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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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プレイボール!

※番外編

時系列的にはEpisode.3の前後

 フィールドは冷たい空気が満ちており、肌を裂くような緊張感に震えんばかり。


 か、どうかは不明だけど、少なくとも、心の内では何かが滾っていたことは確か。


 上下感覚もないがらんどうの空間、経験したことのない奇妙な浮遊感にその身を委ねて、あたしは手元のスティックを軽く握りしめた。


「大丈夫か、ナモミ。手が震えてるみたいだが」


 ゼクが優しく話しかけてくれる。


「武者震いよ。なんかちょっと楽しくなってきちゃった」


 それは本当のこと。だってこれから始まることに期待しないわけがない。ちょっとした不安はあるかもしれないけれど、きっとそれも直ぐに変わる。


『ゲームスタンバイ。……プレイボール!』


 アナウンスが開始を宣言する。


 それと共に空間の中にまん丸のボールが出現する。反射的に、手に握りしめたスティックを振りかぶり、ボールを勢いよく弾き飛ばす。


 重力というものに縛られていないボールはとてつもなく軽快に、そして爽快に吹っ飛んでいき、フィールドを一直線に走っていく。そして、ソレを追いかけていくように、あたしも、そしてみんなもフィールドを縦横無尽に発進する。




 事の始まりは数時間ほど前に遡る。




「ナモミさん、最近トレーニングルームの使用頻度が高いみたいッスけどどうしたんスか?」


 健康的な汗をかいている最中、メンテナンスに訪れたエメラちゃんにそう訊ねられた。これといって意味はなかったが、自分の中で理由を探ってみて、ふと思いついた言葉をそのまま口にしてみた。


「ええと、部屋でボーッとしたり、何の気なしに勉強してみたりしてるけど、なんだか身体をパーッと動かしていかないと、なまってる感じがしちゃってね」


 まず身体を動かす機会というのはあまりないような気はする。なんといっても便利なものがあまりにも多すぎる。移動一つにしてもラクラクだったりするし、何処へ行ってもバリアフリーが驚くほど行き届いている。


 元より、あたしは身体を動かすことは好きだったし、運動部とかに入って色々とやらせてもらってはいたんだけれども、『ノア』でできることといったらまあ、トレーニングルームにこもるのがせいぜいだと思う。


「娯楽に飢えている感じッスかね」


「当たらずも遠からず……かな? 何かやってないとうずうずするってのはあるんだけど、できることなんて限られてるしね」


「なら、スポーツをやってみるのはどうッスか? 体力を持てあましてるならこういうのもあるッスよ」


 スポーツ。具体的にそんなものがあったのか。選択肢としてはあまり考えていなかった。そもそも今の時代にあたしの知っているスポーツがあるとも思っていなかったし、そういうものは一人でできるものじゃないはずだ。


「あたし、この時代のスポーツとかよく分からないんだけど、何かあたしでもできそうなものってあるのかな?」


 この時代で勉強を始めようとしたときは驚愕したものだ。あたしの知能はこの時代の小学生にも満たなかったのだから。


 ということは、スポーツもとんでもないのでは。筋肉ムキムキの、鉄骨を素手で曲げられるようなマッスルボディを持ち合わせていないと成立しないようなものばかりだったりして。


「娯楽としてのスポーツなら子供でも参加できるものも沢山あるッスよ」


 その子供の基準も怪しいところだ。


「例えば、こんなのはどうッスかね?」




 そうして今に至る。




 メンバーとしてゼクやプニー、お姉様も揃えて、今まさにゲームの真っ最中だ。


 チーム構成は、あたしとゼクとジェダちゃんチームと、プニーとお姉様とネフラちゃんチーム。そしてエメラちゃんは審判をやっている。


 見たこともやったこともないスポーツだけれど、一応ルールブックも確認したし、それなりに練習もしたからとりあえず大丈夫だとは思う。


 ルールは簡単。ラケットの柄の部分を長くした道具、スティックを用いてボールを打ち、相手のゴールに目掛けてシュートする、エキサイティングなゲームだ。


 これだけ聞くとホッケーに近いような気もするが、野球のように攻撃と守備に分かれ、攻撃側の打ったボールを守備側がキャッチすると攻守が入れ替わる。


 今はあたしのチームが攻撃側だ。


 さて、たった今、あたしのスティック捌きによって勢いよく飛んでいったボールはゴールよりやや軌道を逸らしている。これを上手いことセーブしていってゴールを狙っていくわけだ。


 このフィールドは球体をしており、下手に狙いを外すと壁を乱反射してとんでもないことになる。しかもフィールド内には障害物もいくつか設置されている。


 この障害物は無重力空間だというのに何故かヒモとかついてるわけでもないのに空中に固定された物体だ。大体がフィールドのゴール付近に密集している。これが意外と大きく、これにボールが当たると衝撃を吸収されて勢いが落ちる。どんな仕組みになってるのやら。


 そうこうしていると、ボールはフィールドの壁から跳ね返り、障害物へと当たる。勢いが落ちて、ボールに追いつけるようになった。


 無重力なせいか、上下の位置関係があやふやになってしまってアレなのだけれど、ゼクはフィールドで見たらあたしとは対照的なポジション取りをして、相手チームのプニーはあたしよりやや後方。


 同じく相手チームのお姉様は……スタート地点のフィールド中央からあまり動けていない。動けていないというと語弊があるのかもしれない。正確には、グルグル回っていて推進力がおかしなことになってる。


「ほにゃああぁぁ~……目が回るぅぅぅ」


 普段から無重力みたいにふわふわと浮かんでいるけれど、そういうのとは勝手が違うらしい。自分の意志で動くのと、道具を利用して動くのではやはり違うものなのかな。何にせよ、お姉様が慣れるまでは守備側はプニー一人。


 あたしのチームのジェダちゃんと、向こうのチームのネフラちゃんはキーパーをやっているので、ゴール付近からは動くことができない。


 キーパーの役割も重要で、攻撃のときのキーパーと、守備のときのキーパーで状況が変わってしまうらしい。ルールとしては複雑なので、まだ慣れていないうちは二人に任せておくことにしよう。


「もらった!」


 やっとボールに追いつく。あたしのスティックがボールをとらえ、ゴールに目掛けて放たれていく。そしてそのまま誰にも止められることなく、シュートは見事決まる。


 スコアボードが更新され、まずは一点のリードをとった。

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