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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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百物語 (2)

※番外編

 ※ ※ ※



 じゃあ、次は俺の番でいいか?


 とはいっても俺の話も面白いか分からないが。


 以前、漁っていた資料の中で見かけた、言ってみれば噂話のようなものだ。実際にあった話らしいが、本当のところはよく知らない。


 その昔、人類が未開拓の惑星を探索していた頃の話だ。


 記録によれば数人の探索チームがその惑星に降り立ち、数度に分けて各所を巡り、自生している植物などを採取して持ち帰る、そんな任務だったとか。


 惑星自体はそれほどの規模ではなく、また探索チームの連中もこの仕事は長く、もう大分手慣れていて流れ作業のように採取を済ませるようになっていた。


 そうしてまたその日も、いつものようにいくつかの植物のサンプルを採取して、帰路につくべく宇宙船へと乗り込んでいった。


 彼らにとって、こんな仕事などもはや何のことでもなかったらしい。


 サンプルも保管し、簡単な身体検査も行って、宇宙船の自動操縦も打ち込み、彼らはそれぞれのカプセルに入ることになった。


 ……ああ、カプセルというのはスリープ用のものだ。まだワープ航路もそこまで確立された時代でもなかったようで、長距離の移動の際、乗組員たちは毎回スリープするようにしていた。これに関しては俺も似たような経験はあるな。


 下手をしたら移動時間だけで何年何ヵ月と費やすことも珍しくないくらいだったそうだ。俺の時代ならなるべくワープ航路を利用して移動時間を短縮していたんだが、まあ当時はそうもいかなかったんだろうな。少しでも活動時間を抑えないとあっという間に寿命を迎えてしまう。


 ともあれ、彼らはカプセルの中でスリープに就いた。


 それからどれだけのときが経ったのかは定かではないが、宇宙船は探索チームを乗せ、目的の場所の付近までたどり着く。まもなくしてタイマーが作動し、スリープの解除が行われた。


 次々に探索チームの連中は目を覚まし、カプセルから出てくる。今回の仕事も大したことなかったな、と談笑していた。


 だが、ふとおかしなことに気づく。探索チームの人数が足りていない。まだ、スリープから覚めていないのか。そう思ってカプセルを見に行く。案の定、未開封の状態となっていたカプセルが一つ。


 すぐさま開けてみるも、奇妙なことにそのカプセルは無人だった。


 誰か、カプセルを使わなかったのか。そう思って記録を確かめるも、探索チームの全員は間違いなく、カプセルに入ってスリープしていた。映像の記録も残っている。


 長期移動している最中に何らかの不具合でカプセルが開いてしまったのかと思って調べてみたが、そもそも宇宙船内にはソイツの姿もない。宇宙船の外に出て行ったなどという記録も残っていない。


 スリープの期間が長いとはいってもたかが知れている。仮に誤ってスリープから覚めてしまったところで、さほど問題にはならないはずだ。何処かに隠れているだけだろう。そう踏んで、探索チームは行方不明の仲間を探し始める。


 しかしだ、とうとうソイツを見つけることはできなかった。死体すらない。完全に忽然と姿を消してしまっていたんだ。


 さて、何処へ行ってしまったんだろうな。


 ミクロ化してしまった? 本当はカプセルの中にいたけど、見えないほど小さくなってしまっていた? いや、これはキャナの話とは別だ。縮んで消えてしまったというわけじゃあない。


 だが、そうだな。その答えは、ある意味正解かもしれないな。


 未開封だったカプセル。これがまずおかしかったんだ。スリープを終えて開いたカプセルならその記録が残っているはずなんだから。


 つまり、ソイツは()()()()()()()()()()わけじゃない。


 ()()()()()()()()()()いたんだ。


 今度は綿密にカプセルの内部が調べ上げられた。するとだ、奇妙なものが残っていたんだ。単刀直入に言うとだ、干からびた状態のバクテリアだった。


 ほんのわずかな量しか採取できなかったが、どうやらそれは未発見だった新種の殺人バクテリアだったらしい。


 さらにもう少し調べてみると、ソイツの眠っていたカプセルは、少々故障していたようで、完璧なスリープ状態にはならなかったという記録も出てきた。


 つまり、どういうことか?


 おそらく、このカプセルに入ったソイツは十分な洗浄を行わないまま、スリープに就いてしまったらしく、半覚醒状態のまま保存されてしまったんだ。


 それが不運にも、彼に付着していた殺人バクテリアにとって都合のいい環境だったのだろう。殺人バクテリアは、スリープ状態で身動きの取れないソイツをさぞかしおいしい餌だと認識したことだろうな。時間もたっぷりとあった。


 じっくり、じっくりと、時間をかけて。そのときの彼に意識があったのかどうかは分からないが、じわりじわりと蝕んでいったのだろう。


 そうして、キレイさっぱり跡形も……。




 お、おい、ナモミ、殴ることないだろ。


 キャナも天井から降りてこい。なんて顔してるんだ。


 ああ、俺の話はこれでおしまいだ。



 ※ ※ ※



 怖い、怖すぎる……。


 目頭が熱いんだけど。なんか、涙も出てない?


 なんで二人ともガチの話を持ってくるのよ。心臓がバクバクしてきちゃった。


「大丈夫か? ナモミ?」


「ナモミ様、顔色が優れないようですが」


「だ、大丈夫よ……、ちょ、ちょっとビックリしちゃっただけ」


「心拍数高いッスよ、ナモミさん」


 みんなにめちゃくちゃ心配されてしまった。百物語をやろうと言い出したあたしがこんな調子で本当にどうするんだ。


「しかし、百物語というのはこんな感じでいいのか?」


「え? うん、まあそう。本当は蝋燭とかあってもよかったんだけどね」


「蝋燭でござるか? 一体何に使うのでござる?」


「百物語は、まず百本の蝋燭を用意しておいて、それぞれに火を灯しておくの。それ以外の部屋の明かりも全部消して、暗い中で始めるのよ」


 今回はちょっと薄暗くしてあるだけなんだけど。


「それで、話が一つ終わる度に、蝋燭の火を一つずつ消していくの」


「そんなことをしたらどんどん暗くなっていくのであります」


「そう……それで、最後の蝋燭が消えた瞬間、完全な闇になる」


「怖いやんか……」


「そして闇の中から恐ろしい怪物が出てくるという――」


 刹那、悲鳴があたしの言葉を遮った。


 思いもよらないところで怖がられてしまった。


「いや、そういう迷信だから、ね? あはは」


 なんやかんやで宴もたけなわだったものの、さほどこれ以上話があがることはなく、この場はなんとなしにお開きとなった。

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