が増え、そのさらにど真ん中のマーケットはそれらが入り交じる領域となるわけか。なんともはや上手いこと共存しているようだ。


 人種も区別付ける気が起きないほど。機械民族の姿こそないものの、ゾッカのような機械人形オートマタも普通に闊歩している。なるほど、こういう場所であれば俺たちのような何処の馬の骨とも分からない輩が出歩いても不自然はないな。


「のんびり、と食べ、歩き、してる暇はない、ゾ」


 ゾッカが言う。確かに実のところ、既にあれやこれやと余計な時間を食っている。これ以上道草を食っている場合ではないことは明白。


「なら、ここは効率よく行動すべきだな」


 三人仲良くくっついて移動していても仕方ない。


「各自、十分な調達を頼む。場合によっては往復することも考慮しよう」


「分かりました。では一旦解散しましょう」


「ああ、そうだ。忘れていた。一応コレには気を付けておいてくれ」


 ふと俺はソレを端末から出力する。


 黒い毛皮をまとった獣のようなものを模した紋章だ。


「なんですか、これは? 何かのエムブレムでしょうか」


「ザンカのデータから抽出してきたものだ。アルコル・ファミリーはこのエムブレムを身につけているらしい。目に付いたら接触を避けるようにな」


「なる、ほ、ド」


「了解です」


 スラムで出会ったブロッサも、このエムブレムだけは厳重に注意していた。


 逆をいうと、このエムブレムをつけていなかったからこそ襲ってきたので、この目安はかなり強いように思う。この情報は上手く利用させてもらうとしよう。


「では、また、後、デ」


 そういってまた、俺はズーカイとゾッカの二人と別れる。


 ものの一瞬で二人共この人混みの中に掻き消えていってしまった。


 また変なトラブルに巻き込まれないことを祈るばかりだ。


 ただ、普通に解散を提案してみたものの、ここにはスラムの子供たちもいることを考えると、実のところはズーカイを単独で行動させない方がよかったのでは、という不安が過ぎった。


 まさかアイツもこんなところで子供たちの集会場を作るとまでは思わないが、前科をつくると途端に心配になってくるものだ。


 まあ、アイツの心配をしていたって仕方のない話だ。


 今のところ、一番の心配事としては、アルコル・ファミリーとの接触だろう。


 ざっくりと資料に目を通した感じでは、ここ、ミザールを縄張りにしているだけでなく、かなり広範囲にわたって活発的に動いているようで、下手に刺激しようものならばただでさえ敵だらけの現状にまた厄介な敵が増えることになる。


 最悪の手段はあるが、惑星『カリスト』をもう一度滅ぼすわけにもいくまい。


 そうでなくとも、この場所で俺たちが目立つ行動をとることは最悪の結果を招くトリガーになりかねない。十分な、あるいはソレ以上の注意が必要になってくるんだ。


 さてと、足踏みする間も惜しい。


 マーケットのさらなる奥へ、人混みの中へと俺は足を踏み入れていった。


 これ以上、何か面倒なことが起きないようにと密かに願いながら。

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