プレイボール! (4)
※番外編
時系列的にはEpisode.3の前後
「ほわぁ~、ゼックンはんぱないなぁ」
「あわわ……急いで取りに行かないと。このままでは逆転されてしまいます」
渾身の一撃によって叩きつけられたボールは流星の如く、ゴールに向かっていく。
さすがにこのスピードにはお姉様もプニーも追いつけない。小細工なしのパワー全振りショット。トリック要らずの豪腕シュートだ。
見とれている暇などない。全員がボールを追いかけてスタートを切る。
お姉様のようなトリックショットでもなければ、プニーのような正確無比なショットでもない、ゼクのパワーショットは三つのゴールのいずれでもない方向に軌道がズレている。だが、これもまた計算の内だ。
ボールの向かう先にあるのは障害物エリア。黒い物体たちが待ち構えている。
バフッだか、ボフッだか分からないけど、ボールは障害物と衝突。
どんな素材でできているのかはやっぱり分からないけれども、とてつもないクッションの役割を果たし、ボールが著しく減速する。
恰好の狙い目。誰も追いつけなかったボールに、ゼクがいち早く駆けつけ、そして二打目が繰り出された。
バチコーンっと爽快にまた再び、ボールが弾き出される。
ボールの軌道を読んでいるプニーもさすがに身体の方が追いついていない。
あたしの視点からしてもボールが荒々しく暴れ回っているようにしか見えない。
だけど、あたしには分かっている。この剛速球が正確無比なトリックショットであることを。
「うぅむ、何処を狙っているのでござるか?」
キーパーのネフラちゃんが迷っている。それもそのはず。このボールはいずれのゴールも目指していないのだから。どれだけ高速で予測したところでそのボールの軌道の先にはゴールが捕捉されていない。
しかし、刹那、ネフラちゃんがあたしを見る。どうやら読まれたみたいだ。
激しくフィールドをバウンドする暴れボールが、お姉様もプニーもいない位置、やや後方の位置にいるあたしに目掛けて飛んでくる。
ちゃんと計算されていたみたいだ。このボールを打ち返すことができれば……。
「ええいっ!!」
身体ごとグルングルンと回し、スティックと共にコマのように回る。
「当たれぇぇぇっっ!!!」
手応え。スティックの先にボールが触れた。
めちゃくちゃ重い。こんなの本当に返せるの?
弱音を吐いてたら負ける。渾身の力ではじき返さなきゃ。
バチンという激しい震えが手から伝わってくる。めちゃくちゃジンジンする。
どうやら上手いことボールを返せたらしい。
しかし、軌道を変えさせただけ。ゴールには届かない、とんでもない大暴投だ。
「よくやったぞ、ナモミ」
遠方からゼクの嬉々とした声が聞こえた。
グルグルを止める。無重力だから放っておくといつまでも回ったままになってしまうけれど、そういうのを抑止する装置を起動して上手いこと調整する。
見ると、ボールはゼクの方に届いていた。かなり強引な返し方だったけれども、なんとか無事に軌道修正ができていたらしい。まだ腕がビリビリする。
「ゼクぅぅ! お願いっ!!」
その返事に答えてか、ゼクのフルスウィングが炸裂する。キーパーのネフラちゃんのいないゴールに目掛けて、強烈なシュートが叩き込まれる。
「行ったぞ! ナモミ!」
ゴールを突き抜けたボールがバウンドして、もう一つのゴールを裏側から貫通してくる。そして、その延長線上にいるのは、あたしだ。
「もっかい! おんどりゃああぁぁ!!!」
ちょっと今のはさすがにはしたなかったかもしれない。
直進してくるボールに向かって、スティックをバントのように構えてはじき返す。
思っていたのより十倍くらい腕が痛い。ゼク、もうちょっと手加減してくれなかったものかな。いや、多分これでもかなり手加減してるんだろうなぁ……。
今度はちゃんといい具合にボールは飛んでいった。さっきの大暴投に比べればかなり上手く調整できたと思う。手も腕もめちゃくちゃしんどいレベルで痛いんだけど。
バントだった割にそれほど勢いも落ちることなく、あたしとゼクを仲介していったボールは相手のゴールにシュート。
「ウソやん……」
「あ、あれ? ボールは何処へ行ったのですか?」
何が起こったのか、お姉様もプニーも把握できただろうか。
フィールドの端から端までを使ったロングパス。バウンドも駆使して、キーパーのネフラちゃんがノーマークだった二つのゴールにスリーシュートを決めたのだ。
軌道を読ませないためにあたしを使った大暴投パスも加えて。
言うだけなら簡単な話だけど、何が大変かって、ボールはゴールした後、数秒後に消失する仕組みなんだ。
ゼク側でシュートを決めて、バウンドでフィールドの反対側にいるあたしのところまで飛ばして、そこから二連シュートを秒で決める。どんな剛速球だ。
トリックショットなんて目じゃない。何せ、軌道が分かっていても追いつけないんだから。
正直なところをいうと正確にゴールに入れられるのか、そもそもそんなものを打ち返せるのかさえも分からなかった。途中でミスったらアウトだし。
しかし、こうしてなんとかゼクとのコンビプレーを成功させることができた。
このゲームのルールでは、連続ゴールは得点が倍となる。
つまり最初にゼクが決めて一点、バウンドして裏から二点、最後にあたしのバントシュートで四点。計七点が加算される。それはつまり。
『ゲームセット! 試合終了です!』
フィールド内にアナウンスが響き渡る。
スコアボードには十五対十三と表示され、あたしたちのチームの勝利が確定した。
「やったよゼク! 逆転勝利だ!」
腕が痺れているのも忘れて、あたしはゼクに目掛けて無重力空間を飛び、その勢いのまま抱きついていた。これはしばらく筋肉痛に悩まされそうだ。
「ゼックンのパワーはあかんやろ……」
「私、結局どうして負けたのか分からないのですが」
呆然とした二人が無重力空間をふわふわと駆け寄ってくる。
「ナモミ、腕は大丈夫なのか?」
ゼクに引きはがされ、腕をさすられる。やっぱりそこは気付かれるか。
「ああ、うん、ちょっと痛いかも」
「全く……やっぱりこの作戦は無茶だった気がするんだが」
言わずもがな、ゼクの剛速球と対面で勝負するなんて、正気の沙汰ではなかったとは思う。そうでもしなきゃ二人を振り切る手段も思いつかなかったんだけど。
「まあま、勝ったから良しということでさ」
確かスティックって高速なボールを打ち返すのが主な用途だから、使用者の負担を軽減する仕組みになっていたような気がするんだけど、それでもなおこの痛みはなんなんだろうね。ゼクの素のパワー、ゴリラすぎなんじゃないの?
でもまあ、久しぶりに思い切り身体を動かせて、なんだか爽快な気分ではある。
またやりたいかどうかはさておいて、だけどね。
「う~ん、気ぃ持ちよかったぁ~」
あたしはさぞかし、晴れ晴れとした笑顔だったと思う。




