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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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未来を紡いで (2)

 講習会を終えて、一先ず今日のところは解散の流れにはなったものの、まだ色々と話し足りないところがあるのか、俺は一人ミーティングルームを後にした。


 もう少しでも残って一緒にいる時間を増やすのも男の役割だとは思うものの、俺にはこの後にやるべきことがあった。


 さりげなく去り際にキャナにもアイコンタクトを送られたが、いよいよこれまで練ってきた計画の節目を迎えようしている。


 まず俺の向かった先は居住区の中央に位置するエントランス。言ってみればちょっとした公園のような場所。


 主に住民同士が交流する場としても設けられている吹き抜けの広場だが、今そこには待たせている者がいた。


「ゼクラのアニキ。待っていたっすよ」


 ブロンズヘアの男が噴水近くに立っていた。あの男は絶滅危惧種保護観察員にして機械民族マシーナリーのブロロだ。惑星『フォークロック』の方で色々と厄介ごとを片付けてもらっていたが、少し前にこの『ノア』に帰還してきていた。


「帰ってきて早々また厄介ごとですまないな……」


 正直なところ、頭が下がる。


 つい先日の一件に関しても、人類の繁栄どうこう以前の話で、ある種個人的な我が儘に付き合わせた結果、余計な問題ごとに巻き込まれたようなもの。その挙げ句で汚れ仕事を任せたのだから。


「まあまあ、そうネガティブはやめといて。そんじゃまあ、『エデン』に向かうとしましょうや。ジェダさんも向こうで待機してるんで」


「そうだな」


 このエントランスの中央には、『ノア』と『エデン』を繋ぐ空間ゲートが手配してある。一見するとただのアーチにしか見えないが、くぐると一瞬にして『エデン』へと辿り着ける代物だ。


 言うだけなら簡単だが、恐ろしく技術のスケールが俺の知識を凌駕している。


 かなり手が込んでいるようで、ある程度の権限がないと作動しなかったり、利用しようと考えない限りは少々無骨なオブジェになる。


 下手に悪用されでもしたら、侵略者を容易に招き入れるような機構にもなりかねないが、そういった対策も万全にできているわけだ。


 ブロロがゲートに近づく。すると起動したのか、ほわほわとした虹色の膜のようなものが出現した。構わずブロロが歩を進めると、虹色のソレに飲み込まれていくかのようにブロロの姿が忽然と消え去った。


 勿論、ゲートの反対側に抜けたということではない。『エデン』に転送されていったのだろう。


 俺もブロロの後を追い、虹色の膜を通り抜ける。


 すると、既にそこは『エデン』だった。不思議なものだ。


 虹の膜に触れたという感触すらなかったように思う。


 自分の記憶にあるワープのようなラグを感じられなかった。戦艦丸ごとを移動させるのと比べればこれは規模もかなり小さい。その差もあるのかもしれない。


 目の前に広がるのは規則正しく建設されたビル群。その高さは遙か上空にある天井まで届くほど。いつ来てもここは、精巧に作られた機械部品の内部に入ってしまったかのような、そんな気分になる。


 道や壁を電気信号のような光の線が縦横無尽に走り続けている辺り、その解釈もあながち間違っているわけでもないようだが。


「ゼクラ殿! お待ちしていたのであります!」


 大音声と共にビシっと敬礼して出迎えてくれたのはジェダだった。相変わらず今日も元気いっぱいのようだ。


「護衛もこれだけ呼んできたのであります! 今日は大船に乗ったつもりで我が輩たちに任せるのであります!」


 と、ジェダの後ろに並んだ面々が揃って丁寧に敬礼する。見覚えのある連中がそこにズラリと並んでいた。割と最近は顔なじみとなっているような気がする。


 俺一人に対して護衛の数が多すぎるようにも思えるが、今回に限って言えば、実のところ多すぎて困るということはなかった。


「今日はよろしく頼む」


 これから執り行われることは、少々複雑な事情が入り交じった話になる。


 前提の話として、今この場に集まってもらっている連中は絶滅危惧種保護観察員の集団であり、人類を保護する立場として俺の護衛をしてもらっている。


 現状、俺は寿命を間近に迎えており、無論それは彼らにとって不都合なことだ。


 とはいえ、命の複製といった手法は禁則事項にあたり、絶滅危惧種だからといって機械民族の技術力を持ってして増殖なり繁殖なりをサクサクっと行ってしまうことは法律上できないことになっている。


 しかし、ついぞ最近のこと。絶滅危惧種である人類の状況があまりにも芳しくないと判断され、法律に改正がされた。その内容をかいつまんでいうとだ、『クローンのクローンを許可する』といった内容だ。


 幸いにも現状生存している人類の中には、人類のクローンたる存在がいたため、苦肉の策として、クローンであればクローンを造ることを許されるというルールの改正にまでこぎ着けられた。


 そこで、それに乗っからない手はないと踏んだ。


 そもそも、何故俺は寿命が近いのか。


 その根本的な理由は、かつて機械民族によって人工的に生み出された存在だからだ。兵器として、道具として、都合よく使われるために造られた人造人間。それが俺だった。


 どうやらクローンの製造法に似通った点もあるらしく、『クローンのクローンを許可する』というルールを適用することができる。


 これによって、クローン法を利用した延命治療を確立するよう改正することができれば、俺は晴れて兼ねてから絶滅危惧種保護観察員たちに問題視されていた短命の問題を解消できるということだ。


 ただ、言うほどこれは簡単な話ではない。そんなに簡単に法律を改正できてしまえるのなら、なんだったら人類の複製も容易にするよう要請するところだ。


 今回キーとなっているのは、俺が機械民族によって兵器として造られた人造人間であるという点。


 その戦闘力と引き替えに、俺は命そのものを削られていた。意図的に寿命を縮められたとも言い換えられる。


 このことを武器にして、法の改正に挑むわけだ。


 相手は、かつて人類と対立してきた長い歴史を持つ機械民族。


 人類の殲滅を考えているものも一定数いることも分かっている。


 何せ人類が今、絶滅の危機に瀕しているのもまた機械民族の策略だったのだから。


 これは、そんな人類と機械民族とが和解するための重要な会議でもあるんだ。

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