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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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古の王妃 (3)

 一体なんだってこんな身元不明の何者かも分からない死体にここまで群がってくるのか理解に苦しむところなのだが、機械民族マキナは完璧主義者という認識が根強い。


 おそらくかなりの解析をした結果、不明な情報が弾き出されたのだ。そこにはきっと隠蔽されるべき大きな秘密が隠されている。きっとそう踏んでいるのだろう。


 ひょっとすれば数十億年前に存在していた人類の突然変異種かもしれないし、それを解析することで人類はさらなる進化を遂げるかもしれない。


 その可能性を否定することは機械民族にできるはずもないだろう。


 現実問題として、シングルナンバーの中でも俺たちの世代、コードZは技術面が暗礁に乗り上げている状況下にある。端的に言って、人類の最終進化形態とまで呼ばれている。それはとどのつまり頭打ちの存在。


 長く続いている戦争の中で、兵器の停滞とは武力の敗北を意味する。今もこうしている間にも、宇宙の何処かではコードZの先を行く新人類が遺伝子操作によって生み出されようとしているかもしれない。


 それによって、悪い意味で戦争に終止符が打たれる可能性すらある。


 そういう観点から見れば、この古の王妃は、恐ろしく重要な検体なのだろう。


 何が何でも処分すべきだと考えている過激派すら出てきているはずだ。それを示すデータがこれこのように突きつけられている。


 何が事実かなどは不明なままだというのに。だが、そういうことなのだろう。


 事実というものは存在していないも同然で、在るのは解釈だけなのだ。


「諸君らの健闘を祈る」


 我らが司令官が敬礼に送る。そして、答礼が返ってくる。


 古の王妃の眠っているであろう黒いカプセルは『サジタリウス』号の中へと格納されていき、いよいよ持って任務の始まりを告げる。


 俺たちも颯爽と乗り込み、来るときと同様、また機械民族の船に先導されながら何の感慨もなく惑星を発った。



 ※ ※ ※



 コックピット内に、全員が配備につく。依然として、正面のデカいモニターには宇宙がだだっ広く映し出されていた。今のところは至って平穏の様子。


「へっへっへ。女を乗せてランデブーたぁ、オレたちの船も華やかになったもんだ」


 特に皮肉が込められているような気がしてこない、愉快そうな笑いを含めて、ジニアが上機嫌に言う。本当に緊張感のない奴だ。


「確かにランデブーだが、そういうことじゃないだろ」


 第一、いつの時代の、何処の誰だかも分からない死体の収容されたカプセルにどんなワクワクやドキドキを覚えろというのか。


「なぁ、ザンカよぉ。ちょっとだけでも顔、拝めないのか?」


「できないことはないでしょうけど、直ぐにバレますよ」


 あっさり危なげなことを言う。今しがた司令官からは俺たちには中身を確認する権限はないと釘を刺されてきただろうに。


「僕は見てみたいですけどね」


 ズーカイ、お前までそっち側につくんじゃない。


「私も、興味、深い。ですが、無茶言っては、いけません、ヨ」


 いつもより雑音多いぞ、ゾッカ。もう少し本音を隠せ。


 少々気が緩んでいるように思う。これはよくない空気だ。


 一つ、深呼吸する。


「今回の任務は護衛だからな。そんな無駄な詮索している暇はない。いつ何処から襲撃が来るか分からないんだ。いつもより忙しくなると思った方がいい」


 目的地に辿り着くまでに何度も交戦する可能性は高いと見ていいだろう。となると、消耗の激しいZeusを頼るわけにはいかない。全員で総力を挙げて切り抜けていかなければならない状況だ。


「ズーカイ、周囲に敵影はあるか?」


「今のところ、確認できません」


「ザンカ、カモフラージュの可能性は?」


「どうでしょうね。かなり広範囲にわたって見ましたが、あからさまな敵対組織は見当たりませんよ。何せまだこちらの領域ですし」


 即時対応できる辺り、こいつらの有能さ加減を垣間見える。


「ゼクラ、さん、ピリピリしても仕方、ないです、ヨ」


 逆に心配されてしまった。俺の方が間違っているのか、この空気。


「女が乗ってるからってテンション上がってんじゃねぇよ、へっへっへ」


 お前がそれを言うのかジニア。お前が。


「……何にせよだ。あまり気を抜くんじゃないぞ」


 既に脱力感に苛まれてしまっているのだが、まあいざというときにはコイツらも頑張ってはくれるだろう。そうでもなきゃこれまでやってこれていないからな。


「そうですねぇ。もう少ししたら渡航領域を跨ぎますし、そろそろ警戒しておいた方がいいかもしれませんよ」


 もうとっくに戦地の拠点は抜けている。『サジタリウス』号の周りに見えるのはスクラップばかり。味方の影すら見当たらない。襲撃されたのならば、全てこちらで対応しなければならない。


「ちぇっ。せめて女の顔くらいなら拝みたかったんだけどな。きっとかなりの美人とみたぜ。へっへ」


 この状況下で緊張感をほぐすような愉快な笑いは要らないぞ、ジニア。


 いつ、何処から、どのくらいの数の敵がやってくるのか現時点で予測もつかない。迎撃しきれるようにも思えないし、おそらくは防戦一方。逃げに徹した立ち回りになるだろう。


 相手の出方も、こちらのネクロダストの回収か、はたまた破壊か。どうにも向こうも一枚岩でもないらしいし、なおのこと、臨機応変な対応が求められる。


 この『サジタリウス』号は速さにおいては何者にも負けないであろう性能を誇る。大概の相手なら振り切れるし、そうやって疾風のようにこれまで任務をこなしてきた実績もある。


 今回この任務に当てられたのも、おそらくその俊敏さを買われたからこそだろう。


 しかし、それでも万能とは言い難い。相手にできる数にも限度というものもある。


 端的に言えば持久戦には向いていない。速さによって相手を翻弄し、一気に攻めるという点では無敵にも思わされる。それでいくつもの惑星を破壊してきたのだから。


 だからといって短時間に連続でソレと同じことができるのかと言えば、無論、無理と言わざるを得ない。これまでの記録上、Zeusがなかったときで三日で惑星八つ程度が限界だ。相手が無数の戦艦で攻めてきたら逃げ切れるかどうか。


「ゼクラさん、敵影が確認できました。その数は三千ほどです」


 ズーカイが言う。さて、覚悟を決めるときのようだ。

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