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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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秉燭夜遊 (4)

 それはあまりに私利私欲の強い、極端とも言える要望だ。自分の寿命が短いことなど始めから分かりきっていたことで、それを割り切って生きてきた。


 それを長く生き長らえたいという個人的な理由を以て叶えたいなどと、俺の口から出てしまうのは軽率ではないのだろうか。


「ゼクラ殿、その目はウソではないと同時に、まだ迷っているようでござるな」


 意図も容易く見抜かれる。


「ネフネフ……」


 天井辺りからキャナの視線が降り注いでくるかのよう。


「ふぅ……ま、まあ拙者も検討していなかったわけではござらん。何より常日頃から人類の将来を考えておった次第。ゼクラ殿にも、もちろん姉御たちにも末永く生きていただきたい。それはかねてからの拙者たちの願いでござる」


 思っていたよりも肯定的な意見のようだ。


「実のところ、ナモミお嬢様やプニカお嬢様の子らが男であった場合は断念すべきなのかとも思っていたのでござる」


 まるでズーカイみたいなことも考えていたようだ。


 あっちの方は『ノア』に男性がいるのであれば、俺という存在が必須から外れるから、という理由で仲間として引き入れる話だった。要件も違うし、それは俺から強く断りを入れて何とか納得させて帰らせたが。


 今回は、また違う。俺がいなくなったとしても、子供達が男の子であるならば、俺という存在が同様に必須ではなくなるため、無理やりの延命が必要なくなる。


 かつてシングルナンバーが人為的に量産化されたように、はたまたつい先日のプニカのクローンのように、下手に人類の命を無限に生み出すような機構を造ることは現状、好まれていない手段ということは把握しているつもりだ。


 俺の延命という話にしてもやはり同様。


 実質的な寿命というものを持たない機械民族マシーナリーだからこそ、限られた命を持つ生物には相応の扱いを、という考えなのだろう。


「無理難題を押しつけてしまって申し訳ないと思っている。このようなことを好ましく思っていないことは俺も分かっているつもりだ」


「そ、そんな、ゼクラ殿に頭を下げられることではないのでござる! 拙者たちは命を預かる立場としてこの場にいるのでござるから、これこそが本来の拙者たちの役割でござる」


「なら、協力はしてくれる、ってことでええんやな?」


 キャナが逆立ちのままふわふわと降りてきた。


「俺からも頼む。確かに俺自身まだ迷いはあるが、これは俺の本心だ」


「ぬぅー……、承知つかまつったのでござる。先ほども触れた通り、色々と必要なことも多く、何処まで手を打てるのか拙者にも確約はできないのでござるが、事は慎重に、最善を尽くさせていただくのでござる」


 肩の荷が下りた、というのが適切か。気休め程度ではあるのかもしれないが、ほんの少しだけ緊張が和らいだことは確かだ。


「じゃあ、プニちゃんの方にも話つけんとなぁ」


 むしろ先に話をつけるべきはプニカの方だとは思うのだが、やはりキャナは未だにプニカに対して苦手意識が強いのか。この分ではまともに説得にまで至れるのかどうかも怪しいところだ。


「それにしても、幾らかの問題を抱えているとはいえ、寿命を引き延ばすなんて実現できるものなんだな。この膨大な資料、進化論を囓っていた俺にも理解が及ばない」


 本来の部屋の壁や家具の位置が把握しづらいほどにディスプレイに埋め尽くされたこの部屋を改めて眺める。どういった理論を構築したのか、おそらく論文を読んだだけでは俺には理解できないだろう。


 それ以前の話として、先ほどネフラに渡された論文も、ものの一瞬で読破されたとはいえ、その文章量も尋常ではなかった。端から端までを読み、内容を理解するまでどれだけ掛かるかも分からない。


「端的にかいつまんで解説すると、クローン法を利用し、健康な状態な肉体を生成して、そこから不具合のある部分を挿げ替えるような施術となるのでござる。勿論、言葉でいうよりもずっと複雑なものなのでござるが」


「つまり、俺のクローンを造ると言うことになるのか?」


 先日のズーカイとの話し合いでも散々問題になっていたことだ。


「一口にクローン造る言うても、ゼックンを丸ごとそのまま造るっちゅう話やないけどなぁ。もっと細胞レベル、ミクロレベルのスケールで、遺伝子情報の組み替え辺りに突っ込んで、テロメアの実質的な復元みたいなことをするんよ」


 ……今のお前の喋り方、少しプニカに似ていたな、などと言ったら嫌な顔をされてしまいそうだ。


「あと、肝心のリスクの話をまだ明確に聞いていなかったが」


「ぁー……」


「んむぅー……」


 そこでどうして二人とも揃って曖昧な返事になるんだ。


「今言ったのは一つの例でござるから」


「やり方が変わる可能性もあるんよね」


 打ち合わせしたかのようにピッタリと答える。しかし、まるで答えになっていない。随分と濁した言い回しだ。


 まるでこれから何が行われるのか分からないみたいじゃないか。


「もしもクローン法への改正が行き届かなければ、細胞レベルの問題にも着手できない場合もあるのでござる。また、施術に関しても極論、頭部や心臓部といった重要な器官には触れられない制約がつく、という可能性もあるのでござる」


「ぁー、あと、根本的に複製と適合の問題が確証ないとこもあるから、ぇぇと、まぁ、筋力が下がるとか、記憶力に影響なんて可能性もあるようなぁ……」


 おい、待て。それはさすがに聞き捨てならない内容じゃないのか。


「思っていた以上に、リスクが大きい、ということか」


「す、全ての施術に関する問題が上手く認可されれば大丈夫でござるから」


「厄介なとこにだけピンポイントで規制掛かったりせえへんかったら大丈夫やから」


 お前らは二人とも俺を安心させる気はあるのか、ないのか、どっちなんだ。


「もちろん善処するのでござる」


 俺の不安を汲み取ってか、取り繕ったかのような作り笑顔を見せる。


「寿命だけ延ばしても、貧弱な肉体になったり、記憶障害になる可能性もあるということか」


「んーと、ま、まあ、それはほんま最悪のパターンだった場合やから……な?」


 やはりハッキリとした答えにはならないようだ。


 簡単な話ではない、それは最初から分かっていたことだ。


 俺の行く末もこいつら次第ということか。

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