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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.0 Sleeping beauty

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サジタリウスの軌跡 (3)

 俺の身体は宇宙へと飛び出していた。自ら射出していたという方が正確か。視界から光という概念が変質していくように思えた。一言で言い表すのはなかなか難しいものだが、歪んだ虹色が目の前を覆い尽くしている。


 俺の脳裏に流し込まれた情報が算出された結果を次々に弾き出していく。隙間もないくらい無数のスクラップの海の中を遊泳している気分だ。障害物と呼べる障害物には抵触さえしていないというのに。


 正確無比にルートを辿り、俺の身体はターゲットの惑星の()()()()()()()が、()()()()()()で、地面に激突する寸でのところで、武器を突き立てる。


 硬質な惑星の表面が、溶けるように裂けて、中への侵入を許す。鋼鉄も瞬時に融解できるレーザーナイフを搭載していて正解だった。爆撃では鈍くて仕方ない。


 地面の下はすぐ空洞となっていて、機械部品の迷路のようになっていた。


 巨大なパイプが絡み合っていたり、鋼のケーブルが交錯していたりと、目まぐるしいくらいだ。しかしザンカからもらったルートはかなり正確だったようで、その通りに進むだけでスイスイと地下へ地下へと進めた。


 数千メートルは潜れただろうか。侵入を開始した地上付近にて警報が鳴っていることは既に察知している。止まっている暇はなくなった。最初から一度も止まってなどいないわけだが。


 迷路を抜けた先に主要施設を視認。警備している機械民族の姿も確認でき、向こうは俺の存在を認識したが、その隙に機能不全までに両断。ついでに頭脳に仕込まれていたデータチップを拝借。まだこの地点は侵略された経過を把握していないようだ。


 少し早すぎただろうか。あまりに早すぎると自身への負荷が懸念されるところ。前はこれで危うくしくじるところだった。とはいえ、のんびりする余裕はない。


 施設に向けて爆撃をけしかける。多分一秒後には破壊できるだろう。その爆破を見届ける暇も惜しんで、次へと向かう。今の施設はエネルギー生成所。小難しいことはさておいて、破壊すれば周囲を巻き添えにする大規模な爆発となるはずだ。


 と、そんなことを考えているうちに、もう三つほどの施設の爆撃に成功。この区域は離脱して、そろそろコアを目指すことにしよう。


 機械民族に作られた惑星の中央、最深部にある、惑星のエネルギーの源。これを破壊すれば惑星は壊れる。エネルギーの供給源を失い、惑星中のあらゆる施設は崩壊し、またコアそのもののエネルギーによって惑星が破滅の波に飲み込まれる。


 最初から惑星のコアを狙って潰すのが手っ取り早いのだが、やはり向こうも機械民族。警備の数が尋常じゃないため、ある程度の陽動が必要になってくるわけだ。


 今頃、『サジタリウス』号ではアイツらが外側から攻撃を仕掛けているし、さっき俺が破壊したエネルギー施設の方にも幾分か注意が逸れているはずだ。


 そろそろ俺が『サジタリウス』号から出発して一分は経つだろうか。予定通りに進んでいれば、『サジタリウス』号も陽動攻撃を終了してこの惑星から離脱していく頃合いだ。もう猶予はない。


 再び、俺は惑星の地面を切り裂いて進む。機械仕掛けの複雑な迷路をかいくぐり、コアの地点を目指す。さすがにもう向こうも大体状況を察してしまっているらしく、妨害が多くなってきた。俺の位置を完全に捕捉しているようだ。


 俺も既にルートを四十は変えてきている。ザンカの奴め、微妙にルートの縮尺を間違っているじゃないか。アイツはいつも肝心なところで変なヘマをしやがる。


 だが、許容範囲内。遅延もなく、コアへと辿り着いた。


 太陽が一個、そこに置いてある、とでもいえば分かりやすいだろうか。ここがこの惑星の中心部にして、最深部。このエネルギーのかたまりをどうにかしてここから脱出すれば今回の任務は完遂だ。


「そこまでだ!」


 警備員が出てきたが、とりあえず両断しといた。


 さてと、制御部をいくつ破壊したものだろう。


「貴様、何者だ!」


 増援も来た気がしたが、首と足を斬り離しておいた。


 とりあえず手当たり次第に制御機構を破壊。ついでにコアの付近に二秒後に爆発する時限爆弾を数個ほど設置。


「もう逃がさないぞ!」


 よし、脱出しよう。


 天井を突き破り、飛翔する。


 地上付近に出てきた辺りで明瞭な爆発を数百箇所から確認できた。どうやらちゃんと上手いことできたらしい。コアの破壊もできたようだし、この惑星もそろそろ消し飛ぶ頃合いだろう。


 規定の位置まで飛び立つ。


 足の方を見ると、視界の先で惑星が爆発の波に呑まれている様子が見てとれた。


『ゼクラさん、時間ぴったり』


 ズーカイの嬉しそうな通信が聞こえたかと思えば、『サジタリウス』号が向こうからこちらに目掛けて飛んできていた。


 捕捉用の吸着磁力を帯びたリールが突き出ており、そこへと手を伸ばす。そしてそのまま俺の身体は艦内へと収容され、ゲートが閉じた、次の瞬間には超加速し、『サジタリウス』号はその惑星を視認できないほど遠くへと飛び立った。


『任務完了。お疲れさまです』


 ザンカの労うような通信が聞こえてきたが、あまり返事する気力もない。


 Zeusを解除し、俺は収容スペースをふわふわと漂った。脱力感と浮遊感が異様なまでにマッチしている。大きく溜め息をつく。疲労感が後から押し寄せてきた。


 重力制御が働き、俺の身体が床にゴスンと落ちる。少しは立ち上がろうとは思ったのだが、身体が床に吸い寄せられてしまってどうにも動かない。


「よぉ、ゼクラ。今回も完璧な仕事だったじゃねぇか。へっへっへ」


 愉快そうに笑う男が現れる。そして、俺の身体を軽々しく持ち上げると、肩を貸してくれた。全く、情けない姿だ。


「ジニア、すまないな」


「なぁに、いいってことよ。それよりザンカが謝りたいことがあるってよ。何かルートの計算間違えてたとか言ってたぜ」


「ああ、ちょっと殴りたい」


 息を整えてハッキリ言う。


「ズーカイの奴もはげましといてくれ。かなり心配してたしな」


「全く……」


 あれでいてクソ真面目で心配性なのだから仕方ない。


「ところでよ、ゾッカの爆弾はどうだった?」


「ああ、かなり正確で助かったよ。爆風の範囲もシミュレート通りだった」


 そんな他愛ない話を交えつつ俺は仲間たちのもとへと帰還した。

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