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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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面倒 (3)

 さて、一先ずは子供たちを合流させ、俺たちも改めてミザールに向かうことになったのだが、ここでメンバー交代だ。


 ジニアとザンカは待機、代わりにズーカイとゾッカが物資調達班に入った。


 無駄な交戦やら子供たちからの嫌われ具合から機嫌を悪くしたのか、ジニアもふてくされた様子で『サジタリウス』号に残った。


 ザンカに関しては、例のロック解除の形跡を誤魔化すための隠蔽工作を任せた。アイツ自身が犯人じゃないことが疑問に残るのだが。


 そして、ゾッカはともかくとして、ズーカイを連れていく理由はとてもシンプルだ。子供たちを町に帰すには好都合だったからとしか言いようがない。


 とてもじゃないが、俺一人で全員を連れていくのは骨が折れる。子供たちの骨が何本あっても足りないだろう。消去法的に考えて穏便な手段と言えよう。


 紆余曲折あったが、俺たち三人と子供たちは二度目のミザールの領域を跨ぐ。


 石造りの廃屋が建ち並ぶゴーストタウン。気配はほとんど感じられない。せいぜい小動物くらいのものだろうか。


 放置された空き家があることは、この際、不幸中の幸いだったとも言えるのか。子供たちからしてみれば最低限の寝床を確保できているわけだし。


「ズー兄ぃ、みんなにもご飯分けてくれないの?」


「またおやつちょーだい」


 両腕両足、はたまた背中にまで子供たちをまといながらも、ノシノシと歩く。自分で撒いた種とはいえ、ズーカイも無様な有様だ。


「ガチャガチャおじさんもだっこ、だっこ」


 そのガチャガチャおじさんというのはおそらくゾッカのことなのだろう。


 半身が機械だから歩く度に金属音がガチャガチャいっているし。


 ズーカイの傍にいたせいか、コイツもかなり子供に懐かれてしまっているようだ。


 ゾッカはズーカイと違い、子供に慣れている様子はなく、ただただ困惑している。


 端から見たらどんな光景だ。大の大人三人が子供たちを引き連れて人気のないスラムを闊歩しているなど。


 できればあまり目立ちたくはないのだが、いつまでも『サジタリウス』号で子供たちを保護しているわけにもいかない。孤児という境遇は大変かわいそうなことではあるが、元の場所に帰してやる他ないんだ。


「ゼクラさん、気付いてますか?」


 ふとズーカイがこちらに首を傾ける。


「ああ、誰か見てるな。偵察か」


 やや遠目に気配を感じる。


「そう、なんです、か? どの辺り、でしょう、カ」


 ギコギコとぎこちない音を立てながらもゾッカが周囲を見渡す。あまり気配は察知できていない様子だ。視認もできていないのだろう。


 十軒ほど離れた廃屋の窓。ボロボロの布切れにしか見えないカーテンの影から、ひっそりと身を隠しながら通りの様子を探っているあの小さな影は、見覚えがある。


 膝をガクガクに震わせながらも虚勢を張り、身を挺して子供たちをかばおうとしていた少女、自称ツェリー、本名ブロッサじゃなかろうか。


 どうやらまだ直接的にはこちらには気付いているわけでもないらしい。


 なるほど、見張りか。


 ほんのさっきの今、俺たちみたいな不審者と遭遇したばかりだ。スラムの子供たちに危険が及ばないように率先して警戒しているのだろう。


 そろそろこのくらいの距離まで近づけば、さすがの向こうもこちらが何者なのか気付く頃合いだろう。


 ふと、カーテンが風とは思えないレベルでふわりと揺れた。ああ、気付いたな。


 子供たちを引き連れて歩いている俺たちの姿をようやくして捉えたに違いない。


 一瞬、向こうの呼吸が荒くなった。脅しすぎたか。


「あそこの窓ですね。どうしますか、ゼクラさん」


「余計なことをする必要はない。さて」


 ズーカイとゾッカにしがみつく子供たちに視線を落とす。あまり子供への対応の仕方は分からないのだが……。


「お前たち、ツェリーお姉ちゃんを知っているか?」


 徐に、そんな問いかけをしてみる。


 子供たちは少々怯えた様子で、特に言葉を発することはなくコクリコクリと首を振る。やはり読み通り、このスラムでは子供たちの世話をよくしているようだ。


 しかし、この子供たち、ズーカイと違って、俺にはそこまで馴染んでいないな。


「あそこの家、見えるな。窓からツェリーお姉ちゃんが見ているみたいだ」


 向かいのボロボロの石造りの廃屋を指さす。すると、知っている家なのか、ハッとした表情で子供たちは揃って前に踊り出る。


 まあ、この通りからすれば見晴らしのいい場所だ。普段も見張りとして使っている場所なのかもしれない。


「ツェリーお姉ちゃあん!」


 子供の一人が遠くの窓に向けて手を振る。


 続けざまに、次々と声を挙げては手を振り、様子をうかがう。


「お姉ちゃああぁんっ!」


「ツェリ姉ぇぇ!」


 自然と、ズーカイから子供を引きはがせた。


「散るぞ」


 そっと二人に告げる。


 察したように、ズーカイとゾッカはそれぞれ別方向へと飛び立っていった。一方の俺もその場から飛び上がり、屋根を二つ三つ超えたところに移動していた。


 残されたのはまだ何も気付いていない子供たちのみ。これできっと大丈夫だろう。


 微かにブロッサの声が聞こえた辺りで、その場から一層遠くへと跳躍する。


 さて、どの辺りに着地したものだろう。中央街に近づけば近づくほど人気が多くなってきてしまう。悪目立ちは避けたいところなのだが。


 ふと、屋根の上に立ち止まる。


「ゼクラさん、待ってくださいよ」


 ふっ、ふっ、と息を切らせたズーカイが背後につく。俺に追いつくとは、お前もなかなか成長したじゃないか。


「子供たちは上手く撒けたか?」


「多分気付いてないですし、追いつけるわけもないですよ」


 だろうな。


「ゼクラ、さん、ズーカイ、さん。置いていか、ない、で、ほしいで、ス」


 やや遅れてガッチャンガッチャンと猛烈な金属音を立てて、若干屋根をぶち抜きつつも、ゾッカが追いついてきた。遅いとまでは言わないが、子供たちにバレていないか不安にはなる。


「さて、合流も果たしたことだし、ゆっくりとミザールの街を巡るとしようか」


 こういうのはさっさと切り替えるに限る。ようやく面倒な子供の面倒から解放されたのだからこっちの方の面倒ごとを片付けていこう。


「あの子たち大丈夫でしょうか?」


「……そういうのは無しだ。今後どうなろうと関与するべきじゃない」

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