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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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サジタリウスの軌跡 (4)

 ジニアの肩を借りつつも『サジタリウス』号に戻った俺は仮眠室のベッドに横たわり、ただぼんやりとしていた。襲撃に出てから今に至るまで十分と経過していない。


 やはり、Zeusの身体への負担は大きいらしい。ある程度のセーブをしていかないことにはより一層寿命を縮めてしまうだろう。しかし、心の何処かではそれでもいいと思ってしまっている自分もいる。


 どうせ俺は兵器だ。使えなくなれば捨てられる運命にある。それが遅くなるか早くなるかの違いでしかない。退役を望んでいるというよりも、今の人類の存在意義に疑問を感じているといってもいい。


 現在、多くの人類は機械民族マキナに管理されている。それはただ単に生活を保障されている愛玩動物のようなものでもあったり、あるいは搾取される立場にある労働力のようなものであったり、はたまた俺たちのような奴隷であったり。


 昨今では、ますます人類への迫害が厳しくなっていると聞く。中でも顕著な話はコードの一般化だ。機械民族にとってはコードなどは当然のようにあるもので、人類にとってのコードというものは識別番号、奴隷の証でしかない。


 つまりは俺たちを縛る象徴でもある。そのコードが、そこいらの人類にも付与されているというのだ。


 住民ナンバーであったり、居住区アドレスであったり、個人を識別するもの、組み分けする連番などといった制度は以前からあったのにも関わらず、より一層管理を強める意図で奴隷でもなんでもない人類にコードが付与されるという現実。


 もう既に広域に渡っているらしく、俺たちのような奴隷は早期にコードを付与されたからシングルナンバーなどと世間では呼ばれているそうだ。言ってみればこれは哀れな奴隷代表の烙印みたいなものだろう。


 もしかしたら、何でもない一般人さえも俺たちのように人体を改造され戦場へと送り出される奴隷とされてしまう未来もあるのかもしれない。そんな不安への嘆きも聞こえてくるかのよう。


 元より、機械民族によって生み出された俺たちのような帰るところのない兵器と違って、帰る場所のある人々が消耗されていくことは想像するのも辛いところだ。それはそれと同時に、俺自身の存在価値を軽視しているとも取れるのだが。


 時代は、偏移していく。少しずつだったり、飛躍的にであったり、不規則に。


 最近では奴隷コードの古い順、つまり俺たちを含むシングルナンバーが退役していく話が出てきている。初代コードAの時代にはあり得なかったことだ。その当時の退役とは即ち死に等しい。


 ジニアたちは奴隷の解放なんだと都合よく解釈してはいる。いずれはコードZまでの全てのシングルナンバーが役目を終えるときが訪れるのかもしれない、と。


「ゼクラ、さん。調子は、どうだ。気分、が、優れないと聞いた、ガ」


 仮眠室をガシャンガシャンと音を立てて訪れたのはゾッカだった。心配そうな顔を浮かべているのは見てとれたが、気の利いた返しが思い浮かばない。


「ご覧の通りだ」


「やはり、Zeus、か。もう少し負荷を軽減、できるよう、調整、し、直した方がいいのかも、しれない、ナ」


 聞き取れはするが、雑音まじりに言う。本人からしてみれば普通に会話しているつもりなのだろうが。


「ゾッカ、お前がそこまで気に病むことはない。俺が少しばかり無茶な使い方をしてしまっただけだ。自業自得なんだよ」


「このZeus(ゼウス) ex(エクス) machina(マキナ)の発案者は私だ。まあ、基礎知識を、くれたのはザンカ、さん。基本構築の大体はジニア、さん、だったが、ネ」


 不思議な話だ。ゾッカの技術力は確かなもの。だが、知識だけが奇妙なほど欠落している。Zeusはシングルナンバーたちが戦い抜いてきた歴史の積み重ねと、機械民族の技術を掛け合わせた特異な兵器だ。


 単純に掛け合わせた、などというと簡単に聞こえるが、ザンカには勿論、ジニアにもゼロからでは作れる代物ではない。着眼点が違うだけで済まされる話でもない。ゾッカのヒントがあったからこそ生み出せたといっても過言ではない。


 にも関わらず、ゾッカはまるで常識知らずな男だ。この男、異世界人なのではないだろうか。そんな風に考えることもある。


「Zeusを生み出したことを後悔しているのか?」


「正確、では、ない。私にとって、変革こそ、ファクター、なの、ダ」


 翻訳機の調子が悪いのか、言葉の意味がよく汲み取れない。


「ゼクラ、さん。Zeusは、あなたの未来を変える。私は、そのために、作っ、タ」


 確かにそのようなことを言っていた気はするが、その意味も未だ分からない。


「まるでお前には未来が見えているかのようなことを言うよな」


「ある意味で、正しい。あらゆる状況を、状態を、正しく、正確に、解析すれば、未来を視ることは不可能では、ない。私は、そういう意味で、未来を、視ている。ゼクラ、さんの、未来を、ネ」


「なるほど。それで、俺の未来はどんな光景だったんだ?」


「Zeusが、なかった未来。それは戦場で散り、消えていく、未来でし、タ」


 本当に見てきたかのように言う。ゾッカの言葉をそのまま鵜呑みにするならば、その未来というものを解析によって視たのかもしれない。ゾッカならばできてしまえるという根拠のない自信があるくらいだ。


「しかし、未来は、すぐに、姿を、変え、ル」


 ザリザリザリと、雑音が強く響く。ゾッカの感情が滲み出てくるかのよう。


「私は、少しでも、未来を、操作、したい。望む、未来を、構築、したいので、ス」


 これまでにないくらい、酷い雑音が混じってくる。よほど強い口調に違いない。


 ゾッカが、ふぅ、と小さく吐息をもらす。自分でも興奮気味になっていたことに気付いた様子だ。


「少々、喋りすぎてしまったかもしれません、ネ」


 ほんのりと笑みを含めてゾッカが言う。


 少なくとも、俺の身を案じていることは確かなようだ。


 ゾッカがどれだけ先の未来を見通しているのかまでは彼本人にしか分かりようのないことではあるが、彼なりの努力の結晶がZeusであり、Zeusこそが彼にとって俺への気遣いなのだろう。それだけは明瞭の確信できる。


 その俺が未来のことに悲観的になってはいけない。


 俺はもう少し、未来に感心を抱くべきなのかもしれない。

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