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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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面倒 (2)

「ザンカ、子供たちをどうにかしてやっておいてくれ。俺が向かう」


「はいはい、分かりましたよ。まったく、エネルギーカツカツなのに……、フィールド展開。保護フィルター施行」


 室内の壁や天井を覆い尽くすように青白くぼんやりと光る膜のようなソレが展開されていく。数秒と経つことなく、青いコーティングが完了した。


「やぁー! 帰るぅ!」


 子供の一人が嫌な気配を察知したのか駆け出して部屋から出ていこうとする。


 しかし、出入り口は開いているのにも関わらず、まるで飾りか何かのように閉ざされていた。


「えぇー!? 出られないよぉ!」


 両手でバシバシと叩くが、まあそんな程度で破壊できるわけもない。本来はバリケードに用いるものだ。武器も持たない子供を確保するには少々大袈裟な代物だろう。


 また逃げられても困るし、特例ということにしておく。


「さて、ズーカイ。お前にも来てもらうぞ」


「僕もですか?」


「子供に余計な刺激を与えないようにな」


「ついていってやってください。ズーカイさん、この人さっき町の中で子供を威嚇して追い払ったんですよ。ぶっちゃけジニアさんと変わらないんです」


「なるほど」


 いちいち要らん注釈をつけくわえるな。子供の扱い方が分からないだけだ。そして、即答で納得するんじゃない。


「ズー兄ちゃんいっちゃヤダー!」


「オウを迎えに行ってくるだけです。すぐ戻ってきます。安心してください」


 ほんの少し目を離しただけで随分と子供たちに懐かれたもんだ。別れの悲しさあまり、涙目になっているぞ。


「こいつら面倒だから早く行ってこい」


 足下を子供達に蹴飛ばされながらもバツの悪そうな顔でジニアがぼやく。向こうは向こうでまたえらく嫌われたもんだな。顔が怖いのかもしれない。


 ジニアがまた怒り出す前に急いで迎えに行くとしよう。



 ※ ※ ※



 ある程度のルートは閉鎖しつつ、俺とズーカイは格納庫に向けて移動していた。


 大した距離もないのだが、下層部まで逃げ込むとは、オウという少女もなかなかに好奇心が旺盛なものだ。


 下手したら防衛システムに焼き殺されていただろうに。一応、ズーカイが危険なトラップの類いは切っていたらしいが、それはそれでまた別な意味で危険ではある。


「いました、オウです」


 開いた格納庫の出入り口越しに、寝そべっている少女が確認できた。こんな固い床でよく眠れるものだな。あまり日頃から柔らかい寝床とは縁がないのかもしれない。


「武器の類いは大丈夫か?」


「全てロックが掛かっているので触れられた形跡もありません」


「例のものはどうだ?」


「はい、オウの直ぐ横の奴です。特に問題は……」


 そういってズーカイがオウを避けて、その巨大なカプセルに向かう。端末を起動し、データの解析に当たるが、何か不穏な気配を漂わせている。


「あれ……? ロックの一部が解除されています」


 冷たく鋭い刃物がのど元に突きつけられているかのような、そんな気分だった。端的に言うと、寿命が縮む思いだ。


 ソレが何であるかなんて説明するまでもない。


 古の王妃とやらが眠っているネクロダストだ。


 俺たちはソレを目的の場所まで運ぶ、いや、連れていくための任務にあたっている。そして、ソレに関する情報は機密事項となっていて、調べる権限がない。


 下手な詮索でもしようものなら極刑も免れない。


「誰だ、そんなことをした奴は」


 まさかそこに寝ている少女じゃあるまい。なら、ザンカか。アイツならそれも可能だろうし、最も可能性が高い。


「僕には分かりかねます。ただ、その形跡が残っていました」


「それは大丈夫なのか? 俺たちの命に関わるんだぞ」


「ええと、もう少し情報を精査します。……このネクロダストは、何者かによってほんのつい最近に解析されかけていました。しかし、直ぐに再ロック掛けられています。情報は漏洩してはいないようです」


 少しだけ安堵した。機密情報が外にバレていないのならそれに越したことはない。


「されかけていた、というのも奇妙な話だな。いや、ロックが厳重すぎて解除しきれなかったのか。あるいは踏みとどまったのか」


「いずれにせよ、この形跡を残しておくわけにはいきません。ザンカさんの手を借りましょう」


 面倒なことばかり立て続けに起きる。


 今のところ、ロック解除をしようとした犯人はザンカのような気がするのだが、中途半端に止めたともなるとジニアの可能性も浮上してくる。身内が一番怪しい。


 だが、外部から何者かが潜入してきたのならソレは現状、最も危惧すべき事態だ。


 そういえば、ズーカイは防衛システムの一部を解除していたんだったな。ひょっとするとその隙を狙って招かれざる何者かを招いてしまったことも考慮すべきか。


「ふみゃぁ~……」


 緊迫感を裂くように、足下の方から気の抜けるような声が聞こえてきた。


 どうやら少女が目覚めたようだ。


「ほぇ~、ここどこぉ? お姉ちゃんはぁ~? あれぇ~?」


 寝ぼけ眼で周囲を見るようにキョロキョロと首を振る。遠くを見つめているその目はまだ夢の先に繋がっているようだ。


「起きましたか、オウ」


「あっ、ええと、んと……ズッカイあんちゃん!」


 惜しい。


「かくれんぼはもうおしまいです。みんなが待ってます」


「うぇ~、まだ帰りたくなぃぃ」


 少女がズーカイの足にしがみつく。対するズーカイはそれを払うこともせず、ただ優しく少女の頭をなでた。今にも泣き出しそうだった顔が、幾分か穏やかになる。


 この少女も、どういう境遇で生きていたのかは定かではない。ひょっとすれば、先ほど町で出くわした子供たちのように、追いはぎじみた危険なことをしてその日その日を生き長らえていたのかもしれない。


 こうしている分には、ただの子供にしか見えないのだが。


「さあ、ゼクラさん。戻りましょうか」


 そんなズーカイの顔は、優しい笑みを浮かべてはいたのだが、隠しきれないほどに暗い暗い何かを落とし込んでいた。


 俺たちにできることなんて、そう多くはない。無駄な干渉もすべきではない。


 ズーカイもそれを分かっているはずなのだが、非情になりきれなかった。


 それはきっと、この少女の、いや、あの子供達の現状を垣間見たからなのだろう。


 やれやれ、コイツも大概お人好しが過ぎる。それがどれだけ面倒なことか。

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