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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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教えてくれへんか? (2)

※番外編

「このα2が着ている服の前掛けの部分。エプロンっていうんだけど、料理とか手作業するときはこれを付けるのが一般的だったんだ」


「へぇー、そうなんや」


 そう言いながらも、あたしは自分のエプロンを用意する。手元の端末からデータを読み込んで出力しただけなんだけど。


 同様に端末を操作し、今度はデータカードも取り出し、それをお姉様へと手渡す。


「おお、結構かわええなぁ、このデザイン」


 受け取って直ぐ、シュパパっと、お姉様がエプロンを身につけた。なかなか似合ってる。見た目だけなら新妻のよう。


「よし、それじゃ何作ろっか?」


 キッチンへと移動し、しばし考える。


 普通ならここで冷蔵庫の中身を見て、残っている材料で献立を決めたりするものだけど、そもそも材料は好きなものをファームから取り寄せできてしまうので、選択肢は無限だ。


 そもそもキッチンに置いてある冷蔵庫も見た目こそアレだけど、実質ファーム直送の宅配ボックスだったりする。冷凍室など氷やアイスとかも一瞬で作れちゃう。なんという科学の力。


「そういえば、さっきのナモナモの配信でやっとった、ニクジャガ? あれってどんな料理なん?」


 う、あまり蒸し返したくはなかったんだけど。


「あれはミートとポテトを掛け合わせた家庭料理で、あたしの時代では男の人が好きだと言われてたっぽい。結婚するなら肉じゃが作れる女性がいいなぁ、くらいの認識だったと思う」


 ひょっとするとあたしの偏見なのかもしれないけど。


「それ、ぴったりやん! そういえば美味しそうやったもんなぁ。それにしよ。ニクジャガ!」


「うん、分かった。じゃあ肉じゃがを作ろっか」


 肉じゃがの回の動画内容ってどんなだったっけかなぁ、と思い起こし、頭がフリーズしそうだった。確か使う肉は牛か豚か、の論議から入って、後半延々と「にっくにくじゃっがじゃが~」と変な即興曲を歌い続けてたような気がする。


わたくしも何かお手伝いできることはありますか?」


「そ、そうね、じゃあα2にはこの材料を用意してもらえるかな。三人前で」


 と、α2にデータカードを手渡す。


「あたしたちは調理器具の準備を進めましょう」


 鍋やフライパン、まな板に包丁やら何やら。これらは収納してある。よいしょと取り出し、キッチンスペースに並べ、一つ一つ確認だ。


「なんや、ものものしい感じが出てきたな」


 まだ何も始まってないんだけど。


「ナモミ様、材料の手配ができました」


「うん、ありがとう、α2」


 器具も材料もパパッと準備完了。なんて迅速なのだろう。


 さて、早速調理開始だ。


「まずは、じゃがいもの皮むきから始めましょっか」


「皮は不要なのですか? では皮なしのものと交換した方がよろしいでしょうか?」


 いきなり本末転倒なことを言われてしまう。それでは料理の意味がない。


「いやいや、この行程を学ぶのが今回の目的だからね。この包丁を使って、表面の皮をこうやって、剥いてくの」


「このナイフ、ほーちょーって言うんか」


 そう関心深くお姉様はいきなり包丁の刃の方を触り出す。なんて危険な行動なのだろう。これが普通の包丁だったのならあたしも全力で止めていたところだ。


 しかしご安心あれ。今使っている包丁は子供包丁のように切れない包丁だ。果たしてお姉様をそれを知っていたのかどうかは定かではないが、少なくともナイフという知識があるのなら、安全装置が付いている程度の知識もあったのだろう。


 あたしの時代の子供包丁ならある程度刃が尖っていないくらいのものだったけれど、この包丁はセーフコーティングがされていて、人の肌だけは切れないようになっている。一体それがどういう仕組みのものなのかまでは知らないけど凄い技術だ。


「あれ……? 上手く切れへん……、この包丁、壊れてるんとちゃうか?」


 そうこうしているうちにお姉様の手の中のじゃがいもがどんどん歪な形になり、小さく小さくなっていってしまう。もはや皮どころじゃなくなっていっちゃってる。


 それだけ切れ味がいいんだから壊れているわけがない。というか、包丁を全自動皮むき装置か何かと勘違いしちゃってる感じなのかな。


「お姉様、力入れすぎ。じゃがいもの皮は薄いんだから力に任せたらダメなんだよ」


 これがまともな包丁じゃなくてよかった。多分そうでなければ今頃お姉様の指先は血まみれになっていたに違いない。


 見ていて危なっかしくてヒヤヒヤしたものの、ケガをする心配もなかったので、危なげなく順調に調理が進んでいった。




「――で、炒めた肉と野菜に砂糖と水、それにさっき作った合わせ調味料を掛けて蓋をする。これであとは出来上がるまで弱火で二、三十分くらいね」


「や、やっとこれで完成なんやな。まさかこんな大変とは思わんかったわぁ」


 お姉様がふひぃー、と息をつく。確かに色々と不慣れだったこともあって手間取ったところはあったけれど、大きな失敗がなかったので何とか色々無事に済んだ。


 ひょっとしたら、包丁で手が傷だらけになったり、火の加減間違えて火傷したり、誤って素材を焦がしてしまったりなんて思ったけど、そんなトラブルもなかった。


 調理器具が優れているという点もあるのだろう。あたしの時代でやっていたならきっと今頃このキッチンもてんやわんやしていたと思う。


「それでは皆様、しばらく待つ間にお茶にしましょう」


 α2がそういってお茶を差し出す。あたしとお姉様は緑茶、そしてα2はやっぱりココアである。これからご飯だというのにココアはどうなんだココアは。


「ありがとうね、α2」


「おおきに、アルツーちゃん」


 ほっこりとした一時ひととき。何ともお茶が旨い。


「このドリンク、なんやめっさ渋いな」


「緑茶っていうの。葉っぱを煎ってお湯で出したものなんだよ。まあこれはそれっぽく作ったものなんだけどね。この渋みはカテキンやタンニンっていう成分によるもので、抗酸化作用とか免疫力向上があるんだって」


「ほへぇー……、ナモナモ詳しいなぁ」


「たまたま知ってただけなんだけどね」


 と、なんでもない時間が過ぎていく。


 幸せを感じることのできるこの時間が妙に貴重に思えてくる。


 しばらくして出来上がった肉じゃがは、具材こそ不揃いだったけど、これまで食べたことないくらい、美味しかった。

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